
2012年以降に生まれたα世代。小学生のおよそ2割がSNSで「知らない人」とやりとりをし、実際に犯罪に巻き込まれるケースも後を絶ちません。多くのSNSが13歳未満の利用を禁じているにもかかわらず、なぜ子どもたちは危険なオンライン環境にアクセスできてしまうのでしょうか本稿では、ニッセイ基礎研究所の廣瀬涼氏が、α世代のリアルなSNS利用実態について詳しく解説します。
1――小学生のおよそ2割がSNS上で“知らない人”とやりとりをしている
東京都が都内在住の小・中・高校生にスマートフォンなどを持たせている保護者2,000名を対象に実施した「令和6年度 家庭における青少年のスマートフォン等の利用等に関する調査1」によると、小学生のおよそ2割がSNS上で“知らない人”とやりとりをしているという実態が明らかになった。なかでも、小学4~6年生では23.6%、小学1~3年生でも22.2%が該当しており、学年が上がるにつれてその割合が高まる傾向が見られる。特筆すべきは、小学4~6年生の数値が前年度比で9.4ポイントも増加している点である。
やりとりの内容を小学4~6年生に限定して見ると、「SNSでのメッセージの送受信」が61.9%で最も多く、次いで「音声通話・ビデオ通話をした」が42.4%となっている。また、「顔や体の写真・動画の送受信」が13.6%、「実際に直接会った」が10.2%と、実生活に影響を及ぼしかねないリスクの高い行動も確認されている。さらに深刻なのは、「犯罪と関係しているかもしれないバイトや仕事についてやりとりしていた」ケースも3.4%存在しており、低年齢層においてもSNSを通じた犯罪リスクが決して無視できない状況であることが浮き彫りになっている。
MMD研究所が、2022年以降に初めてスマートフォンを持った子どもがいる親1,000人を対象に実施した「2023年1月 初めてスマートフォンを持つ子どもと親への意識調査2」によると、小学生の26.8%が「トラブルに巻き込まれた経験がある」と回答している。中でも、実際にトラブルに遭遇したと答えた小学生のうち、最も多かったのは、「不適切な写真を送るように求められた、または意思に反して送られてきた」というケースで、その割合は18.3%にのぼった。

なお、こうした実態を反映するように、警察庁のまとめによれば、SNSやオンラインゲームを通じて犯罪に巻き込まれた18歳未満の子どもは、2024年の1年間で1,486人にのぼっている。内訳を見ると、中学生が715人と最多で、高校生が582人、小学生は136人となっており、小学生の被害者数は過去2番目に多い数字である3。犯罪の内容としては、「不同意わいせつ」や「略取誘拐」などの“重要犯罪”が最も多く、計458人。続いて、「児童ポルノ」が414人、「青少年保護育成条例違反」が345人と深刻なケースが相次いでいる。スマートフォンの低年齢化が進むなかで、小学生の被害も年々増加傾向にあることが、こうしたデータからも明らかとなっている。
このような問題意識から、本稿では、α世代(2012年~2024年生まれ)におけるSNSの使用状況を起点に、彼らのコミュニケーションや情報取得の環境について考察する。また、多くのSNSが13歳未満の利用を制限しているにもかかわらず、なぜ小学生がSNSを利用できてしまっているのか、その背景や実態についても考察したい。
1 都民安全総合対策本部「令和6年度 家庭における青少年のスマートフォン等の利用等に関する調査」結果 2025/04/30 https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2025/04/2025043010 2 MMD研究所「スマホデビュー時期は過半数が小学生、小6年が最多で14.9% トラブル経験は小学生が26.8%で増加傾向に トラブル回避で4人に1人が「何をすればいいか分からない」子どもの勉強時のスマホ活用は63.7%、お小遣いのキャッシュレス送金意向は45.4%と5.1pt増」 2023/01/23 https://mmdlabo.jp/investigation/detail_2170.html 3 読売新聞オンライン「オンラインゲーム通じた18歳未満の犯罪被害、2019年から倍増…親しくなって個人情報聞き出す」2025/03/13 https://www.yomiuri.co.jp/national/20250313-OYT1T50062/
2――α世代におけるSNSの使用状況
まず、α世代(2012年頃~2024年に生まれた層)におけるSNSの使用状況を見てみよう。NTTドコモ モバイル社会研究所が2024年11月に実施した調査4によると、SNS(LINE、TikTok、Instagram、X(旧Twitter))の利用率は、小学4~6年生で63%、小学1~3年生で31%だった。具体的な内訳をみると、低学年(小学1~3年生)ではLINEの利用率が20%と最も高く、次いでTikTokが12%、XとInstagramはいずれも1%にとどまっている。
高学年(小学4~6年生)になると、LINEが61%、TikTokが29%、Instagramが15%、Xが7%といずれも増加傾向を示している。全体として、小学生のSNS利用は学年が上がるにつれて増加はするものの、メッセージ交換を目的としたLINEの使用が主であることがわかる。
一方で、総務省情報通信政策研究所「令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査5」によれば、10代の1日あたりのSNS平均利用時間は平日で56分、動画共有サービスの利用時間は1時間52分と、動画コンテンツの方が長時間消費されている実態も明らかになっている。
また、産業能率大学の小々馬敦教授が2023年に出版した著書『新消費をつくるα世代』では、2022年9月に全国の10~40歳を対象に行われた「情報接触・価値観・消費行動」に関する調査結果が紹介されているが、この調査によれば、α世代が日常的に“自分の意思で”使っているデバイスは、テレビ(88%)が最も多く、次いでゲーム機(73%)、スマートフォン(50%)、タブレット(49%)、PC(24%)の順となっている。こうしたデバイス環境のもとで、個人アカウントを登録してSNSを利用しているα世代は39%にとどまり、実に61%がSNSを使用していないという結果が明らかになった。
では、SNSをほとんど使っていない彼らは、一体どこから情報を得ているのだろうか。同書で実施されたα世代へのインタビューによると、もっとも多くの情報源は「友人との会話」であり、次に多かったのがYouTubeであった。一方、XやInstagramといった発信型SNSについては、「見たことがない」と回答した子どもが6割以上にのぼり、これらのSNSとは距離のある情報環境にいることがわかる。
また、株式会社教育ネットが全国の小中学生3万3,294人を対象に実施した「ネット利用における実態調査(2023年4月~2024年3月)6」においても、小学生に最も多く使われているSNSはYouTubeであり、次いでLINEの利用率が高いことがわかっている。

