56歳のサラリーマンAさんは、孫の誕生を機に人気の高級車アルファードを「残価設定クレジット(残クレ)」で購入。一般的に「損だ」といわれることの多い残クレですが、果たしてその実態とは。Aさんの事例をもとに、詳しくみていきましょう。牧野FP事務所合同会社の牧野寿和CFPが解説します。

愛する孫のために…思い切ってアルファードを購入したAさん

2018年当時、56歳だったサラリーマンのAさん。3歳年下の妻Bさんと、東京近郊の戸建て住宅で暮らしていました。

夫婦にはすでに結婚しているひとり息子のCさん(31歳)がおり、自宅から車で1時間ほどの賃貸マンションに住んでいます。このたびCさん夫婦に、長女が誕生しました。A夫婦にとって初孫で大喜びです。

またそのころ、A夫婦は11年乗ってきた車の買い替えも考えていました。孫の誕生で有頂天だったAさんは、「自分たちと息子夫婦、孫まで乗せると今の車は狭いな……大きな車に乗り換えるか!」と、ディーラーを訪れたのです。

Aさんには60歳まで、毎月9万円返済する住宅ローンの残債が約433万円残っています。そこでディーラーの営業担当者に、現金一括払い以外の代金の支払い方法をたずねました。

すると、銀行やディーラーと契約する「自動車ローン(仮称)」や「残価設定クレジット、残価設定ローン(以下、残クレ)」などがあるとの説明を受けました。

そこで年収500万円のAさんは、アルファード(2018年式2.5SCパッケージ、ガソリン車、白)を諸経費込みの490万円で、残クレを利用して購入することに。

Aさんが契約した残クレとは?

残クレとは、車を購入するときにあらかじめ下取り価格(残価)を設定して、車両価格から残価を差し引いた金額をローンで返済する仕組みです。ただし、残価分にも金利がかかるため返済総額が少なくなる訳ではなく、また返済中の車の所有者はディーラーなどになります。

返済の仕方は、たとえば5年(60回)契約の場合、初回に諸費用などをまとめて支払い、2回目から59回目までは毎月定額を返済していくことになります。

最後の60回目(契約終了時)には、次の選択肢からローンを完済します。

1.車は買い取って乗り続ける。残価は一括で支払う(またはローンを組み直し返済を続ける) 2.残価は支払わず、ディーラーに車を返却する 3.車を返却して、新車に乗り換える 4.車を買い取り、その後売却する

選択肢によっては、まとまった資金が必要となります。また、売却の仕方によっては、譲渡益が生じ課税対象になることがあります。

残クレの主なメリットとデメリット

残クレの主なメリットとデメリットは次の通りです。

<メリット> ■契約時に残価が設定され、残クレの支払いを含め、家計支出計画が立てやすくなる ■毎月の返済額が抑えられる ■3年、5年間隔で、ほかの車に乗り換えやすい <デメリット> ■残価にも金利がかかり、総支払額は通常のローンより多いケースもある(後述参照) ■走行距離制限があり、超えると追加料金が徴収される ■車両状態によっては、返却時に修理費用などを請求される ■車の所有権はないので、車内外とも自由にカスタマイズできない

また、Aさんが契約した残クレの契約内容はつぎの通りです。

■購入総額:490万円(税抜車両価格:413万円、諸費用:35万円) ■残価:220万円 ■毎月の返済額(年利4.0%、5年(60回)返済):5万7,932円 ■残価率※:約53% ※残価を税抜車両価格で割って算出、高率なほど購入時人気の車種といえる ■支払総額:561万7,988円(残価220万円を含む)

参考までに、ある自動車ローンで上述の残クレ同様、年利4.0%、5年で返済すると、

■毎月の返済額:9万0,241円 ■支払総額:541万4,460円

となり、残クレのほうが毎月の返済額は抑えられますが、支払総額は高くなります。

購入から4年後…定年退職を迎えたAさん

Aさんは新車を購入して4年後、60歳の定年退職を機に、老後のライフプラン策定のため筆者のもとを訪れました。Aさんは退職後働く予定はないそうです。

そこで筆者は、A家の今後の収支を試算しました。Aさんが65歳になるまでの5年間は、いわゆる年金の谷間で無収入となります。65歳からは月24万円、68歳からは夫婦で月29万円の老齢厚生年金が受給の見込みです。預金残高はほとんど退職金で1,450万円ほどあります。

負債は、住宅ローンが残り2回(16万円)と、残クレが69万5,184円残っています。

Aさんの話では、老後は家計支出を切り詰め、毎月25万円くらいで生活する計画です。机上では、残クレを返済しながら、65歳まで貯蓄を取崩しながらの生活は可能ですが、貯蓄残高は100万円程度の計算になります。これでは無収入期間の借入金の返済が、家計を圧迫しかねません。

残クレ最高!思わぬ展開にAさんの笑いが止まらない

その悩みのタネである車について、Aさんは次のように話しました。

「みんなでドライブするために車を買い替えたものの、息子夫婦も車を持っており、私の車を使う機会はほとんどありませんでした。高級車だから盗まれるのも怖いしメンテナンスも大変で……もう売ってしまおうかと思って」

仮に車を高額で売却することができれば、確かに家計の助けになります。

そこでAさんは、現時点で売却した場合の相見積をとりました。その結果、売却価格はなんと約535万円。購入した時(490万円)よりも高くなっています。思わぬ展開にAさんは笑いが止まりません。

あとはAさんがローンの借入元本残債分(推定値で約45万円)と残価(220万円)を支払って、車を自分名義にして535万円で売却できれば、約270万円を手にすることができます(諸経費は考慮せず)。

「4年間アルファードに乗ってお金が戻ってくる! 世間ではなにかと残クレが叩かれていますが、私からしてみれば『残クレ最高』ですよ」と、Aさんは笑いながら話してくれました。

その人に適した制度を利用することが大切

Aさんは、これまでの4年間に278万0,736円返済しています。家計的には、必ずしも手放しで喜べる結果ではないかもしれません。また、残クレを活用したからといって、いつも今回のような結果になるとは限りません。Aさんの日頃のメンテナンスの賜物でしょう。

残クレを利用するときは、残価や返済額、金利などをディーラーなどに確認しながら、制度を正しく理解して、上手に利用することが大切です。  

牧野 寿和 牧野FP事務所合同会社 代表社員

(※写真はイメージです/PIXTA)