
日本、台湾、イラン、ハワイなど世界6都市を舞台に、スリリングなマネーサスペンスが繰り広げられる映画『キャンドルスティック』が7月4日(金)より公開される。このたび、津田健次郎によるナレーション×漫画家・大友しゅうまによる描き下ろしイラストで構成された、“1分でわかる映画『キャンドルスティック』”の特別映像が解禁となった。クリエイターとして「すごく練られた構成だった」という、“映画紹介マンガ”でおなじみの大友に、本作を観た感想や見どころについて語ってもらった。
【写真を見る】大友しゅうまが阿部寛を描き下ろし!「なにも考えずに描いても阿部さんっぽくなる」
川村徹彦の小説「損切り:FX シミュレーション・サクセス・ストーリー」を原作に、日本と台湾の共同製作で映画化。平成から令和へ元号が変わり、日本の金融システムが最も隙だらけの日に、元天才ハッカーの野原ら10人のろくでなしたちが“金融市場の番人”であるAIを騙し、FX市場で大金を手に入れることを目論むという物語が展開する。
元天才ハッカーで、“AIを騙す”計画の先導者である主人公の野原を演じるのは阿部寛。野原の恋人でFXトレーダーの杏子には菜々緒、杏子の元夫で数学者の望月功には津田健次郎、台湾の大企業の幹部で野原と因縁のあるリンネにはアリッサ・チアが扮するほか、国際色豊かなスタッフ、キャストが集結。パリコレやGUCCIなどの広告映像ディレクションやMVなどを手掛ける注目の新鋭、米倉強太監督が本作で長編映画初監督を務めた。
※本記事は、ネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。
■「すごく練られた脚本だと思いました」
大友がまず注目したのは、本作で描かれるキャラクターたちの関係性だ。物語の冒頭で展開される、功(津田)が野原(阿部)に水をかけるシーンで2人の関係や背景が気になり一気に物語へと引き込まれたという。「2人はどういう関係性なのか、水を掛けられるに至るまでにどんな物語があったのか、ちょっと意外なスタートで、観ていくうちに2人の関係性がわかっていくのですが、こういった印象的な演出はあまり見たことがなかったので、物語の世界に入り込むきっかけになりました」。
作品名の“キャンドルスティック”とは、株売買のタイミングを判断する重要なサインを示す「ローソク⾜」を意味する。3つの物語が同時並行で進み、徐々に交錯していくという展開に序盤からかなり集中したと振り返る大友は「FXのことをよく知らなかったのと、軸となる物語が3つあって。序盤は物語を理解するために集中していました。観ていくうちに3つの物語がつながってどんどん引き込まれていく。そこに気持ちよさを感じたし、すごく練られた脚本だと思いました」と構成のおもしろさと、鑑賞後に感じた“爽快感”にも言及する。
野原とチームを組むプログラマーでハワイ在住のロビン(デイヴィッド・リッジス)から、プログラミングを依頼されるイラン在住の凄腕ハッカー・アバン(マフティ・ホセイン・シルディ)の登場シーンではアバンが妹にFXのやり方を教えるシーンがある。「天才そうなお兄ちゃんが日本にいる妹ちゃんにFXのやり方を教えるシーンがすごくわかりやすくて。FXとは?みたいなものを理解することができました」。
さらに本作には、多額の負債を抱えるFX講師の吉良慎太(YOUNG DAIS)が登場し、FXに潜む闇や、その怖さも対比として描かれている。「この対比は特に理解を深めてくれたし、同時に、ワクワク感が一気に高まったポイントでもありました」とFXに関する知識がなくても“没入できる”作りになっていたという。
■「野原は熱を内に秘めているタイプ。ミステリアスさを感じて、すごく魅力的だと思いました」
大友が本作のおもしろさを堪能できたのは、阿部寛が野原を演じているという点にもある。「阿部さんはこれまでいろいろな役を演じられているので、『阿部さんっぽい役』というのはひと言では説明できないけれど、キャラクターに共通する熱、信念のようなものは、今回の野原にも感じました。熱量でズバッと言い切るような頼り甲斐のある男、みたいな役が多い印象があるけれど、今回の野原はその熱を内に秘めているタイプ。冷静沈着ぶりに“なにを考えているのかわからない”ミステリアスさみたいなものを感じて、すごく魅力的だと思いました」と役の印象と阿部の芝居を熱弁。
“1分でわかる映画『キャンドルスティック』”の特別映像を制作するにあたり、阿部のファンだという大友に野原を描いた感想を訊いてみると、「僕の絵柄はすごく簡略化されているので、似せるというのは難しかったりもします。今回のラフを描く際にちょっと不安もあったのですが、なにも考えずに描いても阿部さんっぽくなることがわかって(笑)。“強さ”があると思ったし、改めて好きになりました!」と自身の作風と阿部の個性がマッチしたことをうれしそうに教えてくれた。
