弊社がやばい会社か判定してほしい──。そんなタイトルの「はてな匿名ダイアリー」が話題になっている。

投稿には「始業30分前の出勤と清掃が義務」「始業15分前から朝礼」「朝礼で月1回のスピーチが当番制で、内容が不十分だと叱責される」、16項目にわたるの"チェックポイント"が列挙されている(追記分を含む)。

すでに退職したという投稿者によると、始業前に出社しても「給料は出るわけねえじゃん」とのこと。コメント欄には「昭和の中小企業なら普通」「違法行為がまじっているけど、年収と仕事の負荷次第で我慢できるかも」という声が上がっている。

はたして、この会社は「やばい」のか。この記事では、今井俊裕弁護士に法的観点から判定してもらった。読者のみなさんも、自分の職場と照らし合わせて考えてほしい。

●掃除も朝礼も義務ならば「労働時間」に含まれる

(1)始業30分前に出勤、清掃することが義務

清掃が義務ならば、その時間は労働時間に含まれます。したがって、会社はその分の賃金を支払う義務があります。

適正に就業規則が周知されているならば、その規則は会社と労働者との間の労働条件を規律するルールになりますが、この会社の場合は、会社がそのルールを遵守していないことになります。いずれにせよ、無給ならば違法です。

(2)始業15分前から朝礼

朝礼も、通常は会社の業務命令に基づくものですから、労働時間に含まれます。無給の場合は違法です。

(3)朝礼でスピーチが当番制で月一程度回ってくる、ちゃんとした内容を考えないと叱責

ピーチ自体は違法とまでは言えません。ただし叱責の態様や強度によっては違法になります。

(4)朝礼で毎朝社訓を唱和

一概に違法とはいえません。ただし、特定の政治的な思想や、経営者を神格化して崇拝することを強制する事柄が含まれているような場合は、程度によっては違法と評価される可能性があります。

(5)社員旅行積立金が給料天引きされる

賃金は法律で認められた項目(所得税社会保険料、雇用保険料など)以外、原則として天引きできません。

ただし、過半数代表者と会社との間で、具体的な費目と金額を定めた協定書を締結していれば、天引きも有効です。とはいっても、その費目や金額は事理明白なものであり、社会通念上相当なものでなければなりません。

社員旅行積立金も、社会通念上相当な費用と金額を定めた協定書を締結していれば、天引きは適法です。逆に言えば、協定書がない場合、たとえ従業員本人の同意があっても天引きは違法です。

●社長に気に入られる→出世する・・・違法というより不適切

(6)定期的バーベキューなどのイベントが土日にある

イベント参加が、会社の命令に基づく義務といえるか否かによると思います。義務であるならば、(特に得意先の接待とかではなく社内だけでの)バーベキューなどは、業務上必要性のある休日労働と言いがたく、違法の可能性があります。

(7)イベントを企画するなどして社長に気にいられると出世する

昇進や昇格は、それぞれの従業員の勤続年数や経験年数のほか、能力や成績、勤務態度によって判断されるべきです。社長に気に入られると出世するという状況は、違法というよりも、不適切です。

しかしそれを超えて、一部の従業員は社長に気に入られて出世しているのに、ある従業員だけが能力や成績が優れているにも関わらずイベントを企画していないことを理由として昇格、昇進していないならば、不公平な人事として、違法の側面も生じます。

(8)イベント不参加などで社長の不興を買うと給料が全然上がらない

(7)と同じように不公平な人事と認められれば、違法の側面が生じます。

(9)建前として目標管理や多面評価などあるが全ては社長の好き嫌いが評価のすべて

これも(7)や(8)と同様の問題意識だと思います。

(10)プライバシーマークを取得しているが複数の拠点が存在しないことになっている

プラバシーマークはISOと異なり、事業所や部門ごとではなく、審査にパスした法人ごとに付与されるものです。ですから、審査対象企業の国内にある全拠点が審査対象になります。あえて複数の拠点を外して申請したのであれば、プライバシーマークの付与機関が審査について定めた約款に反する行為です。

●労働条件通知書に「手当」支給条件が定めていなければ違法

(11)本社勤務はなぜか手当や補助が減額されるので手取りが減る(異動後に知る)

手当や補助は、広い意味で賃金に該当するので、賃金規定に支給条件が定められていなければなりません。賃金規程を作成する義務のない従業員数の規模の会社であれば、雇用契約の内容を定めた労働条件通知書に記載されていなければなりません。

雇い入れ当初はそれら手当や補助は支給されていたのに、本社配属になれば支給しないと賃金規程や労働条件通知書に記載ないのであれば、不支給は違法です。

(12)本社勤務はなぜか土曜出勤日があり完全週休2日制じゃない(募集要項は完全週休2日、異動後に知る)

これも(11)と同じような問題意識ですね。所定休日は就業規則や労働条件通知書に記載されていなければなりません。本社配属の場合は、休日に関する労働条件が変動する旨の記載がないにもかかわらず、土曜日が休日ではない扱いを受けるのであれば、それは違法です。

●完全な家族経営、適正な株主総会を経ていれば「仕方ない」

(13)完全に家族経営、社長の妻が副社長、妻の父(社長の義父)が外部取締役

取締役は、株式会社などであれば株主総会で選任されるため、社長の親族だけで占められていたとしても、適正な株主総会決議を経ているのであれば、仕方ないと思います。

(14)30にも満たない社長の息子が入社後即本部長(取締役)に就任

これは(13)と同じような問題意識だと思われます。適正な人事評価の観点からは疑問が残ります。

(15)息子に激甘。私用で社用車を使った上に盛大に事故って廃車にしたのに全くのお咎めなし

懲戒処分の種類や程度は、就業規則に定められているのが通常です。社長の親族に限ってそれに則った処分がされず、一方で社長の親族以外の従業員の場合は厳格な懲戒処分を受けているのであれば、それは不公平な人事です。

もしも社長の身内以外の従業員に対して厳しい懲戒処分を下していれば、違法の側面があります。

(16)プライバシーマーク監査の日にはパートさんやインターンの子たちは存在しないことにするため出社禁止の業務命令が下る

プライバシーマークの審査料は従業員の人数によって異なるようです。ですから、審査にあたって虚偽の申請をしたならばそれは(10)と同じ問題意識ですね。

また、不当な理由で出勤停止の扱いを受けたパートタイマーやインターンに対して、会社がその日の給料を支払わないのであれば、違法です。

会社の責めに帰すべき事由で、パートタイマーやインターンは出勤できなかったのですから、会社はその日の給料を全額支払う義務があります。

【取材協力弁護士】
今井 俊裕(いまい・としひろ)弁護士
1999年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における、開発審査会の委員、感染症診査協議会の委員を歴任。
事務所名:今井法律事務所
事務所URL:http://www.imai-lawoffice.jp/index.html

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