誰もが直面し得る「介護」。特に超高齢社会の日本では、要介護認定を受ける人が年々増加し、多くの家庭で身近な問題となっています。しかし、いざその時が来てから慌てないためにも、介護保険制度の基本や「要介護」「要支援」の違い、そして具体的な兆候を知っておくことが重要です。本記事では、山口一夫氏の著書『シニアライフの人生設計』(ごきげんビジネス出版)より、高齢者の介護の実態について解説します。

高齢者の要介護の実態

令和5年版高齢社会白書によると、介護保険制度における要介護または要支援の認定を受けた人(以下「要介護者など」という)は、令和2年度で668.9万人となっており、平成22年度の490.7万人から178.1万人(約36%)増加しています。

高齢化社会を迎えた日本において、さまざまな介護を必要とする人が年々増加していることは介護経験のある人にとって身近なことです。しかし、これまで介護経験がまったくない人たちにとって、「要介護」と「要支援」はどう違うのか疑問に思う人もいるでしょう。

「要介護」と「要支援」は介護度を示す言葉で、「介護度」とは介護を必要とする人の介護の程度の基準を表しています。介護度は要介護認定を受けることによって、「要支援1・2」「要介護1〜5」「自立(非該当)」の区分のいずれかに認定されるのです。

要支援1・2と認定を受けた人は、日常生活において多少支援が必要な人たちで、介護予防サービスが受けられます。要介護1〜5に認定された人は、日常生活全般においてなんらかの介護が必要な人で、要介護の程度「要介護1(低い)〜5(高い)」に応じて介護サービスが受けられるのです。

「要支援」「要介護」は実際に何歳くらいから認定を受ける人たちが増えていくのか、「要介護認定の状況」から見ていきましょう。

65歳以上の人を「65〜74歳」と「75歳以上」の2つに分け、それぞれ要支援・要介護の認定を受けた人の割合を見ると、「65〜74歳」では要支援1.4%、要介護3.0%に対して、「75歳以上」では要支援8.9%、要介護23.4%。これにより、75歳以上では要介護の認定を受ける人の割合が大きく上昇することがわかります。75歳上といっても、実際にどのような兆候が現れ出したら介護認定を検討するタイミングとなるのでしょうか、ここでは参考までに私の経験からお伝えします。

80代なかば、認知症の兆候

私の父は80代なかばまで元気にひとりで暮らしていました。しかし、80代なかばになると物忘れが少し多くなり、冷蔵庫のなかに同じ食べものがたくさん買い残されたままになり、日常生活に少し変化が出はじめたのです。それでも一緒に食事をしながら話しているときはほとんど違和感がなく、「父も年を取ったのかな」くらいに考えていました。

しばらくたったころ、中学の同窓生から飲み会の席で、次のようにいわれたのです。

「このあいだ、山口のお父さんが駅前で自分の家の帰り道に迷い、せんべい屋のご主人に聞いているところを見たけど、お父さん大丈夫?」私は耳を疑いました。父の住まいは駅から歩いて1分のところにあるため、道に迷いようがないと思ったからです。

心配になり、父と注意深く会話を進めていくと、昔のことははっきりと覚えているのですが、直近の記憶がほとんど飛んでしまっていることに気づきました。さらに、お風呂に入っているといっても実際は何週間も入ってなく、何か月も足の爪を手入れしていないことなどが明らかになっていったのです。

このまま父をひとりで実家に住ませておくことは危険と判断し、父を説得して近くの心療内科へ連れていきました。医院長の診察を受けると、長谷川認知症テストの結果、アルツハイマー型認知症にかかっていると診断。父はその後「要介護1」と認定を受けます。市の包括支援センターと相談したところ、家から近い老人介護施設の「通いサービス」「訪問サービス」「宿泊サービス」のどれかを受けられることがわかりました。

誰が介護を担うのか?

要介護者などから見た主な介護者の続柄を見ると、同居している人が54.4%となっています。主な内訳を見ると、配偶者23.8%、子20.7%、別居の家族など13.6%、事業者12.1%、子の配偶者7.5%。性別については、男性35.0%、女性65.0%と女性が圧倒的に多くなっています。

要介護者などと同居している主な介護者の年齢を見ると、60歳以上の男性72.4%、女性73.8%であり、「老老介護」のケースも相当数存在していることがわかります。介護者の世話について時間の面から見てみましょう。

同居している主な介護者が1日のうち介護に要している時間を見ると、「必要なときに手をかす程度」が47.9%と最も多く、「ほとんど終日」が19.3%。

当然のことですが、要介護度別に見ると、要支援1から要介護2までは「必要なときに手をかす程度」が最も多くなっています。要介護3以上では「ほとんど終日」が最も多くなり、要介護4では45.8%、要介護5では56.7%でした。

以上は同居している介護者の介護に要する時間でしたが、別居家族が介護者を支援する状況については残念ながら調査データがありませんでした。参考までに、私が要介護1と認定された父を別居家族として支援した際の経験から少しお伝えします。

まず私が行ったことは、心療内科の医院長の助言に従い、父の金融資産をすべてチェックし、弟とも相談したうえで私がすべて管理するように変更したことです。父は老人施設へのデイ・サービスを嫌ったので、かわりに地域包括支援センターの紹介で1週間に一度、父の話し相手に来てくれる人を紹介してもらいました。

幸いにも父の住む実家は私の通勤経路の途中に位置していたため、平日の通勤帰りと週末の土曜か日曜の週2回を目安に支援を開始。平日は一緒に夕食をとり、週末はもっぱら父をお風呂に入れ、洗濯をしました。支援を開始してから1年近くは、この連携でなんとか乗り切っていましたが、父が熱中症にかかり緊急入院してからは環境が激変。

結論として、通いで自分たちが父を支援することの限界を悟り、地域包括支援センターと相談し、父を老人施設へ移す覚悟をすることとなりました。

令和5年版高齢社会白書、第2節高齢期の暮らしの動向、2健康・福祉 2024年9月アクセス https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/html/zenbun/s1_2_2.html

山口 一夫 ライフデザイン講師