
自国に対する信頼が揺らいでいる富裕層の間で注目されている「ゴールデンビザ」。これは、高額な費用をかけてでも取得する価値があるとされる特別な滞在資格であり、自身の資産を守る有効な手段となり得ます。なぜ多くの人が大金を投じてまでこのビザを手に入れようとするのでしょうか。日本ではまだあまり知られていないゴールデンビザの仕組みや、そのメリットについて詳しく紹介します。
ゴールデンビザは富裕層にとっての「保険」
「ゴールデンビザ」とは対象国に一定額以上の投資を行うことで永住権や市民権を取得できる、その国が定めている投資プログラムの一つです。一般的に、投資した本人だけでなく、配偶者や子どもも対象となります。就労ビザや学生ビザなど、他のビザと比較して求められる要件が緩いのが特徴です。そのため、「半年に一度は必ず入国しなければならない」といった厳しい条件は基本的になく、一度取得すればずっと住むことができる国や、取得後に一度も入国しなくても良い国も多く存在します。
つまりゴールデンビザは、富裕層にとっての「保険」のような制度と言えるでしょう。住みたいときにいつでもその国へ移住できる権利、そしてもし自身が暮らす国に何かあった際にすぐに脱出できる権利は、非常に資産価値の高いものなのです。
ゴールデンビザがあれば行動の選択肢が広がる
国によって金額は異なりますが、なぜ多くの富裕層がたとえ1億円であっても投資してゴールデンビザを取得したがるのでしょうか。理由は、それぞれの国の事情が挙げられます。例えば、新型コロナウイルスが世界中に蔓延した際、各国でロックダウンが実施され、移動が制限されました。この時期は皆が自国で大人しくしている以外に方法はありませんでした。しかし、このタイミングでゴールデンビザを取得していた場合、いくつかの国では、有効なビザを持っていれば入国を許可するというルールがあったのです。
このように、ロックダウンや居住国で何か問題が発生した際に、ゴールデンビザを所持しているか否かで自身の行動の選択肢が全く異なります。そのため、万が一に備える「保険」の意味合いでゴールデンビザを取得する富裕層が多いのです。
ゴールデンビザが取得できる5つの国
1.アメリカ
2025年6月、ドナルド・トランプ大統領は「トランプ・ゴールドカード」という新しい移民プログラムを発表しました。この制度は約500万ドル(およそ8億円)を投資することで、アメリカの永住権(グリーンカード)に近い権利を得られるというもの。主に資産にゆとりのある外国人投資家を対象としています。働く必要はなく、十分な経済力と「国際的に優れた市民」としての適性があるかどうかが審査される仕組みです。
現在、すでに世界中から約7万人が公式サイトに登録し、制度の開始を待っている状況です。しかし、この制度を本格的に実施するには、アメリカ議会での移民法や税法の見直しが必要とされています。
このゴールドカードを手に入れると、アメリカに住んだり働いたりできるようになり、5年後には市民権の申請もできる可能性があります。トランプ大統領、この制度をアメリカの借金を減らすための新しい収入源として位置づけており、100万枚の発行で5兆ドルの資金を見込んでいます。ただし、実際に制度がスタートするには、まだいくつかの法的な手続きや制度整備が必要なので、気になる人は情報を注視しておきましょう。
2.ニュージーランド
ニュージーランドには「アクティブ投資家プラスビザ(Active Investor Plus Visa)」という、経済への貢献を目的に投資を行う外国人に対して、永住権取得への道を開くビザ制度があります。
ニュージーランド政府は2025年4月1日、このビザの制度を大幅に改定しました。今回の改定で特に注目されているのは「英語力の証明が不要になったこと」と「ニュージーランドに滞在しなければならない日数が少なくなったこと」です。これまで必要だったIELTSなどの英語のテスト結果を提出しなくてもよくなり、現地への滞在も、3年間で合計21日間など、短い期間でもよくなりました。
ビザを取得するには、最低でも500万ニュージーランドドル(約4億5,000万円)を投資する必要があります。ただし、どこに・どのように投資するかによって、必要な金額や条件が少し変わります。例えば、成長が期待される会社などに積極的に投資する「グロースカテゴリー」では500万ドル、より安定した投資先を選ぶ「バランスカテゴリー」では1000万ドルが必要です。滞在日数も、前者は3年で21日間、後者は5年で105日間と、それぞれ違いがあります。
3.イタリア
