1800以上もの島々から成る東南アジアの国・インドネシア。日本の5倍の国土を持ち、人口は2.7億人と世界第4位を誇る。人口の多さにくわえて、国民の平均年齢が約29歳と若いこともあって音楽業界においても大きなマーケットとして見られている。それは音楽に限らず、日本のアニメやマンガ、ゲームといったコンテンツ産業にとっても同様だ。

 こうしたなか、2025年6月6日から8日にかけて、インドネシアの首都・ジャカルタで『Anime Festival Asia 2025(以下、『AFA』)』が開催された。同フェスはシンガポールに拠点を置くSOZO社が主催するアニメイベントで、東南アジア最大級のポップ・カルチャー・フェスティバルとしても知られる。

 この『AFA』はニコニコ超会議などを運営するドワンゴとも連携を密にしている。昨年から始まった取り組み「Asia Creators Cross」を通じてアライアンスを組み、2024年11月に開催された『AFA(シンガポール開催)』を皮切りに、世界のクリエイター同士を繋ぐ場を共創している。

 筆者が取材したインドネシアの『AFA』では、Teddyloid上坂すみれなど、さまざまな日本のビッグネームが登場。ACCからも、Hyper kawaii Musicを合言葉に、ボカロエレクトロレーベル「NEXTLIGHT」のレジデントメンバーとしてボカクラシーンでも存在感を放つpiccoや、『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』を始めとする音楽ゲームからアイドルへの楽曲提供まで、かわいい×かっこいいボカロックを武器に“破竹の勢い”で活躍するタケノコ少年らが参加した。

 今回筆者は、『AFA』への遠征を終えたばかりの2人にインタビューをおこなった。普段は関東圏を中心に活動する2人に、インドネシアジャカルタにおけるインターネットミュージックシーンにおけるトレンドの“ラグ”や現場の空気感、『ACC』を通じた遠征の価値など、話を聞いた。

【画像】インタビューカット&ジャカルタ現地での様子

■日本のイベントとは異なる“ダイナミックさ”を感じて

――まずは今回の『Anime Festival Asia 2025(以下、AFA)』に参加された率直な感想を聞かせてください。

picco:今まで海外のサブカルチャーボカロのイベントには参加したことがありましたけど、アニメ文化のイベントに行くのは初めてだったので、ふだん自分が参加しているものとの違いは感じました。今回の『AFA』はポスターとか内装の色彩が派手で、空間の大きさもダイナミックさを感じました。強いて言えば、コミケに近いのかなと思いましたね。

タケノコ少年:僕はもう素直にすごく楽しかったなあという感想ですね。向こうの同人文化みたいなものも感じることができて、すごく楽しかったです。

――piccoさんが言うように、イベントの性質もあってボカロファン以外のアニメやサブカルファンも多かったかと思います。そんななかで、インドネシアでのボカロ人気についてはどう感じましたか?

タケノコ少年:たしかにアニメファンの方も多かったように思うんですけど、『MIKU EXPO』のブースがあったり『プロセカ』のブースがあったり、ピアプロブースのメッセージボードにもいっぱい書き込まれていて、やっぱり人気なんだなと思いました。

picco:自分もピアプロボードは結構書き込まれているなと思いました。私が最初に見たときはイベントが始まったばかりの初日だったのでまだ書き込みも少なかったんですが、帰る頃には文字の上に文字があって、更にその上に文字があるみたいな感じで(笑)、めちゃくちゃびっしり書かれていましたね。あとは私のグッズを買ってくれる方の中でも『プロセカ』のグッズを身に着けている人が多かったので、インドネシアでも人気なんだなと思いました。

――『AFA』に来るファンの間で流行っている音楽の傾向など、感じたことはありましたか?

picco:「電音部」がすごく人気だなと思いましたね。グッズを身に着けている人も多かったですし、曲をかけてみたときの反響もすごく大きかったです。逆に、アニメは最後までどの世代が人気なのかは分からなかったです。サブカルとメイン、どちらがより人気かも分からないままでしたね。