映画紹介の漫画を描く際にポイントにしているのは“ワクワク感”だという。「僕は映画を観てワクワクしたところを漫画で描くようにしています。そうじゃないと映画の魅力が伝えられないというか。なんとなくおもしろいとかぼやっとしたままの状態で描くと読者に伝わってしまう感じがしていて」。本作に登場したパンチのあるセリフやキャラクターの表情、言動などの漫画にしたくなるポイントを尋ねると「その視点だと、“AIを騙す”ために結成されたチームがおもしろかったです。バラエティ豊かな登場人物たちだったし、結束していく姿にも魅力を感じました。そこを描けたらおもしろいかもと思いましたね」。
本作では、野原と杏子が持っている“共感覚”も重要な鍵となっている。数字が色で見えるタイプの共感覚を、劇中では美しいビジュアルで表現。キャンドルチャートを見つめる杏子が「きれい…」とつぶやくシーンは特に印象的だ。「共感覚のシーンはすごくよかったです。僕が予備校生の時に共感覚を持っている友人がいて、どんな感じに見えるのか尋ねたことがあるんです。その子は共感覚とオーラが見える子だったので、ちょっとスピリチュアル寄りな感じもしますが、でも自分のオーラの色が気になって訊いたところ、『なにもない』と言われて。進学した東京藝大で再会した際に、また共感覚の話が出たので、もう一度チャレンジ!という気持ちで尋ねたところ、『赤茶色だ』と言われました。オーラの色って変わるんだと知ったことに驚いたのと、僕にもオーラがあるんだと知ってうれしくなったのを覚えています」と共感覚が遠くない存在であったことを教えてくれた。
■「“肉を切らせて骨を断つ”じゃないけれど、騙しをロジカルに表現していてカッコよかった!」
“騙し合い”も本作の重要なキーワードだが、大友が惹かれたポイントは「知性を感じさせる勝ち方」だという。「“肉を切らせて骨を断つ”じゃないけれど、野原の騙しはそれをロジカルに表現している感じがあって、すごくカッコよかったと思います!」。“騙す”ことは悪いことのようでいて、本作では、時に人を救ったり、物語に深みを与える要素としても描かれている。漫画家として“騙し”の表現のおもしろさや可能性をどのように捉えているのだろうか。「どんでん返し系の名作もたくさん観てきましたが、初見ではインパクトで殴られたような気持ちよさがありますよね。紹介漫画を描く際には、作品を何度も見返すのですが、2回目以降ならではの楽しみ方というのもあって。ちょっとしたシーンが実は効いていた!みたいな発見で作品をもっと好きになることも多いです。本作の2回目の鑑賞時には並行する3つの物語や、キャラクターの関係性がスッと入って来るのがわかって。水をかけるシーンの意味もより深く理解ができました」とリピート鑑賞ならではの発見や、散りばめられた仕掛けを、存分に楽しんだことを補足。
野原には相棒のように、愛車・ウーズレーが寄り添い、そして、杏子が相棒になっていく過程も描かれる。最後に、大友とっての相棒的存在について訊いてみると、劇中にAIが出てくるという繋がりで「ChatGPTを使うことも多いです。創作物に使っていると聞くと肯定的ではない方も多いかもしれないんですけど、使い方によっては本当に便利で。僕はアイデア出しや簡潔な言い回しの例が欲しい時に使っています。ChatGPTが提案してくれた膨大なアイデアのなかから、よいかもと思ったものでイメージを膨らませたり、参考にしたりしていますね。ChatGPTに頼りすぎることも危険だと思っているので、創作物がおもしろいかどうかを自分で判断できる力は絶対に必要だと考えています。その判断力を鍛えるのはインプットだと思っていて、それが僕にとっては映画なんです」とAIとの付き合い方だけでなく、大友にとっての映画はインプットにもアウトプットにも大事な役割を果たしていることも明かしてくれた。もはや映画が相棒といった印象だ。
特別映像では、10人の男女が大金を手に入れるため、世界を股にかけた前代未聞のミッションに挑む姿や、野原が警察に連行される姿など様々な思惑が交錯する様子、手に汗握るシーンが描かれている。世界各国のろくでなしたちが挑む“AIを騙して大金をせしめる”前代未聞のミッションで最後に笑うのは誰か?「小学生のころからアニメで聞いていて、大好きだった津田さんとコラボできて本当に感激でした!魅力的なキャラクターたちが、どでかいスケールの作戦に挑むワクワク感を、感じてもらえたらうれしいです!」と語る大友渾身のイラストと津田のナレーションがコラボレーションした特別映像を見て、ぜひ『キャンドルスティック』の物語を目撃してほしい。

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