
サッカーのフランスリーグのスタッド・ランスに所属、日本代表でもストライカーとして活躍する中村敬斗選手が初のフォトエッセイ『Natural ナチュラル』(双葉社)を刊行した。試合での姿からプライベート空間でリラックスする表情まで、普段の様子を余すところなく切り取った1冊で、3歳ではじまったサッカー人生を振り返るエッセイも収録されている。
本書では“プロサッカー選手・中村敬斗”を作り上げた、欧州リーグで活躍するためのメンタルや食事、夢を実現するための取り組みなどについても語られ、サッカー選手だけでなく、スポーツ選手、ビジネスパーソンにとっても、世界で羽ばたくためのヒントとなるに違いない。ピッチ上では「ゴールまでの道筋」が見える瞬間もあると話す中村選手にフォトエッセイに込めた思い、そして、翌年開催の「FIFAワールドカップ2026」への熱意などを聞いた。
■■タイトルは「自然体」結果を出すためにピッチでは自分を貫くときも
――ピッチ上での姿はもちろん、普段は見られないトレーニング風景、さらに、プライベート空間の自宅でリラックスする様子も収録した自身初のフォトエッセイとなりました。
中村敬斗(以下、中村):子ども時代や、ガンバ大阪時代の写真も入っていますが、海外に移籍してからスタッド・ランスへの移籍もあったこの5年間を中心に密着していただいたので、僕自身も満足できる1冊になりました。
住んでいるランスから、週末によく出かける首都のパリへ行ったときの写真もありますね。タイトルの「Natural」には「自然体」の意味を込めました。僕自身、サッカーで試合に出場するときに緊張するんですけど、できるだけ平常心を保ちながら「ありのままの自分でいよう」とも思っているので、その気持ちが多くの人に伝わるならうれしいです。
――ボリュームのあるエッセイも随所に収録されていて、3歳からはじまった“サッカー人生”を時々の心情と共に詳細に振り返っています。たとえば、エッセイの中に「うまくいかないときは、監督からネガティブな要素を言われることが多いけど、全部、全部、真に受けないでおこう。自分を変えないで、試合に向けて準備しよう」といった内容のことが書かれていましたが、中村選手のマインドが強く表れていました。
中村:もちろん、監督は信頼していますし、言うことは絶対です。でも、すべて言うとおりにすると自分を保てなくなってしまうし、一番大事な「結果」を出すためには自分を貫いた方がいいときもあるので、フォトエッセイにも詳しく書かせていただいておりますが、受け止めすぎないように意識しています。
――小学3年生からは「サッカーノート」を付けて「自主練習の内容」や「試合や練習で気づいた改善点」などを記録していたとありました。自身の思いを文章にしたためることへの、こだわりもあったんでしょうか?
中村:こだわりというか、時々で感じた幸せな気持ち、悔しかった気持ちは時間が経つと忘れてしまうので、サッカーノートに書き留めて読み返すために続けていたんです。小学校時代は漠然と練習で「何をしたか」を記録して、中学校時代からはより具体的な内容になり「成長するためにどうすればいいか」も自主的に書いていました。当時のノートの写真やプロ入り後のノートの内容については、本の中に書かせていただいています。
特に、U-15日本代表に選ばれてからは、同世代のトップを走る選手たちとの差も感じて、自分より上手い選手の中で「生き残るために何をするべきか」を頭で整理するために書いていたんです。テクニックだけではなくメンタルだったり、ピッチ上での戦術に関する話だったりを書いて、必ず読み返してから練習に参加していました。
■■スリータッチでイメージ通りに「ゴールまでの道筋が見えた」試合
――エッセイでは、半年間の「ベンチ外」生活も過ごしたベルギーの1部リーグのシント=トロイデンに所属していた当時「サッカー人生で一番、ツラい時期だった」と振り返っていました。ただ、悔しさの一方で得たものも大きかったのかと思います。
中村:そうですね。僕の人生にとって、間違いなく一番のターニングポイントでした。試合に出場できなかった経験によって何事にも耐えられるようになったというか、くじけることがなくなりました。当時はチームとしての練習や自主練に力をそそぐしかできなかったんですけど、腐らずに乗り越えられたから今があるし、そこで出会った人たちとは今でも交流があるので「無駄な半年ではなかった。あの頃があるから今がある」と胸を張って言えます。フォトエッセイには、ガンバ大阪時代の苦しかったこと、それを乗り越えたときの気持ちについても書いてあるので、ぜひ読んで欲しいですね。
――その後、オーストリア2部リーグのFCジュニアーズ、同1部リーグのLASKリンツへの移籍を経て、2023年3月には日本代表へ初選出。同年8月のスタッド・ランスへの完全移籍後、同年10月には欧州5大リーグで日本人初となる5試合連続ゴールを決めるなど、ストライカーとしてめざましい活躍をみせています。エッセイでは「サッカーIQ」についても言及されていたのですが、ゴールまでの流れの中で、だいぶ手前の時点で“決められる”と確信できる瞬間もあるのでしょうか?