このような背景を踏まえると、YouTubeがα世代にとって最も中心的な情報接触メディアとなっていることがわかる。実際、YouTubeは一般的には「オンライン動画共有プラットフォーム」として分類されるが、その認識は世代によって大きく異なる。2024年に株式会社ブックリスタが10代~40代の男女600人を対象に実施した「年代別SNSの意識調査7」によると、「YouTubeをSNSだと認識している」と答えた割合は、10代で77.1%と圧倒的に高かった。一方で、20代は31.3%、30代は25.8%、40代は32.3%と、他の世代ではいずれも3割前後にとどまっている。
この結果は、α世代を含む若年層にとって、YouTubeが「他者とつながる場」として機能していることを示唆していると考えられる。動画にコメントを投稿し、さらにそのコメントに対してリアクションがつく――こうした「ゆるやかな双方向性」のやりとりが、彼らにとってはSNS的なつながりとして認識されているのだろう。
一方、中学生になるとSNSの利用の幅が広がり、TikTokやInstagramなど、より発信性の高いプラットフォームの使用率も上昇する傾向が見られる。前述した、株式会社教育ネットにおいても、世代が上がるにつれてXやTikTok、InstagramなどのSNSの利用率が高まっていることが確認されており、α世代とそれ以上の世代とでは、情報接触のスタイルに明確な違いがあることがうかがえる。
そもそもYouTubeやLINEは“SNS”と分類されることが多いものの、それぞれ特定の利用目的に特化したプラットフォームである。たとえば、YouTubeは主に動画視聴を目的としたメディア型サービスであり、視聴者は基本的に一方的にコンテンツを「受け取る」立場にある。一方、LINEは、親しい人との非公開かつクローズドなメッセージのやりとりを前提としたコミュニケーションツールである。
これに対し、XやInstagram、TikTokといったプラットフォームは、自ら情報を発信し、それに対する他者の反応を通じてつながりを広げていく「公開型・発信型」のSNSである。我々が日常的に「情報に遭遇する」体験の多くは、こうした“発信型”SNS上で絶え間なく流れてくる情報を通じたものである。
4 モバイル社会研究所「小学生高学年のSNS利用率上昇傾向続き、3人に2人が利用している」2025/04/10 https://www.moba-ken.jp/project/children/kodomo20250410.html 5 総務省情報通信政策研究所「令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」令和6年6月 https://www.soumu.go.jp/main_content/000953019.pdf 6 教育ネット総合研究所「~2023年度ネット利用における実態調査結果報告 第2弾~LINE利用率が小学校高学年で増加。小学6年生は67%」2024/07/12: https://lab.edu-net.co.jp/Press_release/PRESS_2024_2 7 まいどなニュース情報部「「“YouTube”はSNS?」…10代と20代以上で認識の違いが浮き彫りに」2024/08/01 https://maidonanews.jp/article/15364442
3――「使えないはずのSNS」を、なぜ小学生は使っているのか?
では、なぜ小学生はこのような発信型SNSを利用していないのだろうか。この背景には、年齢制限の存在がある。InstagramやTikTok、Xといった主要SNSは、いずれも13歳以上を利用条件としており、小学生が正規にアカウントを作成することはできないからだ。そのため、彼らの主な情報源は、年齢制限が比較的緩やかで視聴中心のYouTubeのようなメディアに自然と偏っていく傾向がある。