EU圏内のイタリアのゴールデンビザは、ヨーロッパへの移住を考えている方にとって有効なビザです。取得後はEU圏内であれば他国への移動にビザが不要となるため、旅行好きな方にも便利です。
投資によって2年間の滞在許可を得られ、その後3年間の更新ができるため、合計で5年間の在留資格が取得できます。5年間の在留資格取得後は、要件を満たせばイタリアでの永住権申請が可能です。さらに、そこから5年後、つまりゴールデンビザ取得から10年が経過すると、イタリア国籍を保有する資格を得ることも可能です(強制ではありません)。
イタリアのゴールデンビザのメリットはイタリアへの居住権利のほか、イタリアに住む場合の特別税制の申請や就労、子どもの教育、銀行口座開設、医療などが保証される点です。
■投資要件
・25万ユーロ以上をスタートアップ企業へ投資
・50万ユーロ以上を有限会社へ投資
・100万ユーロ以上を社会的に重要なプロジェクトへ投資
・200万ユーロ以上をイタリアの国債購入
・100万ユーロ以上の寄付という形でゴールデンビザを取得することも可能です(お金は返還されません)
4.スペイン
EU圏内のスペインのゴールデンビザは、イタリアと同様にヨーロッパへの移住を考えている方に有効なビザで、取得後はEU圏内であれば他国への移動にビザは不要です。配偶者や子どものビザも取得でき、語学力などの要件や「〇日間滞在必須」といった居住要件もありません。さらに、10年後には市民権を得てスペインのパスポートを取得することも可能です。
取得要件は18歳以上、投資資金はスペイン国外で得ていること、犯罪歴が無いこと、スペインに借金がないこと、最低限の健康保険に加入していることなど、とてもシンプルです。
もし永住権を取るなら、最低5年間スペインに住む必要があり、その間に10ヶ月以上スペインを離れてはいけません。また、連続で3ヶ月以上スペインから離れることも不可です。さらに、市民権を取るなら永住権を保有し、10年以上スペインに住んでいることに加え、スペイン語の能力や法律に関する知識が求められます。
■ゴールデンビザのオプション
・スペインの不動産購入(50万ユーロ以上)。複数の物件を組み合わせて50万ユーロ以上でも可。
・スペインの銀行に100万ユーロ以上の預金を入れる
・スペインの企業の株式購入(100万ユーロ以上)
・スペインの投資ファンドに投資をする(100万ユーロ以上)
・スペインの国債を200万ユーロ以上購入する
5.ドバイ(UAE)
ドバイのゴールデンビザは、他の国と比較して比較的低予算で取得可能で、要件が緩く滞在日数の縛りもありません。更新もしやすく、家族全員で移住できるのが特徴です。
また、世界的に安全な避難先というイメージが強く、政情不安定な国から逃れてくる人や出稼ぎに来る人も多くいます。税金が非常に安く、所得税は無税、固定資産税もなく、法人税は9%と、諸外国と比べて格段に低いのも特徴です。
ドバイのゴールデンビザを取得すると、様々なメリットがあります。まず、銀行口座開設が可能です。政府系の銀行は安全性が高く、複数の通貨を扱えるマルチカレンシー対応のため、非常に使い勝手が良いのが特徴です。また、ゴールデンビザ保持者はドバイでの医療面で優遇を受けられるほか、一部の商業施設では飲食時の割引が適用されることもあります。さらに、ドバイは法整備が整っており、役所の対応が迅速なため、行政手続きがスムーズに進みます。家族のビザ取得なども円滑に行えるでしょう。そして、最も魅力的な点の一つは、UAEに30年間居住することでUAE市民権を取得するチャンスが得られることです。
■ドバイのゴールデンビザの取得方法
・200万ディルハム(約8,000万円)以上の不動産投資: 10年間のゴールデンビザが取得でき、物件を所有している限り更新も可能です。配偶者や子どものビザも取得でき、現地での仕事や事業の自由度が高く、会社設立もスムーズに進みます。
・75万ディルハム(約3,200万円)以上の不動産投資: 2年間のビザが取得可能です。こちらも2年ごとに更新ができ、比較的少額の投資でドバイの居住権を得られます。配偶者と子どもも一緒にビザを取得でき、ドバイで物件を所有している限りビザ更新ができるため、試しにドバイへ住んでみたい方や、住んでみてドバイで暮らし続けたい方にも比較的安価な投資でおすすめです。
「ゴールデンビザ」は単なる投資ではなく、万が一の「保険」であり、「自由」を手に入れる手段です。自分の大切な資産を守るために、今できる選択肢を今一度見直してみませんか。
宮脇 さき
海外不動産投資家・海外移住コンサルタント

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