
別荘地の管理費をめぐり、最高裁が気になる判断を示した。
大型の別荘地の管理会社が、建物が建てられていない土地の所有者に管理費の支払いを求めた2件の訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷(安浪亮介裁判長)は6月30日、物件のない土地所有者であっても「支払う義務がある」とする判断を示したのだ。
最高裁の判断が社会にどのような影響をもたらすのか。不動産の問題に詳しい秋山直人弁護士は、たとえば任意加入の町内会のゴミ集積所では、今回の判例の論理が適用される可能性もあるのではないかと指摘する。
●別荘地の管理会社が土地の所有者に不当利得の返還を求めた裁判——どのような訴訟でしたか
最高裁の判決文によりますと、本件は、別荘地を管理している不動産会社(以下「管理会社」といいます)が、別荘地内の土地の区画を所有しており、建物は建てていない状態の土地所有者に対して、管理会社の管理業務により利益を得ているとして、不当利得返還請求権に基づき、管理費と同額の支払いを求めた事例です。
通常であれば、別荘地の管理会社は、土地所有者と管理契約を締結し、管理費を徴収するものですが、この所有者は、管理契約の締結を拒んでいたようです。
そのため、管理契約がなくても、不動産業者の管理業務により土地所有者が利益を得ていると認められるかなどが争われてきました。
高裁では2件の事案で判断が割れたようであり、管理会社の管理業務が本件土地の経済的価値に与えた影響は不明であるとして、管理会社の請求を認めなかった判決も出ていました。
——最高裁の判断はどのようなものでしたか
最高裁は、管理会社による別荘地の管理業務は、別荘地内の犯罪や災害による被害の発生を予防したり、別荘地の環境や景観を良好な状態に保つものであり、別荘地全体の所有者に利益を及ぼすもので、管理契約を締結していない一部の別荘地所有者を除外して管理業務をするといったことは困難な性質のものであるとしています。
そのため、管理契約がなくても、管理会社の管理業務により土地所有者が利益を得ていると認められると判断し、過去5年分程度の管理費相当額の支払を命じたようです。
●通常のマンションにまで影響が及ぶとは考えられないが…——今回の判断が社会に与える影響として考えられることは
今回の判断は、あくまで事例判断であり、別荘地の特殊性を踏まえて理解する必要があると思います。
そうした別荘地では、樹木の剪定、街灯の整備、道路の整備などを、自治体ではなく、管理会社が一体として担当しているのでしょう。
そうした別荘地の特殊性を踏まえると、購入した区画に別荘を建てていないからといって、また管理契約を結んでいないからといって、管理業務による利益を受けていることは否定できないと判断されたものと思われます。
たとえば通常のマンションでは、区分所有者は、必ず管理組合の組合員になるので、自分は管理費を負担したくないから組合員にはならないといった選択肢はありません。そのため、今回のような問題は起こらないでしょう。
●任意加入の町内会のゴミ集積所では適用される可能性も一方で、町内会は強制加入団体ではないので、町内会がゴミ集積所を管理している場合に、町内会に加入しておらず、町内会費を負担していない個人が集積所を利用したら、町内会は管理費相当額を利用者に請求できるか、というのは、今回と似た事案かもしれません。
町内会によるゴミ集積所の管理が、集積所を良好な状態に保つものであり、利用者全体に利益を及ぼすもので、町内会に加入していない一部の住民を除外して管理業務をすることが困難な性質のものであるとすると、今回の判例の論理が適用される可能性は出てきそうです。
(※7月2日午後1時35分:記事の一部について修正しました)
【取材協力弁護士】
秋山 直人(あきやま・なおと)弁護士
東京大学法学部卒業。2001年に弁護士登録。所属事務所は四谷にあり、不動産関連トラブルに特化して業務を行っている。不動産鑑定士・宅地建物取引士・マンション管理士・賃貸不動産経営管理士の資格を保有。
事務所名:秋山法律事務所
事務所URL:https://fudosan-lawyer-akiyama.com/

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