
定年退職を迎え、多くの人が夢見るセカンドライフ。長年勤め上げた会社を後にし、退職金で趣味に興じたり、夫婦でゆっくり旅行したりと、思い描く理想の形は人それぞれでしょう。しかし、その夢が、想像とはまったく異なる現実に直面し、大きな後悔へと変わってしまうケースも少なくありません。本記事では、Aさんの事例とともに老後のマネープランの重要性について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
セカンドライフの夢
60歳で定年退職したAさん。2,000万円の退職金を手にしたものの、老後のある夢を叶えるため、再雇用で年金受給開始の65歳まで働くことを選びます。
高校卒業後から働きはじめ、年金を納めてきました。Aさんの65歳からの年金額は月20万円。妻が10歳年下のため、妻が年金を受給するまでは、Aさんの厚生年金に家族手当である「配偶者加給」が月3万4,000円つきます。そのため、老後は贅沢しなければ、年金のみで日常生活を賄っていけそうです。
Aさんは車の運転が好きでいつかはロードトリップで日本一周をしたいと夢見ていました。65歳で退職したら、夢を実現したいと妻にも話していました。はじめこそ反対されましたが、10年ほどかけて説得。車で遠方まで旅行してみたり、ロードトリップの映画をみせたりして、妻も段々とその気に。退職後、ともに夢を叶えることを約束します。
資金面もしっかりと準備しました。65歳を迎え、貯蓄は退職金含めて4,000万円に「退職金を全部使ったとしても2,000万円残る。老後資金は2,000万円不足すると聞いたことがあるが、2,000万円残っているので大丈夫だろう」。
いよいよ憧れの日本一周を実行に移すときがきました。
豪華キャンピングカーで快適な旅
日本一周には自由気ままな旅を希望。奮発して豪華なキャンピングカーを購入します。こだわりにこだわり抜いた車です。カスタマイズやオプションによって値段は弾みましたが、きれい好きな妻も大満足でした。何日、何ヵ月かかってもストレスなく旅が満喫できると、出発の日まで指折り数えて高ぶる気持ちを抑えられずにいました。
「ああ。こんなにワクワクしたのはいつぶりだろう」
いよいよ出発。まずはゆっくりと北へ向かいます。運転には自信がありましたが、戸惑ったのが、駐車場の確保。高速を走っているときはサービスエリアが広く気にならなかったのですが、通常の車より大きいキャンピングカーに苦戦します。
出発から1ヵ月後に感じた異変
運転好きのAさんですが、1ヵ月過ぎたころから、異変を感じます。最初は毎日が物珍しいのと、豪華なキャンピングカーの住み心地もよかったのですが……。
これまで毎日、長時間運転することがなかったため、ゆっくり休みながら走っていても疲労がたまっていきます。せっかく観光していても早い時間には車に戻り休むように。
妻も運転免許証を持っているので、少しは運転してくれるだろうと期待していました。ところが大きな車の運転に慣れていないため、少し運転しただけで「やっぱり怖いから運転は任せたわ」とのんきに助手席に座っているか、後ろのソファーでくつろいでテレビ三昧。Aさんがひたすら運転を続けることになります。
しだいに、Aさんが休んでいるあいだ、妻が観光したり、ショッピングしたりと楽しんでいる姿に嫉妬すら覚え、大きなため息がでます。「こんなはずじゃなかったのに……」日々のストレスに耐えかね、さすがにこのまま続けるのは無理があると判断したAさん。日本を半周したところで断念し、妻に一度、帰宅しようと伝えます。「出直せばいいだけ、いつでも旅にいけるのだから」と帰宅することに。
しかし帰宅後、また大きな問題が。旅行前はサービスで車を販売店で預かってくれていましたが、Aさん宅の駐車場には車が大きすぎて止めることができなかったのです。困ったAさんは、販売店に相談します。預かってはもらえるものの、料金の高さにびっくりします。大きな車を持つには、思いのほか維持費がかかることを痛感します。「こんなことなら、レンタルにすればよかった」とまたまた大きなため息がでてしまいました。
夢が実現した「あと」
いま、Aさんは豪華キャンピングカーを手放そうかと悩んでいます。運転好きで日本一周に憧れ、夢が実現しましたが、安易に考えていたのが、車の維持費。退職金を夢につぎ込んだことはよしとしても、維持費はずっとかかってきます。計画性がなかったことを後悔しています。
夢が現実となったとき、想定外にかかる費用は夢には出てこなかったかもしれません。これからのことは、車とお金の専門家に相談してみますと、肩を落としていました。後悔先に立たずといわれるかもしれませんが、人生100年とすると、Aさんの場合はまだ30年以上残っています。気持ちの切り替えも必要でしょう。
三藤 桂子 社会保険労務士法人エニシアFP 代表

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