■サブカル音楽における、トレンドの“ラグ”はどこから生まれているか

――piccoさんは旅のなかで、数年前に日本でめちゃくちゃ流行っていた曲が今すごく親しまれているとおっしゃっていましたよね。

picco:そうですね。日本国内でも“あるある”じゃないですか。東京が一番流行が早くて、ちょっと地方のイベントでDJしてみるとわずかに波の遅れを感じたりして。海外となると更に遅れるのかなというのは、アメリカや中国に行ったときにも思っていたんですけど、今回も同じことを思いました。今回かけるか迷っていた曲に『愛♡スクリ~ム!』(「ラブライブ!」シリーズのユニット・AiScReamの楽曲)があるんですけど、現場の空気もみたうえで、自分的にはちょっと早すぎるかなと思ってやめたんです。

――それって不思議な現象ですよね。インターネットの時代ですし、トレンドの時間差もなくなるのかと思いきや、国内外問わずトレンドの発信地から離れれば離れるほどそれが伝わる速度も少しずつ変わってくるという。

picco:国外だったら翻訳のラグがあるから分かるんですけど、国内でもあるのが面白いですよね。YouTubeだったら同時に世界に公開されているわけで、時間差はないはずですし。でも、遠くに行けば行くほど“思い入れに紐づく経験”がないのかなと思います。ひとりで楽しむ人が増えるというか。これはあくまで想像ですけど、「あの人の新作こうだったよね」みたいなのを一緒に話す人が周囲に少ないというのは関係しているのかなと思います。

――たしかに、東京ではアニクラやボカクラに遊びに行ったら誰かがディグってきたものすごい曲が流れている、みたいなことが日常的に起こりやすいですからね。

picco:東京の方が狭いジャンルでイベントをしても、ちゃんと人が来るという話はよく聞きます。

――そういう意味では、『AFA』は現地の人にとっては新しいものを仕入れに来たり、ファンの間で情報共有をおこなう場としても機能していそうですね。そのうえで、お二人はどのように三日間のパフォーマンスを組み立てていきましたか? piccoさんはセットリストを組まないタイプ、タケノコさんは組んでいくタイプと、対照的ですよね。

picco:今回はアニメフェスティバルということで、そもそもイベント全体の中でのボカロの割合がわからなかったんです。すごい端っこに追いやられて、ほとんど全部アニメというのも全然あり得るかなと思っていましたし。事前にざっくりと3日分のセットリストは作っていたんですけど、出番の前の物販でお客さんと話したり、身につけているグッズを見て流す曲は変えていきましたね。

 1日目は電音部ファンの集団が来たので、“電音部大盤振る舞い”みたいなセットリストにしました。あと、自分は3日目がファイナル的な感じで一番盛り上がると思っていたんですけど、帰国される方も多い関係で2日目がピークになりやすいということだったので、2日目と3日目の内容はかなり変えました。

――タケノコ少年さんはどうでしょうか。お客さんの反応や盛り上がるポイントを見て組み替えたりもしましたか?

タケノコ少年:ほとんどセットリストの組み替えはしなかったですね。唯一、2日目の最後の曲を変えたくらいでしょうか。もともと別の曲を流す予定だったのですが、自分の「そうだった!!」という曲に変えました。

 僕はDJ経験がめちゃくちゃ多いわけでもないので、現地の雰囲気を見ながらセットリストを変えていたpiccoさんは“大リスペクト人間”だなと思います(笑)。3日目、僕のステージが終わった後からもどんどん人を増やしていって、最後に大爆発みたいなところまで持っていっていたのが、本当にすごすぎるなって思ってました。

picco:ありがとうございます。でもタケノコさんの、セットリストを事前に組んでいる良さというのもすごくあって。私はその場で流す曲を決めていくので、下を見る時間がどうしても長くなるんですよね。あまりお客さんに対して煽りができないというか。でも逆にタケノコさんは流す曲が決まっている分、それが完璧で。すごくバランスが良かったと思います。

■出演を通じて、ふたりの“レアな共演”も

——三日目の最後には、2人がステージから飛び出してフロアに降りる瞬間もありましたね。あれは急きょ決まったんですよね?

picco:3日目も今まで通り、タケノコさんがDJをして、それから私がDJをする予定だったんです。でも2日目の夜に、「2人で出てるのに“2人で出てる感”がなさすぎるな」と思ったんですよね。

 DJイベントって、DJでつないだまま入れ替わったり、2人が同じ場にいて交代することがメジャーじゃないですか。でも今回はMCの方が出てきて交代する、という形だったので、ちょっと寂しいなあと思って。なので、2人で出れる曲を探して、一緒に出てみました。すごい良かったですよね。

タケノコ少年:いやあ、あれは良かったですね。

――タケノコ少年さんの熱の入ったパフォーマンスと、piccoさんの“アゲる選曲”を意識したDJとの相乗効果で大盛り上がりでしたね。ステージの前後ではグッズやCDの即売もおこないましたが、手応えは感じましたか?

