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スタイリッシュでありながら堅実でもあり

10数年ぶりにフルモデルチェンジしたダイハツ・ムーヴ。そのコンセプトは『動く姿が美しい、端正で凛々しいデザイン』とされた。そこで、内外カラー等のデザイナーに、具体的なこだわりポイントについて話を聞いた。

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ダイハツデザイン部プロダクトクリエイト室主任の河合徳明さんは、2代続けてムーヴ・キャンバスのエクステリアをデザイン。その実力やノウハウから、基幹車種である新型ムーヴのエクステリアデザインを担当することになったようだ。

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『堅実スライドドアワゴン』という商品コンセプトのもと描かれた初期スケッチ。デザインコンセプトを含め、様々な方向性を探っていた時期のもの。    ダイハツ

それでも、「最初の企画はバランスが大事な堅実なクルマでしたので、そのままデザインすると特徴のないクルマになってしまいます。そこでもう一段、特徴になる何かが必要でした」と当時を振り返る。そこでユーザーがどういう気持ちでムーヴを選んでいるかを考えた。

最初は「バランスがいいからムーヴを選んでおけば無難みたいな消極的な選び方」を想像していたが、月に数千台売れていることをから、「指名買いされているのではないか」と思ったそうだ。

今回のターゲットユーザー層は、「ちょうどバブル時代に青春を過ごされる方々で、いまはお子様が手離れした世代。そしてもう一度夫婦でどこかに出かけたいなという時に乗って頂くとしたら、スタイリッシュで軽快に走りそうなクルマがいいでしょう」と河合さん。

そして「実用的で堅実さも持ち合わせていること。それこそがもともとムーヴの引き継いできた魅力であり、コアの部分。そこがお客様に指名買いして頂いているポイントではないかとということに気づいたんです」と語っており、そこで掲げられたのがこのコンセプトだった。

長く、動きのあるデザインのために

エクステリアで大きな特徴はふたつ。ひとつ目はサイドのキャラクターライン周辺だ。

グリルからサイドを抜けリアコンビの手前で消えているこのラインは、繋がって見せることで、クルマを長く見せるための手法のひとつとなっている。そしてこのムーヴの見どころは、その下の『影の面』にある。

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『動く姿が美しい』というデザインコンセプト立案直後、狙う方向性の意識合わせのために描かれたイメージスケッチ。青空のもとを軽快に走るシーンが意図されている。    ダイハツ

通常、軽自動車はできる限り室内幅を取りたいので、ドアは薄くなる。その中にパワーウインドウ機構などを納めなければならないので、デザインしろがなくなり、平面な造形になりがちなのだ。

しかし、ムーヴ軽自動車としてはかなり抑揚のある面構成とされ、さらに美しい影面まで設けられた。河合さんは、「抑揚を持たせると、どうしてもキャラクターラインの下の影面が(狭くなるなどで)犠牲になって美しくないんです。しかし今回はトータルで美しく見えるよう、最後までこだわりました」とコメント。

同時に、その下の台形の造形にも意味があるという。

「これはタイヤをしっかり踏ん張らせるように見せるものですが、同時のこの台形の影になっているところが、フロントの黒いガーニッシュ下の『ヒゲ』のところに連続していて、リアも同様に繋がっているのです」と河合さん。これもクルマを長く、かつ低重心に見せるデザインの取り組みだ。

また、スライドドア車の場合、その開閉用レールがあることもあり四角くなりがちだ。しかし、Aピラーをスライドドア車の中でもかなり寝かし、ルーフはムーヴ・キャンバスなどよりも少しだけフラットにした。

スッキリした屋根を作ることで、伸びやかに見せたいという思いからです」と河合さん。こうした積み重ねにより、単なる四角ではない動感のあるデザインが完成したのだ。

ひと手間加えられたインテリア

一方のインテリア、特にインパネまわりは横方向に大きな骨を通すイメージでデザイン。そこに左右のエアアウトレットとカップホルダー、センタークラスターを「上からごんごんごんと乗っかっているという見え方を意識しています」と話すのは、ダイハツデザイン部ビジョンクリエイト室VXD主担当員の田辺竜司さんだ。

これは人間に例えると、しっかりとした背骨が通っているイメージだ。そこが貧弱だと全体の印象も貧相になりがちで、それを避けたかった。同時に横方向の広がり感を持たせることにも成功している。

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室内のデザインスケッチ。こちらもエクステリア同様、いくつかのテーマが検討された。    ダイハツ

カップホルダー周りは凝った作りだ。ダイハツデザイン部第2デザイン室主担当員の門田寛仁さんは、「梨地だけでなく、傷つき防止の線が入っています。さらに(カップホルダーの縁部分が)途中で終わっているのは、ギリギリドアミラーに映り込まない工夫です」と話す。

そのほかGグレード以上に装備されるセンタートレイのイルミネーションも、LEDがひとつだけにもかかわらず、夜のドライブで「ドラマを見せたい」と配光にこだわった。

また、シート生地の線は縦方向という珍しい仕様だ。シートは3次元なので縦線の場合歪みが目立ってしまうが、工場との調整により実現できた。「表皮の触感や質感が高く、色柄も大きなポイントになるので、その辺はこだわりました」と門田さん。このように何かしらひと手間加えたのが、ムーヴのインテリアなのだ。

本来であれば約2年前に登場し、そろそろマイナーチェンジを迎えるタイミングにもかかわらず、新型ムーヴは古臭く見えない。それはベースがしっかりしており、かつ下手な小細工をしていないからだろう。上質なデザインといっても過言ではない。


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