6月の方向感に乏しいレンジ相場から一転、7月は「米雇用統計」と「トランプ減税」が相場を揺るがしそうです。米利下げ期待に加え、「悪い金利上昇」も視野に入り、米ドル安・円高方向へ動き出すのでしょうか。今月のドル/円予想について、マネックス証券チーフFXコンサルタント・吉田恒氏が詳しく解説します。

7月の「FX投資戦略」ポイント

<ポイント>

・6月の米ドル/円は、前月と同じように142148円中心の方向感の定まらない展開となった。この主因は日米の金利差に方向感のない展開が続いたことか。

・7月は雇用統計発表やトランプ減税の議会審議などをきっかけに米金利が大きく動く可能性あり。それが米金利低下ならもちろん米ドルは下落、逆に米金利上昇の場合でもそれを尻目に米ドルが下落する「悪い金利上昇」になる可能性がありそう。

・7月の米ドル/円はこの間のレンジ下放れ、140~147円で予想する(第1週予想は最後をご参照ください)。

6月の振り返り…前月同様に142~148円中心の方向感のない展開

方向感のない主因は金利差の横ばいか

6月の米ドル/円は、前月とほぼ同様に142148円のレンジ中心に方向感のない展開となりました。月前半は142円割れを試す展開が続きましたが、それに失敗すると、後半は中東情勢を受けた原油価格の高騰に連れて一時148円まで米ドル/円が反発する場面もありました(図表1参照)。

それにしても、なぜこのように方向感の定まらない展開が続いたのか。その大きな要因は、日米の金利差(米ドル優位・円劣位)の方向感のない状況が続いたことだったのではないでしょうか。

日米の10年債の利回りの差は3月にかけて大きく縮小しましたが、4月に入りいわゆる「関税ショック」で米金利が急騰、日米の金利差が拡大したあとは、基本的に3%前後での横ばいが続きました(図表2参照)。金利差の為替への影響が大きいことを考えると、米ドル/円の方向感の定まらない状況が長期化した主因は、金利差に方向感が出なかったことが大きかったのではないでしょうか。ではなぜ、日米金利差は方向感がなくなったのでしょうか。

米景気の悪化、いまだ確認されず=金利差の横ばいが背景か

日米の金利差が3月にかけて大きく縮小したのは、日本の金利が大きく上昇する一方で、米金利が低下傾向を続けたためでした。この米金利の低下の背景には、トランプ大統領の関税政策の影響で、米経済は景気後退と物価上昇が同時進行する、スタグフレーションに陥るリスクがあるといった見方など、米経済の悪化への警戒感が影響したと考えられます。

ただそういった見方は、6月までの経済指標の発表で確認されるまでに至りませんでした。米景気は後退する、もしくはスタグフレーションのような危機に見舞われかねない、そういった可能性が確認に至らなかったことが、日米の金利差が新たな方向性を見い出せず、その結果米ドル/円も方向感の定まらない展開が長引いた背景だったのではないでしょうか(図表3参照)。

米ドル/円は、5月以降も米中の関税交渉での合意や中東不安などをきっかけに148円程度まで上昇する場面がありました。それに対して日米の金利差の追随的拡大がないと、すぐに145円以下に反落するといったパターンが繰り返され、結果として新たな方向性が出ない状況が続きました。ではそれは7月も続くかといえばそうではなく、そろそろ新たな方向性が出てくる可能性もあるかもしれません。

7月の注目点…日米の金利差に新たな方向感が出る可能性

米6月の失業率次第で7月FOMC利下げ再開の可能性も

まず注目されるのは、米独立記念日の関係でいつもの金曜日ではなく、7月3日の木曜日に発表される米6月雇用統計です。雇用統計のなかの失業率は、米国の政策金利のFFレートと一定の相関関係があり、さらにその失業率から過去10年の失業率の平均値(10年MA)を引いた「修正失業率」にすると、相関関係はより高まります。そんな修正失業率は、6月の失業率が予想通り4.3%に上昇した場合は、0.25%以上のFFレート引き下げの必要を示唆することになります(図表4参照)。

以上から、6月の失業率次第では7月末予定の次回FOMC(米連邦公開市場委員会)での利下げ再開の可能性が強まり、米金利の低下に伴い日米の金利差が縮小することで米ドル/円の下落リスクが高まる可能性があるのではないでしょうか。

減税成立で「悪い金利上昇」=政権1期目の再現に注目

もう1つの注目は、いわゆるトランプ減税案の米議会の審議です。トランプ政権1期目に減税案が議会で成立すると、米金利が上昇、日米金利差は拡大に向かいましたが、それを尻目に米ドル/円は下落に向かうといった「悪い金利上昇」となりました(図表5参照)。では今回はどうでしょうか。

政権1期目のトランプ減税の議会の成立が、「悪い金利上昇」をもたらしたのは株価が鍵だった可能性がありました。米国の主要な株価指数は、2017年12月の減税案の成立から間もなく下落に向かいました。このように米金利が上昇する一方で株価は逆に下落すると、米ドル/円は株価に追随する形で下落したことから「悪い金利上昇」となったわけです。

それにしてもなぜ、この局面で株価は下落に向かったのでしょうか。NYダウやナスダック総合指数の90日MAかい離率は10%程度まで拡大すると、短期的な「上がり過ぎ」の懸念が強まりますが、当時はまさにそういった状況になっていました(図表6参照)。このため、減税成立を受けた米金利上昇は、「上がり過ぎ」修正のきっかけとなり、米国株の下落をもたらしたということだったのではないでしょうか。

実は、ナスダック総合指数の90日MAかい離率は先週、10%以上に拡大しました。その意味では短期的な「上がり過ぎ」の懸念が強まっている可能性があります。そういったなかで、トランプ減税の議会成立となり米金利が上昇した場合は、それが「上がり過ぎ」修正のきっかけとなり米国株は下落に向かう可能性もあるのではないでしょうか。もしもそうなると、すでに見てきた政権1期目の「悪い金利上昇」と同じような構図となり、米ドル/円は下落に向かうことにならないでしょうか。

7月の米ドル/円は140~147円で予想

以上のように見ると、日米の金利差は7月に新たな方向性が出る可能性があり、それは米金利低下に伴う金利差縮小ならもちろん米ドル/円の下落を示唆することになるでしょうが、もしも米金利上昇で金利差の拡大となってもそれを尻目にやはり米ドル/円は下落に向かう可能性があるのではないかと思います。

こういったことを踏まえ、7月の米ドル/円は、過去2ヵ月続いた142148円のレンジを下放れる可能性が高いと思いますので、140~147円のレンジで予想します。

6/30~7/4の米ドル/円予想レンジ=142~146円

すでに述べたように、今週は7月3日の米6月雇用統計発表をきっかけに7月FOMCでの利下げ再開の可能性が高まるかが注目されます。また、トランプ大統領7月4日の独立記念日までに減税案の上院での可決を要請していることから、これが米金利や米国株にどう影響するかも注目されることになるでしょう。今週の米ドル/円は142146円のレンジで予想したいと思います。

吉田 恒

マネックス証券

チーフ・FXコンサルタントマネックス・ユニバーシティFX学長

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