2020年のコロナ禍を舞台に、星に導かれる学生たちの青春を描いた映画「この夏の星を見る」が、7月4日(金)に公開する。本作で主人公・溪本亜紗を演じたのは桜田ひより。ほぼ全編マスク着用、夜空のシーンを昼に撮影するなど、非常に難易度が高く、想像力が試される現場を経験した桜田が、作品の持つメッセージ性に共感したことや、自身が逆境に陥ったときに前に進むためにとった行動などを語った。

【撮りおろし9枚】フリルのワンピースを身にまとう桜田ひより

■自身も高校生だったコロナ禍、だからこそ当時の気持ちが大きく反映できた

本作は、直木賞受賞作家・辻村深月の同名小説を映画化。コロナ禍でさまざまな学校行事や部活動が制限され複雑な思いを抱える中高生たちが、逆境を逆手にとり、各地で同時に天体観測を行い、星をキャッチする「スターキャッチコンテスト」をリモートで開催しようと奮闘する姿を描く。桜田は、茨城県の高校の天文部に所属する女子高生・溪本亜紗を演じている。

――本作はコロナ禍が舞台ということで、マスク着用での撮影、また星がテーマということで夜のシーンが多いなど、普段とは違う特殊な撮影だと感じた部分はありましたか?

マスクをしての撮影は珍しく、衣装合わせの段階から役に合ったマスクのフィッティングを行いました。柄物や手作りのものなど、大きすぎず小さすぎず、目がきちんと見えるようにサイズ調整までしていただき、その段階からいつもとは違うなと感じました。また、星空のシーンも基本的にお昼に撮っていたので、そういった特殊な撮影が多かったです。

――2020年のコロナ禍が舞台ですが、劇中の「これ以上私たちから何も奪わないで」というセリフなど、非常にリアルに感じました。この題材を描く上で気をつけたこと、また桜田さんにとって2020年はどんな年でしたか?

私も当時は高校生だったので、コロナ禍によって周りの環境が大きく変わりました。同い年の子たちが、修学旅行がなくなったり、イベントが中止になったりするのを間近で見ていたので、その時の自分の気持ちを大きく役柄に反映できたと思います。

演じてみて感じたのは、実際に高校生だった世代だけでなく、そういう子供たちを見守ってきた大人の方々もすごく切なかっただろうなということです。やりたいこと、させてあげたいことができないというのは、どちらの立場もすごく苦しかっただろうなと今になって感じます。

――桜田さん扮する亜紗と先輩役・晴菜を演じた河村花さんが「濃厚接触すみません」と会話を交わすシーンは、ぐっときました。

コロナ禍でなければ出てこない言葉ですし、お互いが学生だからこそ、危ないと分かっていても寄り添っていたいという人間の心理的なものをすごく感じました。私もあのシーンはすごく好きです。

■主人公・亜紗の持つ多面的な心!意識したことは「応援したくなるキャラクター」

――演じられた亜紗は、どのような人物だと捉えて演じましたか?また、意識していたことはありますか?

亜紗ちゃんは、「クラスにいてくれたらすごく楽しいし、盛り上がるだろうな」という人物像をイメージして演じました。彼女の行動力や発言の芯の強さが、人の心を動かしたり、自分も行動に移せるような、本当にかっこいい女の子だと思っています。

一方で、誰しも明るく見える人でも、大なり小なり葛藤や人に見せない弱さを持っていると思います。それをうまく隠せているだけだと。そういう部分があるからこそ人間味が出て、応援したくなるキャラクターになるのではないかと思い、そのギャップははっきりとつけた方が、見てくださる方が寄り添いやすいのかなと意識しました。

――物語の見せ場ともなるスターキャッチコンテストのシーンの撮影エピソードや裏話があれば教えてください。

実際に望遠鏡を触ったことがなかったので、クランクイン前に使い方を1から教えていただく機会がありました。覗くと天地が逆に見えるので、目標物を捉えるのが難しかったです。星は常に動いているので、少し先読みして合わせないとスターキャッチコンテストで得点にならないと知り、奥が深いなと思いました。

撮影中に夜空の星を捉えようとしたこともあったのですが、本当に少しずつ動いていくので、「宇宙って存在するんだ」と望遠鏡を覗いて改めて感じることができました。

――非常に瑞々しく繊細な登場人物たちが多い作品ですが、桜田さんの心に特に刺さったシーンはありますか?

最初にスターキャッチコンテストの件で東京から電話がかかってきたシーンが1番印象的です。「中学生でもできますか?」という一言で全てが動き出した瞬間というか。あれがあったからこそ実現できたものなので、そのシーンは1人での撮影でしたが、自分の中では特別なシーンになっています。あそこが本当のスタートで、パチっとエンジンが入るようなシーンですよね。

■何百回と落ち続けたオーディション、発想を変えてポジティブに

――最初のシーンで、子供が抱くような素朴な疑問について描かれる場面がありましたが、桜田さんご自身が小さい頃に「これ、不思議だな」と思ったことはありますか?

1番疑問に思ったことで覚えているのは、「テレビの中ってどうなっているんだろう?」ということです。5歳の時からこのお仕事をしていますが、きっかけもテレビを見ていて「自分もこれに出たい」と言ったことでした。

当時はテレビの中にいる人が実在するのかも分からなかったですし、チャンネルが変わって色々な人が出てくる仕組みも不思議でした。生放送なのかどうかも分からず、それが真っ先に浮かんだ疑問です。

――その疑問は、お仕事を始めていつ頃解消されましたか?

自分が出ているのを見た時ですね。「こんなふうに撮っているんだ」と。撮影している時も、それがどうやってテレビや映画のスクリーンに映るのか正直分からなかったのですが、完成したものを見て初めて「あの時の自分だ」と認識し、編集を経てああいう形になっているんだと理解しました。当時はまだ分厚い、奥行きのあるテレビでしたから、最初のころは余計に、テレビの中に人がいるんじゃないかと思っていたんです(笑)。

――リモートでのスターキャッチコンテストは、コロナ禍という制約が多いことを逆手にとったコンテストでした。桜田さんご自身の人生で、逆境だからこそアイデアを駆使して切り抜けたエピソードはありますか?

オーディションに何十回、何百回と落ち続けていた時期がありました。どうしてもメンタルが削られますし、毎回すごく悔しい気持ちになりました。でもある時、自分がオーディションに携わる側(相手役)として参加する機会があり、台本も全て知っている状態で皆さんの演技を見たんです。

本当に魅力的な方々ばかりでしたが、内容を知っていると「この役に合うのはこの人しかいない」と感じる方が確かにいました。それは演技の上手さだけではなく、その方がまとっている雰囲気など、役に合うか合わないかという部分が大きいのだと気づきました。その人がダメだったとか、良くなかったとかではないのだと。

――その気づきによって、メンタルは楽になりましたか?また、オーディションの結果に変化はありましたか?

こうした意識を持つようになったことから、オーディションに落ちたとしても「この役に合わなかっただけで、自分に合う役はきっとある。そのために自分も努力して、魅力を引き出せるようになろう」と思えるようになり、へこまなくなりました。メンタルは楽になりましたね。

結果がすぐに変わったという感覚はありませんでしたが、自分に合う役は必ず来るとポジティブに捉えられるようになりました。これまでも私はありがたいことに良いご縁に恵まれていると思うので、その出会いを1つ1つ大切にしていこうと思えるようになりました。

◆取材・文=磯部正和、撮影=MANAMI

桜田ひより/撮影=MANAMI