
スイス連邦工科大学チューリッヒ校)の研究チームが開発した「生きた建材」が、持続可能な都市設計の可能性を大きく広げようとしている。
この建材は光合成を行うシアノバクテリア(藍藻)を内部に含み、大気中の二酸化炭素を効率的に吸収して自ら成長する。
さらに二酸化炭素は鉱物としても蓄積されるため、長期間にわたり安定して炭素を貯蔵できるのが特長だ。
すでにヴェネツィアやミラノの建築展示で実証実験が進んでおり、都市そのものが二酸化炭素を吸収する時代がやってくるのかもしれない。
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この研究は『Nature Communications[https://www.nature.com/articles/s41467-025-58761-y]』(2025年4月23日付)に掲載された。
光合成で二酸化炭素を吸収する新しい建材
チューリッヒ工科大学の高分子工学者マーク・ティビット教授らが率いる学際的研究チームが開発した二酸化炭素を吸収する”生きた建材”は、「シアノバクテリア(藍藻:らんそう)」の力を利用したものだ。
シアノバクテリアは「光合成をする細菌」の一種で、たとえば池や川などにある青っぽいドロッとしたものがそれだ。植物のように光合成でき、太古の地球で酸素を増やした立役者でもある。
きわめて効率的に光合成を行い、わずかな光でも二酸化炭素と水から自分の体(バイオマス)を作り、成長することができる。
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それと同時に、光合成によってシアノバクテリア周囲の化学環境が変化し、石灰などの固体炭酸塩が沈澱する。
こうした鉱物は、バイオマスよりも安定した形で炭素を蓄えてくれる。
シアノバクテリアをハイドロゲルで包み込む
今回開発された「光合成型生体材料」は、このシアノバクテリアをハイドロゲル(柔らかく水分を多く含む高分子ポリマー)に包み込んだもので、その活動によって二酸化炭素を吸収することができる。
シアノバクテリアが封入されるハイドロゲルは、水分をたっぷり含んだ高分子ポリマーのゲルで、光・二酸化炭素、水・栄養素が内部に運ばれ、藍藻も内部で均一に広がれるような、高分子ネットワークが形成されている。
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さらに3Dプリンターによって、表面積を広げ、光の透過性を高め、栄養が流れやすいようにもなっている。
これは藻類を長くかつ効率的に活動できるようにするための工夫だ。
この設計により、シアノバクテリアは400日以上にもわたり生き続け、材料1gあたり最大26mgの二酸化炭素を鉱物として蓄積する。
これは従来の生物材料を大きく上回り、従来のリサイクルコンクリートの3~4倍高い二酸化炭素吸収性能がある。

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建物が二酸化炭素の貯蔵庫になる未来
この生きた建材は、すでに実験的な建築作品として活用されている。
たとえばヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展では、カナダ館のインスタレーションとして展示されている。
「ピコプランクトニクス(Picoplanktonics)」と題された作品は、3mの“木の幹”のようなオブジェで、1本で年間約18kgの二酸化炭素を吸収可能だという。これは、温帯に生息する樹齢20年の松に相当する。

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また第24回ミラノ・トリエンナーレでは、木の薄板の上に微生物が緑の膜を形成し、素材を時間と共に変化させる「ダフネの皮膚(Dafne’s Skin)」が展示された。
腐敗ではなく、成長と吸収の過程を“美”として見せる試みだ。

ティビット教授は今後の展望として、「この素材を建物の外壁コーティングとして利用することで、建築のライフサイクル全体を通じて二酸化炭素を吸収させたいですね」と語る。
持続可能な炭素固定の手段として、建築そのものが地球環境の回復に貢献する未来が現実味を帯びてきた。
References: A building material that lives and stores carbon[https://www.eurekalert.org/news-releases/1088213]
本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに独自の視点で情報を再整理・編集しています。

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