特定の取り組みに対して、国から支給される助成金。なかでも「業務改善助成金」は、とある条件を達成することで「最大600万円」が支給されます。業務改善助成金を申請するためのポイントや具体的な事例について、藤井貴子社労士の著書『漫画と図解でわかる 会社をグンと成長させる方法 その悩み、助成金が解決してくれます!』(KADOKAWA)よりみていきましょう。

最大600万円!「業務改善助成金」完全ガイド

助成金は、事業資金を効率的に活用するための強力なツールです。特に「業務改善助成金」は、設備投資や業務効率化を目的とした投資で活用可能です。たとえば、500万円の設備投資を行った場合、助成金を活用することで最大375万円が支給され、実質125万円の負担で設備投資ができたことになります。この残った資金をさらに新たな投資に回すことで、事業の成長を加速させることができるのです。

この助成金の主なポイントは次の3つです。

助成金の申請ポイント、賃金は30円以上引き上げが条件

●賃金引き上げの要件

事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を30円以上引き上げることが求められます。

●助成対象経費

生産性向上や労働効率の増進に資する設備投資等が対象となります。具体的には、機器・設備の導入、経営コンサルティングの利用、人材育成・教育訓練の実施などが含まれます。

●助成率と上限額

助成率は、事業場内最低賃金の引き上げ前の金額によって異なります。たとえば、令和7年度(2025年度)は、1000円未満の場合は助成率が5分の4、1000円以上で4分の3となります。助成上限額は、引き上げる賃金額や労働者数に応じて変動し、最大で600万円が支給される場合があります。

この助成金を活用することで、企業は賃金引き上げによる人件費増加の負担を軽減しつつ、生産性向上のための投資を促進できます。結果として、従業員の処遇改善と企業の競争力強化の両立が期待されます。

助成金の成否を左右する2つのポイント

申請の成否は、以下の2つの要素にかかっています。

1.明確な目的と要件への適合

特定の要件があり、それを満たす必要があります。たとえば、単なるホームページ作成は対象外ですが、オンライン販売を可能にする決済システムを含む場合は対象になることがあります

2.数値化された効果の提示

助成金申請の審査では、設備導入や改修による具体的な効果を数値で示すことが求められます。たとえば、新しい機械を導入することで生産量が10倍になった場合や、新システム導入による残業時間削減が月間40時間に達する場合など、具体的な改善結果が評価されます

効果の具体的な数値の示し方としては、生産量の増加でいえば、従来の機械で1日10個の製品しか作れなかったものが、新しい設備を導入することで生産効率が飛躍的に向上し、100個に増加すれば、生産量は10倍。売上げの大幅な増加が見込めるというようなことです。

作業時間の短縮の場合は、エステサロンで新型脱毛器を導入すれば、施術時間が1時間から30分に短縮され、1日に対応可能な顧客数が倍増します。このような時間短縮による効率化は助成金の重要な評価ポイントです。

残業時間の削減については、たとえば経理作業を自動化するソフトウェアを導入することで、毎日2時間の残業が不要になると仮定します。これにより、月間40時間の労働時間削減が達成され、従業員の満足度向上にも繋がるというようなことです。

助成金と補助金の違いに注意…事例で確認

●販売経路の拡大

ECサイトや通販サイトの構築は、24時間体制の販売チャンネルを実現し、売上げを増加させる効果があります。具体例として、通販サイトの導入により新規顧客が月間20件増加し、売上げが20%以上伸びるケースが挙げられます。

●店舗改修による効率化

飲食店で料理提供と配膳の部屋を一体化することで、提供時間が20分から15分に短縮され、顧客回転率が向上します。また、オンライン配達サービス専用スペースの設置も、顧客対応効率を高める改修例として有効です。

単なる老朽化した設備の更新や、内装や床材の張り替え、社長や従業員の個人的な車両購入などには適用されません。業務効率や売上向上に直接結びつかないため、助成金の対象外となります。

助成金は、要件を満たせば基本的に申請が通る点で、補助金とは異なります。補助金では他の申請者との比較で選ばれる必要がありますが、助成金ではその心配はありません。助成金を効果的に活用することで、事業の成長を加速させることができます。申請のポイントを押さえ、最大600万円の助成金を活用し、次なるビジネスチャンスを掴みましょう。  

藤井 貴子

ノエル社会保険労務士事務所

代表

(※写真はイメージです/PIXTA)