しかし、前述の総務省や株式会社教育ネットの調査が示すように、実際には一部の小学生が、本来は年齢制限により使用が認められていないSNSを利用している実態がある。たとえば、株式会社教育ネットの調査の小学6年生における発信型SNSの利用率を見ると、TikTokが40%、InstagramとXがいずれも21%に達している。

本来であれば13歳未満はアカウントを作成できないはずのこれらのプラットフォームを、なぜ小学生が使用できてしまっているのか。いくつかその要因を考えてみた。
ひとつは、親のスマートフォンを借りて閲覧する、あるいは保護者のアカウントを使ってログインするといった“間接的な利用”のケースである。とくにTikTokは小学生の関心も高く、親の管理のもとで視聴している子どもも少なくない。
次に、年齢を偽って登録しているケースである。多くのSNSでは、生年月日の入力によって年齢制限を設けてはいるものの、厳密な本人確認までは行われていない。そのため、仮に10歳であっても、自分を16歳と偽ってアカウントを作成することは技術的には可能である。興味があれば、実際の年齢を満たしていなくとも、登録の方法を自分で調べたり、身近な友人や兄姉から教わってアカウントを作る──という行動は、いまや決して珍しいことではない。
さらに、家庭ごとの“親のリテラシー差”も少なからず影響している。「フィルターをかける」「親の目の届く場所でしか使わせない」「使用時間を制限する」といった明確なルールを設ける家庭や「スマートフォンの使用を一切禁止している」といった厳格な対応を取る家庭もある。通わせる学校によってはスマホを禁止している学校も存在する。
その一方で、「スマホを使う上でのルールを設けていない」「ノンフィルターで好きなだけ使わせる」という家庭も存在する。総務省の「2022年 我が国における青少年のインターネット利用に係るペアレンタルコントロールに関する調査8」よると、スマートフォンの利用に関する家庭内ルールが1つもない家庭が37.1%にも上る。

すり抜けられるフィルタリング…家庭で広がる“リテラシー格差”
また、インターネット利用時に有害なウェブサイトやアプリケーションへのアクセスを制限する「フィルタリングサービス」の利用率をみると、未就学児で22.4%、小学低学年で38.7%、小学高学年で47.2%となっている。未就学児においては、親と共用の利用が多い事が、利用率が低い要因として考えられる。実際に同調査のスマートフォン利用形態をみると、自分専用のスマホを所有・利用している割合は、未就学では26.4%程度である。しかし、小学低学年で52.8%、小学高学年で71.5%と、所有率も半数を超える中で、小学低学年で6割、小学高学年で約半数は、フィルタリングの制限なしにスマホを使用していることも明らかになった。

ただ、フィルタリングを利用している家庭においても、YouTubeなどで公開されているフィルタリング回避方法の動画を参照したり、友達に抜け穴を教えてもらう者もいる。実際に、内閣府の「令和2年度青少年のインターネット利用環境実態調査」では、「保護者が設定したパスワードを、保護者の知らないうちに解除したことがある」が 7.9%いたことがわかっている。

