
日本企業と外資系企業にはさまざまな違いがありますが、その一つが、外資系企業では業界の外へ意識を向け、自身の考えを他人に共有できる「外界志向」が重要視されること。一方で、「根回し」と「気配り」ができる能力も欠かせないといいます。今回は、サーチ・ビジネス(ヘッドハンティング)のパイオニアである東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)代表取締役社長・福留拓人氏が、外資系企業と日本企業を比較しながら、これからの時代にビジネスパーソンが持つべき意識について解説します。
外資系企業で重要な「根回し」と「気配り」
外資系企業の魅力の一つは、カルチャーに多様性があり、「村八分」のようなことが起きるような組織体ではないことです。そんな環境のせいか、役員も社員も自分の仕事を堂々と語れるようになります。これこそが、最も必要な能力ともいえます。外資系では、黙っていても誰かが察してくれることはありません。自分のことは自分から積極的に発信していかなければ、理解してもらえないのです。
それから、意外に思われるかもしれませんが、「ピラミッドのなかで皆がぬくぬく」という組織ではない分、外資系では日本企業以上に根回し・気配りが重要になります。
というのも、外資系企業は一見すると権限委譲が進んでいるように見えて、実は利害関係者が多く、レポーティングラインがはっきりしている割に関与する人が多いのです。こうした中では、関係者の根回しを嫌がらずにできる人でないと、物事がうまく進みません。だからこそ、根回しと気配りができる人は、想像以上に評価されるところがあります。
昔の話になりますが、現在当たり前のように使われている「メールのCC」は、電子メールができたときにアメリカ企業が根回しを効率化する目的で作られたといわれています。海外でも、それほど根回しは重視されているのです。
日本企業ではマイナスイメージの「外界志向」
フットワークの軽さは万国共通で通用する資質。その土台となる「外界志向」も同様です。つまり、「世の中で何がよいと思われているのか」に敏感で、好奇心を持って貪欲に吸収していくようなタイプの人は、どんな環境でもうまくいきます。
しかし、「世の中でよいとされるものでも、知る必要はない」と思っている人が、日本企業には少なくないようです。たとえば、AIやDXが注目されている今でも「いらない」と考える人が一定数います。こうした考えのまま外資系企業に入ってしまうと、「あのメンタリティは信じられない」と思われてしまいます。
危険が身に迫っているのに何もしない人、雑音だと思って切り捨ててしまう人が実際にいるのです。日本企業における外界志向のイメージはプラスというよりマイナスで、一部では「また雑音を持ち込んで」と煙たがられているという現実もあります。
日本の大企業では内向き志向の人が重用されやすく、「これを言っちゃうとまずいな」と考える“内弁慶”が少なくありません。外に出てうっかり余計なことを話せば「なぜそんなことを言ったんだ」と責められることもあり、次第に「なるべく大人しくしていよう」と考えるようになります。
そうなると、たとえ海外から要人が来ても、「よし、日ごろ思っていることをざっくばらんに話そう」というタイプの役員クラスの人はどんどん少なくなっていきます。その結果、向こうからは「ここには来る甲斐がない」と思われてしまうのです。
「時は金なり」を体現する外資系トップ
外資系企業のトップクラスの人たちは「1時間あたりいくらの収益責任を負っているか」という意識を明確に持って仕事をしています。ですから仕事で時間を使ったのに成果がないということは、明日の食事に困るという感覚を持って仕事をしています。それだけプロ意識が高い、いわば「狩猟民族」なのです。
私たち日本人も、仕事の時間に対して「時給〇万円」という意識を持つべきです。問題意識の低い相手と会って時間を浪費したら、その分はどこかでまた穴埋めしなくてはならなくなります。外資系企業のトップ層には無駄がなく、非常に効率を重視します。「時は金なり」ということわざがありますが、まさにそうあるべきなのです。
日本独自の「外界志向」を企業の強みに
最後に強調しておきたいのは、欧米の価値観を全面的に崇拝すべきだと言っているのではないということです。以前、人事評価制度に言及したコラムでも触れましたが、「謙虚に外から学ぶ姿勢」は非常に大事です。とはいえ、新しい考え方に慣れるには時間がかかります。筋トレと同じで、最初は苦痛に感じることもあるでしょう。
それでも、外の世界や自分に見えていないものを意識しながら、真剣に10年ほど取り組んでみる。そこで得た知見を、日本独自の強み――メンタリティや温かさ、朗らかさ――と融合させて、加工貿易のようにオリジナルの価値を創り出すことが重要です。
一方で、「自分たちには関係ない」とばかりに外の情報に目を背け、耳をふさいでしまう姿勢は、停滞ではなく衰退につながります。
今回ご紹介した内容は、外資系に勤めていない人にとっては耳が痛いかもしれません。しかし、こうした価値観で高い成果を出しているビジネスパーソンが数多く存在するということを、ぜひ一つの刺激として受け取っていただければと思います。
最後に、読者のみなさまも、「根回し」と「気配り」という古くて新しいコミュニケーションの価値を、今一度見直してみてはいかがでしょうか。
福留 拓人 東京エグゼクティブ・サーチ株式会社 代表取締役社長

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