
株価が割安のまま放置されている企業に対し、企業価値の向上を迫る「アクティビスト(物言う株主)」。その多くは外国人投資家だ。東京証券取引所が上場企業に「資本コストや株価を意識した経営」を要請したことを受け、ここ数年、海外アクティビストの活動が活発化している。「株価を意識した経営」とは、いったいどのようなものか。本稿では、『アクティビストが日本株式市場を大きく動かす 外国人投資家の思考法と儲け方』(菊地正俊著/日本実業出版社)から内容の一部を抜粋・再編集。資本効率の改善に成功している事例を取り上げ、今求められている経営の在り方を考える。
「敵対的買収」から「同意なき買収」への呼称変更は、経済産業省による業界再編促進策の1つ。M&A(合併・買収)で成長を続けるニデックが仕掛けた2つの「同意なきTOB(株式公開買い付け)」などを例に、日本でもこうした動きが広がる背景を読み解く。
株式市場と経営姿勢の改革は進行中
■ 独立社外取締役は増加傾向
2021年のコーポレートガバナンス・コードの改訂で、取締役会の3分の1以上の独立社外取締役の選任を求められたこともあり、3分の1以上の独立社外取締役を選任しているプライム市場の企業の比率は2020年の59%から2024年に98%に高まりました。
3分の1以上の独立社外取締役がいないプライム企業にはタマホーム、くら寿司などがあります。過半数の独立社外取締役の選任を求められるのは、上場子会社など支配株主のいるプライム市場の企業に限られるので、過半数の独立社外取締役を選任しているプライム市場の企業の比率は2020年6%→2024年20%にとどまります。
欧米企業では過半数の独立社外取締役が一般的であり、CEO以外はすべて社外取締役という大企業も少なくありません。JPモルガンアセットマネジメントは2022年の株主総会から、日本企業に対して、社外取締役の比率が総会後の取締役会で過半とならない場合、代表取締役の選任に原則反対する基準を導入しました。
・図表4-11 プライム企業における3分の1または過半数の独立社外取締役の選任状況
2024年4~6月に会社提案の取締役選任に対する反対比率はJPモルガンアセットマネジメントが23.6%と高かったですが、それ以上に反対比率が高かったのが三井住友DSアセットマネジメントの26.8%でした。野村アセットマネジメントは2024年11月以降、社外取締役の人数の最低水準を過半数に引き上げましたが、指名に関するガバナンスを整備している場合は、従来どおり3分の1の基準を適用するとしました。
ここで指名に関するガバナンスを整備している場合とは、法定または任意の指名委員会を設置し、その委員に2名以上の社外取締役を含み、かつ委員のうち社内取締役の人数が社外取締役の人数より少ない場合をいいます。
女性役員の選任を求める運用会社も増えていますが、独立社外取締役の数ばかりを求めると、社外取締役の質が低下する問題も指摘されます。慶応義塾大学大学院研究管理研究科の齋藤卓爾教授は2024年11月20日に開催したみずほ証券のセミナーで、「アカデミックな研究によると、取締役会改革・社外取締役の選任は、企業業績や企業行動に有意な影響を与えていない」と述べました。
■日本でも徐々に増える同意なき買収
近年、ストラテジックバイヤー(事業会社等)による同意なき買収が増えています。経済産業省は長年業界再編の遅れを問題視してきましたが、2023年8月に同省が策定した「企業買収における行動指針」が業界再編を促進しています。
工作機械のTAKISAWAは当初ニデックによる同意なき買収を拒否していましたが、最終的にはこの行動指針に基づいて買収を受け入れました。
運輸業界では2024年3月にAZ-COM丸和HDがC&FロジHDに対して、TOB価格3000円でTOBを表明しましたが、5月にC&FロジHDが反対を表明すると同時に、SG HDがホワイトナイトとして5740円でのTOBを提示しました。C&FロジHDはSG HDに買収されて、10月に上場廃止になりました。
SG HDはC&FロジHD買収が高値掴みとの指摘に対して、「割高とは思っていない。我々がこれから展開することとすり合わせながらバリュエーションしているので、しっかりと結果を出せる前提のプライシングだ」と反論しました(「週刊ダイヤモンド」2024年10月26日号)。
競争激化や人手不足の悪影響等を背景に、物流会社の再編期待が高まっており、投資家のあいだには第二のC&FロジHDを探す向きが出ています。「週刊ダイヤモンド」2024年10月26日号は、「大手といえども、株価低迷が続けば安定とはいかない。生き残りを懸けた『物流戦国時代』が開戦した」と指摘しました。
2024年は8月に公開された「ラストマイル」という映画がヒットしましたが、ヤマトHDはBtoCの配達で「ラストマイル」に強みを持つため、現在の株価を過小評価と考えるストラテジックバイヤーが出てきてもおかしくないでしょう。
■ ニデックが牧野フライス製作所への同意なきTOBを発表
2024年12月27日にニデックが牧野フライス製作所への同意なきTOBを発表し、牧野フライス製作所の株価はストップ高し、同業のツガミ、オークマ、高松機械工業などもツレ高しました。
2023年にTAKISAWAを買収したときと同様に(当初は同意なき買収でしたが、最終的には賛同)、ニデックは牧野フライス製作所について、「東証が1倍割れ企業に改善計画の開示を求め、注目度が高いPBRは長年低い水準にとどまる状況が続いている」と述べて、牧野フライス製作所の売上成長率や営業利益率の低さ、製品構成の偏り等の問題点を指摘しました。
ニデックはTOB価格1万1000円が過去1カ月・3カ月・半年の平均株価に55~74%のプレミアムを上乗せした水準であるうえ、過去最高値を上回る水準なので、市場で株式を取得したすべての株主が利益を確保できると述べました。ニデックが全株を取得する場合の買収金額は2500億円超と、M&Aで成長してきたニデックにとって過去最大のM&Aになります。
ニデックのTAKISAWA買収では、水面下の買収交渉が頓挫したため、同意なきTOBに乗り出しましたが、今回は牧野フライス製作所との経営統合の事前交渉なしに、突然買収に乗り出したという違いがありました。突然の同意なきTOBは日本企業として異例です。
牧野フライス製作所は2023年10月に発表した「企業価値向上に向けた取り組み」で、2027年度にROEを11%(2023年度実績は7.6%)へ引き上げる目標等を発表していましたが、PBRに関する言及はありませんでした。
牧野フライス製作所はニデックに対して、TOB開始時期の延期を要請するとともに、質問状を数度にわたって送りました。ニデックは2021年に発表した“Vision 2025”で、2025年度に売上4兆円、2030年度に10兆円を目指していますが、2025年度売上の達成はむずかしいと見られています。
ニデックが牧野フライス製作所の買収に成功すれば、工作機械の売上で約3450億円と、DMG森精機の約5500億円に次いで国内2位になりますが、ニデックは2035年に工作機械の売上を1兆円に増やし、世界首位を目指すとしているため、さらなるM&Aの可能性があるでしょう。
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