情報接触に限らず、子どものアプリのダウンロードやSNSの利用においても、家庭での差がある。前述した総務省の「2022年 我が国における青少年のインターネット利用に係るペアレンタルコントロールに関する調査」によれば、子どものスマートフォン利用でアプリを「本人が自由にダウンロードできる」と答えた割合は未就学で9.0%、小学低学年で11.3%、小学高学年で14.0%と、1割の小学生が自由にアプリをダウンロードしていることがわかっている。
併せて、アプリ・サービスの対象とする年齢や推奨する年齢に関して、「確認しているか、そして確認したものは守らせているか」を聞いているが、未就学~小学生であっても、保護者の32.0~35.0%はアプリ・サービスの対象年齢・推奨年齢を事前に確認していないようだ。

また東京都が行った「令和6年家庭における青少年のスマートフォン等の利用等に関する調査9」によると、約3割の保護者がそもそもSNSに年齢制限があることを「知らなかった」と回答しているなど、監督者の子供のスマートフォン利用に関する関心度が、子どもたちに自由な情報探索環境を与えてしまっているともいえる。

このような、子どものスマートフォンが取り巻く諸問題への関心は、保護者のネットリテラシー向上と共に強まるのだろうか。前述した総務省の「我が国における青少年のインターネット利用に係るペアレンタルコントロールに関する調査」では、「お子様の学齢やインターネット利用状況に応じた、有効なペアレンタルコントロールの取り組みが簡単にわかる“フローチャート式の資料”があると仮定した場合、あなたはそれを利用したいと思いますか?」という問いに対し、全体の40.4%の保護者が「利用したい」と回答しており、一定のニーズが存在することが明らかとなった。子どもの年齢が低いほどその意向が高まる傾向にあり、未就学児の保護者では56.0%が「利用したい」と回答している。
しかし、これは家庭内にすでに独自のルールがあるかどうかによっても傾向に差が見られ、すでに家庭内ルールを運用している保護者の方が、フローチャート資料の利用意向が高いのに対し、ルールが存在しない家庭では利用意向が相対的に低い結果となっている。

8 総務省「2022年 我が国における青少年のインターネット利用に係るペアレンタルコントロールに関する調査」https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban08_03000375.html 9 都民安全総合対策本部「令和6年度 家庭における青少年のスマートフォン等の利用等に関する調査」 https://www.seikatubunka.metro.tokyo.lg.jp/tomin_anzen/about/tyousa-keikaku/tyosa-keikaku/sumaho-tyosa
4――まとめ
このように、保護者のネットリテラシーの違いや、子どものスマートフォン利用に対する関心度の差が、子ども同士の情報取得環境の格差を生み出しており、その結果、本来であれば使用できないSNSやアプリを、ある子は自由に活用できてしまうという状況が生まれている。
もちろん、現代のようにデジタルデバイスが普及した社会において、「スマホを持っていない」「SNSを使っていない」ことが仲間外れの要因になるケースもある。そうした背景から、「友達と同じような情報環境にいたい」「会話に置いていかれたくない」と考える子どもや保護者の気持ちも理解できる。
さらに、推し活やエンタメ消費に関しても、主要な情報源はSNSであり、TikTokなどが若年層にとって“当たり前”の娯楽メディアになっている。このような環境では、たとえ年齢制限が設けられていたとしても、それを乗り越えてSNSにアクセスしようとする動機が高まるのは当然とも言える。
一方で、フィルタリングやペアレンタルコントロールを丁寧に活用して情報環境を制限している家庭の保護者にとっては、その制限の“外”から子どもが情報に触れてしまう現実に対し、不安やもどかしさを感じることもあるだろう。例えば、友達からの伝聞や実際に情報制限のないスマホを使わせてもらう(見せてもらう)など、親の目が届かない場面で、子どもが本来は保護者とのルールでは触れることができない情報と接触する機会が日常的に存在している。
あくまでも理想論ではあるが、子ども自身が、今スマホを使えているという自由に対して責任を持ち、親とのルールやサイトやサービスの利用規約を守ることが、スマホにまつわる様々な問題から自分たち自身の身を守る手段になるはずである。しかし、結局のところ、興味を持った子どもは、たとえ家庭で制限されていても、何らかの手段でそのコンテンツにたどり着こうとするし、「知りたい」という欲求は、容易に制御できるものではない。だからこそ、ゾーニングやペアレンタルコントロール、家庭内の使用上のルールは、“ただ制限するため”のものではなく、子どもとの間で“適切な距離感”を一緒に考えるプロセスなのであり、大変重要なアクションと考えるべきではないだろうか。

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