
夢のマイホームを手に入れることは、多くの人にとって人生の大きな目標です。しかし、その裏側には、家計や夫婦関係、そして予期せぬトラブルが潜んでいることもあります。手にしたはずの幸せが、思わぬ形で終焉を迎えることも。
夢のマイホームで始まった「地獄」
都内で働く高橋健太さん(45歳・仮名)。住まいは3ヵ月前に引っ越してきたばかりの新築マンション。都心へのアクセスもよく、夫婦で何度もモデルルームに足を運び、決めた念願のマイホームでした。しかし、そこに高揚感はもはやありません。
健太さんの月収は48万円ほど。妻の由美さん(43歳・仮名)は子どもが小学生のうちは時短で働き、月収は25%ほど引かれた月25万円ほど。世帯収入で見れば、決して少なくありません。このマイホームは、夫婦の収入を合算して審査を受ける「ペアローン」を組んで、頑張って手に入れました。
購入を決めた当初、由美さんは「これでようやく友人を招けるわ」「インテリアは北欧風にしたい」と、目を輝かせていました。その笑顔が、健太さんにとっては何よりの原動力でした。しかし、新生活が始まると、その笑顔は次第に消えていきました。代わりに増えたのは、由美さんのため息とどこか棘のある言葉。
「はぁ、ローンの返済でカツカツだわ」
「XXさん家、夏休みに海外旅行に行くんですって。うらやましいわ」
家庭内の空気は徐々に重く淀んでいきました。ペアローンは、夫婦がそれぞれ債務者となり、お互いが連帯保証人になる契約が一般的です。つまり、一心同体で返済していく運命共同体。この仕組みが、共働き世帯のマイホーム購入を後押ししている側面は否定できません。
住宅金融支援機構『2022年度 住宅ローン利用者の実態調査』によると、単独ローンは72.0%、ペアローンは8.9%。一方、20~30代に限ると、ペアローン利用率は約20%と、5組に1組の割合になります。借入可能額が増えたり、夫婦それぞれが住宅ローン控除を受けられたりとメリットがあります。
妻の「預金通帳」に記された驚愕の残高
ある日の夜、健太さんが残業を終えて帰宅すると、リビングのテーブルの上に、由美さんが管理していた2冊の預金通帳が置かれていました。1冊は生活費用、もう1冊は貯蓄用。結婚したときにつくったもので、由美さんが管理していたものです。気になったのはその置かれ方。まるで「見てくれ!」というように無造作に投げ出されています。何気なく通帳のなかを確認すると、生活費用の預金通帳の残高はほぼゼロ。貯蓄用の預金通帳にも数万円しか入っていません。
「これ、どういうことだ?」
健太さんが問い詰めると、由美さんは冷たい表情で言い放ちました。
「見ての通りよ。もう、お金なんてないの」
健太さんは、言葉を失いました。さらに由美さんの返済分が引き落とされる預金通帳も確認すると、残高はほぼゼロ。このままでは返済が滞ってしまいます。
ペアローンのリスクは、まさにこうした状況にあります。夫婦のどちらか一方の返済が滞れば、その負担はもう一方に重くのしかかります。また、離婚する際には財産の分与やローンの扱いが極めて複雑になり、家を売却したくても、ローン残高が売却額を上回る「オーバーローン」状態では、それもままなりません。
健太さんは、由美さんを問い詰めました。一体、何にお金を使ったのか。なぜ、ここまで隠していたのか最初は「生活費で消えた」と繰り返すばかりだった由美さんですが、健太さんの厳しい追及に、ついに重い口を開きました。由美さんは、友人から勧められ外国為替証拠金取引(FX)を始めてみたといいます。
「ローン返済ばかりで、毎日が重苦しいから……お小遣い程度でも稼ぐことができたらいいなと思って始めたのよ」
当初は面白いように利益が出ていたものの、そんなのはビギナーズラックでした。損失を取り返そうと、自身の貯蓄だけでなく、健太さんから生活費として渡されていたお金までつぎ込み、結果的に多額の借金を抱えてしまっていたのです。
「頼むから、もう黙ってくれ……」
健太さんの口から、絞り出すような声が漏れました。妻の裏切りともいえる行為、そして目の前にある「ペアローン」という冷徹な現実が重くのしかかります。結局、夫婦関係は完全に破綻。家族の幸せの象徴だったマイホームは、任意売却されることに。それでも売却してもローンは完済できず借金だけが残りました。そしてふたりは離婚し、ひとり息子の親権は健太さんに。現在、健太さん親子は健太さんの実家で暮らしています。
[参考資料]
住宅金融支援機構『2022年度 住宅ローン利用者の実態調査』

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