2017年10月に発覚した「座間9人殺害事件」の白石隆浩死刑囚の死刑が、6月27日に執行された。ニュース速報で「執行があった」と知ったが、誰の死刑かはわからなかった。その後、白石死刑囚刑事裁判を傍聴していた女性からの電話で、白石であることを知った。

筆者が、白石死刑囚と面会ができたのは3回。いずれも立川拘置所だった。最初は2019年4月2日菅義偉官房長官(当時)が新年号「令和」を発表した日だ。

世間の関心が元号に向かうこの日に面会を試みれば、応じてもらえるかもしれない──。そう考えて、拘置所へ向かった。面会申請をして約30分待った後、面会室に通された。(ライター・渋井哲也)

●「あっ『ネットナンパ』って書いていた」

白石死刑囚は紺のTシャツに緑のパンツ姿で、髪は長かった。深くお辞儀をして現れ、ノートに名前を書いて、自己紹介した。「以前、手紙を送ったが、覚えているか」と聞くと、彼は「手紙が多すぎてあまり覚えていないですが、あっ『ネットナンパ』って書いていた。思い出しました」と答えた。

この「ネットナンパ」という言葉は、筆者が警察に勾留中の白石に送った手紙に書いたものだ。面会申請書に記載された名前を見て、過去の手紙を思い出したのか、あるいは読んだことをアピールしたのかもしれない。

筆者は当時、事件報道に接して、被害者を「殺害目的」で呼び出したのではなく、最初はナンパ的な動機もあったのでないかと考えていた。

そのため、手紙に<ネットナンパ師を取材したことがあるが、病んでいる女性ほどネットではナンパしやすいと言っていた。「死にたい」とつぶやく人は誘い出しやすかったのか>と書いていた。

こうした内容が彼の記憶に残っていたのだろう。面会時間は20〜30分ほどで、事件の核心に触れない話題には比較的饒舌だった。「ナンパ」という言葉が彼の中に残っていたこともあり、ネットナンパのことをさらに尋ねることにした。

●事件に関わる質問には「有料」と答える

白石死刑囚は、かつてキャバクラや風俗のスカウトマンをしていた。

「スカウトとツイッターは相性がいいと思ったんです。仕事を求める人からの反応がよかった。DMで『仕事がしたい』ってくるんです。のちにツイッターは、犯罪にも使えると気づきました」

事件発覚前、白石とDMを交わしながらも実際には会わなかった女性を取材したことがある。そのDMには、自殺に関する情報のやりとりについて、感情移入のない言葉もあれば、辛い気持ちに寄り添う共感的な言葉の両方があった。

「単なる情報交換もあれば、(自殺願望に対する)共感的なやりとりもあったが、それはどう決めたのか?」と聞くと、「相手に合わせただけです。求めるものに合わせただけ」と答えた。

さらに「それは、意識の中では、ナンパ(の一種)だったのか」と聞くと、「有料です」と返した。事件に関わる質問には「有料」と答え、金銭を要求するという事前情報があったが、実際にそうだった。

●死刑を望んでいるかのような態度も

短い面会時間で、何が聞くべきか迷いながら、筆者は「ネットナンパを始めたのはいつごろか」と聞いた。「17歳」と答えたが、高校生のころはうまくいかなかったという。

「コツはあるのか?」と尋ねると、「数打つことですね。お互いに写真を見せ合うことはありました。その時々で目標を持っていました。エッチしたいだけのときもあれば、スカウトのときは仕事として。だから、仕事かナンパかですね」と語った。

さらにナンパ相手に恋愛感情を持つことはあったのかと問うと「ネットで出会った相手と恋愛したことはない。報道で『元カノだ』と名乗る女性もいたというが、全部嘘です。22歳以降、ずっと彼女がいない。一緒にいたいと思った女もいなかった」と答えた。

面会で語られる言葉は、何が真実で、何が虚偽なのか、掴みきれなかった。事件について問えば「有料」とはねつける。被告人や囚人の中には、面会者を翻弄する者もいるが、白石死刑囚は自分を理解させようとする意図がなく、むしろ面会者を弄ぶようにも見えた。死刑を望んでいるかのような態度さえ感じられた。

公判では精神鑑定もおこなわれたが、鑑定医は「精神疾患なし」と結論づけた。鑑定医さえも翻弄していたのだろうか。ただ、母親は鑑定に協力せず、証人としても出廷しなかった。母親の口から、彼について語られることはなかった。

「虫も殺せなかった」と言われた彼が、なぜ9人もの命を奪うに至ったのか──。その理由を知りたかった。だが、その答えは永遠に閉ざされたままだ。

元号発表の日、白石死刑囚が語った「ネットナンパ」 死刑執行で永遠に閉ざされた真相