タケノコ少年:僕、行く前は「本当に即売会に人が来るのだろうか?」くらいに思っていたんです(笑)。けど、特に2日目とかはステージが終わった後に、「ステージすごかった」って言って来てくれる人が多かったのでびっくりしました。今回、ギターピックとCDはそれなりの数を持って行ったんですけど、最終的に全部売り切れてくれたのでよかったです。

picco:自分のイメージでは、海外の物販は結構売れる印象があったんですけど、今回は事前情報で「物価の問題で売れにくいかもしれない」と聞いていて。でも思ったより皆さん手に取ってくださって、驚きましたね。

――パフォーマンスを見たことで「これは買うしかない」と思わせるような、そんな雰囲気もありました。即売会でファンの方と交流をして、どんなお話をされましたか?

タケノコ少年:印象的だったのが、ボカロPをやっている人でもともと僕のことを知ってくれている方が来てくれて。その方が「あなたは私のアイドルです」と言ってくれたんです。そうやって言ってくれる人がいるんだなあと思って、すごくびっくりしました。あとは「『プロセカ』に入っている曲はCDに収録されているか」と聞いてくれる人も結構いたので、そういうところからも知ってもらえているんだなと、改めて実感できましたね。

picco:私は、もともと自分のSpotifyリスナーの中でトップ5に入るくらいジャカルタの方が多いというのは知っていたんですけど、予想外に「あ、この曲が好きなんだ!」みたいな方もいて、再生数の多い楽曲だけではなく、まんべんなく聴いてくれている方も多いなと思いました。

――逆に、今回海外に行くにあたって、「このグッズを作っておけばよかったな」という反省点はありましたか?

タケノコ少年:今回僕はピックとステッカー、CDを2種類持っていったんですが、アクキーとか人形とか、手軽に身につけられるものを持っていったら良かったなとはすごく思いました。

picco:私は事前に海外出演が多い先輩に、どういうグッズが売れやすいか聞いていたんです。一番売れるのはポスターらしいんですけど、結局作らなかったんですよね。でも代わりに持って行ったクリアファイルがすごく人気だったので、ポスターも持っていったら好評だったんじゃないかと思います。

 あと缶バッジもすごく売れた印象がありました。小さいし、今回のグッズの中でも比較的お手頃な値段だったので手に取りやすかったのかな。日本では缶バッジは“痛バッグ”を作りたい人がドカッと買うイメージだったので、1個ずつこんなに売れるんだと思いました。

――piccoさんの缶バッジは、サイズが少し大きめでしたもんね。ポスターやクリアファイル然り、サインしやすいものが人気になるんですかね。

picco:そうかもしれないですね。そういえばずっと気になっていたんですけど、タケノコさんはあの小さいピックにサインしていたんですか……?

タケノコ少年:してました(笑)。

picco:私、バッジとかアクリルキーホルダーも結構狭いなあと思いながらサイン書いたんですけど、あのピックに書けるのか……?と思って(笑)。でも書いて渡してるように見えるしな、と気になって仕方が無くって。

タケノコ少年:ふだんは小さいタケノコと、自分の名前と日付を書いて渡してるんですけど、さすがに全部は書けなかったので、小さいタケノコと日付だけにして渡してました(笑)。

picco:そうだったんだ、すごい(笑)。タケノコ入りのピックでね。

■日本のイベントとは異なるファン層でも、愛は伝わる

――グッズの買い方ひとつとっても、結構違いましたね。ファンの人たちの人柄や会場の雰囲気について、日本との違いを感じる瞬間はありましたか?

picco:会場が明るかったのもあると思うんですけど、ペンライトを使っている人は少ないんだなと思いました。ニコニコ超会議とか、日本のこういう大きなイベントでは結構ペンライトが主流なので意外でしたね。あとは、お客さんが直接愛情を伝えようとしてくれてる感じはすごくありました。

