退職金を手にすると、甘い言葉で近づいてくる金融マン。その手口を見破ることは、あなたの老後の資産を守るために不可欠です。本記事では、山口一夫氏の著書『シニアライフの人生設計』(ごきげんビジネス出版)より、金融機関や営業マンが勧めてくる金融商品の本質を紐解いていきます。

元金融マンが語る「気をつけなければいけない営業マン」

私が元金融マンの講師から学んだ注意すべきことをご紹介します。本人たちからは直接聞けない営業アプローチの本質やテクニックを参考に、あなたの大切な金融資産を守るための参考にしてください。

何よりも気をつけていただきたいのが退職金です。退職金を手にすると、退職金に限った利子優遇の定期預金を勧められます。非常に高金利なのでありがたいですが、どこの銀行も平均3か月間くらいしか預けられません。

実は3か月間の利子優遇定期は、魚釣りにたとえるとコマセ(魚をポイントに集めるために撒く餌)のようなものです。まずお客さまを自分の銀行に引き寄せ、3か月のあいだで本当に食いついてほしい金融商品(高手数料)を紹介するための手口です。私の知人が引っかかった手口も含め、金融機関や営業マンはどのようにして私たちに近づいてくるのか次項で見ていきましょう。

手数料収入獲得のため全店号令

私たち素人が知る必要がある基本は、営業マンや金融機関は私たちが買う金融商品の手数料で食べていることです。よって、彼ら彼女らにとっての最大の関心は高収益(高手数料)商品を売ることで、お客さまの要望(ニーズ)は二の次となりがちな傾向でしょう。

当然のことながら、本店から各支店の隅々まで重点となる高収益(高手数料)商品の販売号令がかかっているのです。私がシニア大学で知り合った人のなかに、まんまとこの手口に乗ってしまった人がいました。彼は3か月の利子優遇定期預金のあいだに、その後の運用商品を勧められました。

「営業マンから勧められた高利回りの投資信託に投資した結果、退職金の1/3を失ってしまい、その後、少しでもその穴を埋めたいと考え、平日の午前中にコンビニでアルバイトをはじめた」と無念そうに話してくれたのです。このような失敗例を話してくれる人は滅多にいません。ただ、妻や子どもたちに失敗をいえないまま苦しんでいる人たちもいる、と聞きますので皆さまも注意してください。

窓口で一生懸命若い女性営業担当に説明されて…

銀行も証券会社も営業担当は20代の若くて感じのいい女性の営業が多いように感じます。彼女たちのなかで学生時代に金融論や投資論などを専門に勉強してきた人は稀です。そのような若い人たちが難しい金融商品を、あたかもすべてわかっているかのように説明してくれます。高難度の商品や商談の規模が大きくなったときは、決まって彼女たちを支援するコンサルタントや上司と一緒にやってきます。

彼女たちが新たに開発される金融商品を必死に勉強し、一生懸命説明している姿を見ると、つい応援してあげたい気持ちになるかもしれませんが、ここは冷静に参りましょう。高利回りの金融商品にありがちな高リスクを負うのは、すべて私たちなのですから。

高齢者に大ヒットした金融商品の本質

毎月分配型の商品とは、投資家に定期的なキャッシュフローを提供するために設計された商品です。毎月の給与収入がなくなり、2か月に1回の年金生活を送っているシニア世代にとって毎月配分型の商品は魅力的でしょう。

毎月分配型の投資信託は、超低金利が続き、預貯金による資産運用では我慢できなくなった高齢者を中心に1990年代の後半から大ヒットした商品です。当時の投資信託会社間では、高額な分配金を払い出すため分配金の払い出し競争が激化しました。

その結果、高リスクの海外債券や規制緩和によって利用が可能となった、デリバティブ取引、外国籍私募ファンド、などへの投資が行われたのです。これらの商品はリーマンショック後の市場の混乱で大幅に元本割れするものが大量発生し、社会問題となりました。

いずれの商品も契約時には高い分配金が謳われていますが、市況や環境が悪化すると当初の分配金が削減されることもあります。各ファンドは高い分配金を確保するため、元本を削減してまでも高い配当を維持しようとします。しかし、いよいよ分配金の維持が難しくなると、ファンドマネージャーはファンドの閉鎖を決定するのです。

歴史は繰り返されるといいますが、ネット上には現在も毎月分配型の商品が多く出てきているので、くれぐれも注意してください。

どこの金融機関も勧める「ラップ口座」

「ラップ口座」とは、投資家が設定した投資目的に基づいてプロのファンドマネージャーに資産管理を一任する仕組みです。各金融機関の経験豊富なファンドマネージャーが資産を運用します。これにより、私たち個人投資家は自らの運用能力に頼るのではなく、専門家の知識と経験を利用できるのです。

いいことずくめのように聞こえますが、当然お金がかかります。管理手数料と称して年間3%近いコストがかかります。逆算すればわかることですが、3%近いコストがかることは、専門家に運用をお願いしても運用益が3%以下の場合は自分のリスクで資産の目減りを覚悟しろ、ということです。

近年ではどこの金融機関もラップ口座を勧めてきます。その理由は、金融機関にとって大変魅力的な口座だからです。相談のプロセスでお客さまの全金融資産を可視化できるのですから、営業戦略上とても効率がよいことになりませんか。ましてやシニア層の場合、退職金も含め若い世代と比べ多くの資産をもっているわけですから、ますます狙われます。

退職したばかりで多くの金融資産をもち、おまけに投資についてほとんど経験と知識の乏しいシニア層は、金融機関の営業マンにとってまさに格好の狙い目なのです。実際の被害に遭わないまでも、ここで挙げたようなセールス手法にてアプローチを受けた経験をおもちの方も多いのではないでしょうか。

お金についてはいろいろな考えがあると思いますが、シニア世代にとっては投資や運用によほど自信がある人を除いて、自らが働くこと以外で金融資産を大きく増やそうとするのは危険だと思いますので、くれぐれもご注意ください。

山口 一夫 ライフデザイン講師