中村:サッカーをやっていると、誰でも「この流れならば、確実にゴールが入る」と思う瞬間があると思うんです。僕の場合は、簡単なゴールよりも難しいゴールの方が身体が勝手に動きます。ある程度「自分の身体がどう動くか」は頭でイメージしていますし、ボールをもらった時点でゴールまでの道筋が見えるんです。
――たとえば、ハッキリと確信できたのはいつの試合だったんでしょう?
中村:一番うれしかったのは、欧州CLで優勝したパリ・サンジェルマン相手のゴールですね。詳細、そして、そのシュートの瞬間の写真は本で確認してください。また直近では、マルセイユ戦(※)でもゴールを確信できました。本当は足元へのボールが欲しくて、ツータッチでシュートを打とうと思っていたんですけど、実際にはズレたパスが来たんです。ただ、ボールが来る直前に「マイナス方向にフェイクを入れよう」とひらめいて、結果としてスリータッチで、イメージ通りのゴールを決められました。
(※:2025年3月29日に行われたフランス1部リーグのスタッド・ランス対マルセイユ戦。同僚であるママドゥ・ディアコン選手からのパスを受けて先制点を決め、チームは3対1で勝利した)
■■幼い頃から夢だったワールドカップに向けて「選ばれ続けないといけない」
――エッセイでは、スタッド・ランスと日本代表の双方で力を合わせる伊東純也選手にもふれていました。一節では「純也クン」と親しく呼んでいましたが、中村選手にとって伊東選手はどのような存在ですか?
中村:僕にとっての“アニキ”のような存在です。ピッチの中でも外でもお世話になっていますし、日頃から助けられているので感謝しかありません。試合では、僕はゴールに向かってプレイしますけど、伊東選手は次に繋げやすいクロスを上げてくれるので「そこに向かって走っていけばいい」と思うほど、信頼しているんです。
いいパスをもらってもゴールを決められないときは「僕のポジショニングがよくなかったんだ」と思いますし、悔しくなります。フォトエッセイには、マルセイユ戦後の伊東選手とのやり取り、一連のショットも掲載されているので、伊東選手のファンの方も必見です(笑)。
――スタッド・ランスでは、2025年1月に新たな日本人選手も加わりました。柏レイソルから完全移籍した、関根大輝選手には、かつて、伊東選手に助けられたのと同様にサポートはされているのでしょうか?
中村:僕が何かをしてあげられるわけではなかったと思います。ただ、彼自身、他のチームメイトとも問題なくコミュニケーションを取っているのは見ていますし、まだ今後のことは一切わかりませんが、クラブでのチームが離れ離れになったとしても、立派にやっていけると感じています。
――翌年6月には「FIFAワールドカップ2026」の開催も控えていますが、日本代表のユニフォームも背負う現在の目標は何でしょうか?
中村:小さい頃からの夢だったワールドカップへの出場ですね。そのためには、クラブでも日本代表でも結果を出して、選ばれ続けないといけないんです。けっして簡単なことではないと分かっていますし、これからも努力を重ねて、ワールドカップのピッチに立てるのなら、日本代表の掲げる「優勝」の目標に向かって少しでも力になりたいです。
――3歳でサッカー人生を歩きはじめた中村選手。最後に、フォトエッセイの終盤では「数年後を楽しみにワクワクしながらやり続けてください」と子どもたちへのメッセージを送っていましたが、今もし、3歳の自分と会えるとしたら何と声をかけますか?
中村:僕だったら、当時の自分には声をかけません。誰かに何か言われてやることは、本当に好きなことなのかという疑問もあるんです。3歳だった当時の自分は、サッカーが好きで好きでたまらなかったし、純粋にその気持ちだけでプレイしていたんです。
ただ、年齢を重ねるにつれて壁にぶち当たり、プロになってからは「上へ行くためにどうすればいいのか」とより強く考えるようにもなったので、続けていけば見えてくる楽しさもありますし「昨日よりも今日、今日よりも明日」と成長を感じながら、自分が楽しいと思えることに打ち込んでほしいです。
フォトエッセイには、僕の経験したことではありますが、サッカー少年はもちろん、現在、真剣にスポーツに取り組んでいるお子さんから大人の方まで、成長のヒントとなるエピソードがつまっていると思います。気軽に手に取ってもらえたら、うれしいですね。
取材・文=カネコシュウヘイ、写真=島本絵梨佳

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