2024年、鳥取県は全国に先駆けて、実在する未成年者の顔写真を使ったディープフェイクポルノの作成を禁止する条例改正に踏み切りました。

SNS上にアップされた学校行事の写真、部活動の集合写真、そんな何気ない1枚が、AI技術によって性的な画像に加工される——。そのような事態に対応するため、鳥取県は2024年2月に禁止規定を設け、6月には過料やデータ削除命令といった行政罰を追加する条例案を可決しました。

鳥取県家庭支援課によると、「現時点で県内での被害が県に報告されているわけではない」ものの、全国的な被害状況を踏まえ、早期に条例制定に踏み切ったといいます。その経緯や内容について詳しく聞きました。

● なぜ「刑事罰」ではなく「行政罰」なのか

鳥取県の条例改正は、2段階で進められました。2024年2月の県議会では、まず実在する青少年の容ぼうの画像情報を加工して、ディープフェイクポルノを作成することを禁止しています。

しかし、当初より「禁止だけでなく罰則が必要」との声が上がっていたそうです。

当初罰則を設けなかった理由について、家庭支援課は次のように説明します。

「検察などの機関との協議を進めていましたが、数カ月かかるもので2月の時点では回答が出るような状況ではありませんでした。禁止するだけでも十分意義があると考えましたので、まずは禁止規定を2月の議会で置きました」

検察官との協議は「(法律上必要というわけではなく)慣例的なものです」といいます。

協議の結果、刑事罰を科すことについては「適用が困難」との回答があり、県は刑事罰を科すことについては断念をし、行政罰としたそうです。

● 「実在する子ども」に限定、架空人や大人は規制対象外

今回の条例では、規制対象を「実在する未成年者」に限定しています。

具体的には、第一に、AIで生成される姿態すべてではなく、「青少年の容貌の画像情報を加工して作成した姿態(当該青少年の容貌を忠実に描写したものであると認識できる姿態に限る。)」と限定しています(条例10条9項)。

したがって、架空の人物のポルノは、規制対象には含まれません。

第二に、本規制は、あくまで18歳未満の「青少年」(条例10条1項)を保護するものであり、成人に対するディープフェイクポルノは対象外となっています。

家庭支援課によると、「(大人の保護が必要ないという認識ではないが)まずは子どもの保護のための条例を制定した」とのことでした。

● 相談窓口の設置と啓発活動

鳥取県は4月から青少年向けのSNS相談窓口を設置しました。

この窓口では、ディープフェイクポルノだけでなく、SNSトラブル全般の相談を受け付けています。

必要に応じて、インターネットホットラインセンターや犯罪被害者支援センターなど、専門機関への橋渡しも行います。

啓発活動にも力を入れており、学校向けのチラシ配布や専門家チームによる効果的な周知方法の検討を進めているとのことでした。

県のホームページからダウンロードできるチラシもありますが、6月の改正内容はまだ反映されていないとのことです。

削除請求についてはまだ様々な課題が残っているようです。たとえば法的な問題として、行政側から削除請求を求めたとして、認められるのかもまだ不明確なようです。

● 既存の法律では規制できないのか

家庭支援課によると、「既存の児童ポルノ法でも、AIで作成された実在する子どもの画像を厳正に取り締まってほしい」と考え、国に対してそのような要望を出したりもしたといいます。

法解釈上は、法的な規制の及ぶ「児童ポルノ」について、ディープフェイクであっても、実在する児童の姿態を視覚により認識できる方法で描写したと認められる場合、児童ポルノに該当しうるという見解もあります(なお、最決令和2年1月27日など参照)。

しかし、現実にはこのような解釈にもとづいて、実在する児童の姿態を認識できるようなディープフェイク画像について、児童ポルノ法による処罰がなされているとはいえない状況です。

また、公開されてしまっている画像について、SNS事業者を取り締まることも考えられますが、そういった規制は法律によることが必要と考えられます。

このような現状で、条例による規制が一定の抑止になることが期待されます。

条例は猶予期間を設けて施行される予定で、その間に運用体制を整備していく方針とのことです。先駆的な取り組みだけに、その効果が注目されます。

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