タケノコ少年:そうですね。独特な言い回しで愛情を伝えてくれる人が結構いました。僕、「あなたの曲は『ワンピース』に登場するニカという笑いの神のようです」って言われて、なぜかニカのカードと一緒に写真を撮ったりもしましたし(笑)。あ、それこそ写真を撮る人も日本と比べて多かったかもしれません。インスタ文化なのか分からないですけど、一緒に写真を撮って、「インスタのアカウント教えて!」って言ってくる人は多かったです。

picco:たしかに、めちゃくちゃインスタ文化でしたよね。

タケノコ少年:なので、インドネシアに行って初めて「インスタをちゃんと動かした方がいいのかも」と思いました。

『ACC』という取り組みがクリエイターにもたらすもの

――今回の『AFA』出演は、ドワンゴさんがやられている『Asia Creators Cross』を通じての海外遠征でしたが、実際に今回参加してみて、この取り組みへどんな印象を抱きましたか?

タケノコ少年:前に海外へ行ったときは、移動や宿泊地もほとんど自分で手配して会場までの移動も自分でという感じだったんです。けど、今回はドワンゴの方々がアテンドに付いてくれて、ほぼお任せだったのですごく不安が少なかったですし、とにかく手厚くてありがたいなと思いました。

picco:私は海外に行くときは、性別的にも国によっては一人でタクシーに乗ることも難しい場合があるので、招待してくださった方がずっとついてきてくれるのかがマストの条件になってきてしまうんです。英語もしゃべれないですし。でも今回はパフォーマンス以外の心配事は何もない状態だったのですごく良かったですね。

 あと、帯同するスタッフのみなさんがいらっしゃることで、写真や映像などの記録を残してもらえるのもありがたかったです。いつも自分ではスタッフさんを付けないことが多いのでインカメの写真しか残せないですし、ステージ中も誰かにお願いしないといけなかったりして、せっかくの遠征なのに勿体ないと思っていて。その点、今回は綺麗に記録を残してもらえてありがたかったですね。

――今回の遠征を通じて気が付いたことや、今回を経てやってみたいことなどがあれば教えてください。

タケノコ少年:今回の海外遠征はとても楽しかったので、もっといろんな国に行ってみたいと思うようになりましたね。もっと大きいステージでもやってみたいです。あとはインスタをちゃんと動かして、海外にも向けて発信していけたらと思っています。

picco:私も同じく、楽しい旅だったので、いろんな国に行ってみたいですね。今回、グッズやインスタなど、海外展開やDJ活動のために頑張ってきた部分が報われたなと感じたので、今後も継続してやっていきたいです。

――ありがとうございます。今後、『Asia Creators Cross』の取り組みを通じて、piccoさんやタケノコさんのようにさまざまなクリエイターが世界に音楽を届けていくと思います。楽しみなことや、こんなことが起きたらいいなといった期待していることがあれば教えてください。

タケノコ少年:たとえば遠征に行った先で、現地のクリエイターと近い距離で話をしたり交流したりして、それによって現地のCMであったり、アイドルへの楽曲提供であったり、日本にいるだけでは中々できないであろう仕事につながったりするようになれば面白いなと思います。今回出演させてもらったステージでも、別の時間帯には現地のバンドや現地のVTuberが出演していたので、そういうところの繋がりからいろんなことに広がっていったら面白いなと思います。

picco:今回は『AFA』のいちステージを2人で1時間弱いただく形だったんですけど、その規模がどんどん大きくなったらうれしいですね。たとえば今回は2人でしたけど、それが10人くらいになるとか、そもそもステージが大きくなるとか。単独でイベントをしたり、それがツアーになったり、そういうこともしてみたいですよね。ライブハウスを借りて現地で『ボカクラ』をやるとかも面白いと思いますし、そういうイベントのブッキングもやってみたいです。『ACC』を通じて、ボカロPの海外進出をどんどん大きなものにしていけたらいいですね。

(取材・写真=三沢光汰/構成=村上麗奈)

■「Asia Creators Cross」について

 日本のクリエイターが世界で、世界のクリエイターが日本で、相互に活躍できる機会の創出を目的としたクリエイター連携プログラム。

 今後も、世界中の影響力のあるさまざまなイベントを通じて、クリエイターがより多くのファン、共に制作を行う仲間、クライアントとボーダレスに出会える場を広げ、コミュニティの構築やリソースの共有、ネットワーキングを促進していきます。

■『The VOCALOID Collection ~2025 Summer~』

2025年8月22日(金)~8月25日(月)開催決定!

『Anime Festival Asia』タケノコ少年(左)、picco(右)