
個人事業主は事業活動に直接関連する「食事代」を経費として計上できます。経費が増えれば所得額が減るため、節税にもつながるでしょう。では、具体的にいったいどこまで経費に計上することができるのでしょうか? 経費計上が“認められるケース”と“否認されるケース”の差について、税理士法人松本の代表税理士松本崇宏氏が具体例を交えて解説します。
個人事業主が食事代を経費に計上することは可能?
個人事業主が食事代を経費に計上することは可能です。しかしながら、すべての食事代を経費に計上できるわけではありません。経費に計上することができる食事代は、事業のために必要と認められる食事にかかった代金だけです。
事業のための食事代は経費に計上することができる
事業のための食事代とは、取引先との打ち合わせが長引いたために用意したお弁当などの代金、取引先と食事をしながらミーティングを行った場合の代金などが考えられます。
そのほか、新たな取引につなげるため、また良い関係を維持するためなどを目的にして行った取引先を対象とした接待の飲食費用や同業者との交流を目的に参加した食事会の代金なども、事業活動に直接関連する場合は、経費に計上することができます。
プライベートな食事の代金を経費に計上することはできない
事業と直接関連した食事代は経費に計上することができますが、反対に、事業とは関係のないプライベートな食事の代金は、経費に計上することはできません。
例えば、仕事の合間にランチに行ったときの食事代、仕事を終えて友人と食事をしたときの代金、家族とレストランで食事を楽しんだときの代金などは、プライベートな費用に該当します。そのため、これらの食事代を経費に計上することはできません。
食事代を経費計上する際に使用する勘定科目とは
前述のように、事業に直接関連する食事代であれば経費に計上することができます。では、経費として計上する際、どのような勘定科目を使って食事代を計上すればよいのでしょうか。
個人事業主が食事代を経費計上する際に使用することの多い勘定科目をご紹介します。
会議費
食事をしながら会議をした場合の食事代金は会議費として計上可能です。
例えば、レストランでランチミーティングをした場合や夜に食事をしながら打ち合わせをした場合などの食事代は、会議費として計上します。会議の相手は取引先であっても、従業員であっても構いません。また、会議中に用意したお弁当や飲み物の代金なども会議費を使用します。
交際費
取引先など、社外の関係者を接待する目的で開催した食事会にかかった費用は、交際費として計上します。法人の場合、交際費として計上できる額には上限が設けられていますが、個人事業主の場合、上限額は設定されていません。また、食事代以外にも、接待目的のゴルフの費用や取引先への贈答品の購入費用なども交際費として計上することが可能です。
福利厚生費
従業員と忘年会や新年会を開いた場合など、従業員の慰労を目的に開催した食事会の代金は、福利厚生費として経費計上が可能です。ただし、福利厚生費として処理できるのは、従業員全員が参加できた場合に限られます。特定の人だけが参加した食事会の場合、経費として計上することはできない点に注意が必要です。
雑費
雑費は、ほかの勘定科目に該当するものがない場合に使用する科目です。
経費に計上できる?…迷いやすいシーン
経費に計上することができる食事代であれば、経費として計上し、節税につなげたいものです。しかし、経費に計上することができない食事代まで経費に計上してしまうと、税務調査で指摘を受けることになってしまいます。
ここでは、食事代を経費に計上することができるのかどうか、迷いやすいシーンに合わせた具体的な例をご紹介します。
空き時間にカフェで仕事をしたときの食事代は経費に計上できる?
今は、パソコンさえあればどこでも仕事ができてしまう時代です。クライアントを訪問した際、アポイントまでに空き時間ができた場合などは、カフェに入り、コーヒーなどを飲みながら仕事をするケースもあるでしょう。この場合のコーヒー代は、事業に直接関連した支出であるとみなされるため、雑費として経費計上が可能です。
ただし、ランチをしながら仕事をしていた場合などは、仕事をすることではなく、食事を摂ることがメインになると捉えられるため、経費に計上することはできません。
ホテルのラウンジでクライアントと打ち合わせをしたときの食事代は経費に計上できる?
遠方の取引先と打ち合わせをする場合など、カフェやレストランよりも落ち着いて話せる場所として、ホテルのラウンジを使うケースもあるでしょう。ラウンジで取引先と打ち合わせをする場合、食事代は会議費として経費計上が可能です。
取引先とファミレスでミーティングをしたときの食事代は?
取引先とファミレスで食事をしながらミーティングをした場合にかかった食事代は、事業に直接関連した食事になるため、経費計上が可能です。この場合も勘定科目は会議費とするケースが一般的です。
会議が長引いたためにお弁当を買った場合は経費に計上できる?
取引先との打ち合わせが長引き、お弁当や飲み物を購入した場合の代金も、事業に直接関連した支出として認められるため、経費計上が可能です。また、従業員だけの会議が長引いた場合に買ってきたお弁当代も、会議費として計上が可能です。
接待のために使った食事代は経費に計上できる?
クライアントを接待する目的で食事会を開く場合もあるでしょう。その場合にかかった食事代は、交際費として経費計上が可能です。
出張先での食事代は経費に計上できる?
出張先での単独の食事代は経費に計上することはできません。ただし、朝食付きのホテルに宿泊する場合などは、朝食の料金は宿泊代に含まれると考えられます。そのため、そのような場合の朝食代は、旅費交通費として経費計上が可能です。
また、出張先でクライアントと食事をしながら会議を行った場合や打ち合わせ後に接待目的の会合を開いた場合などの食事代は、会議費または交際費として経費計上が可能です。
「交流会」「お疲れ様会」の費用を経費に計上する際の注意点
同業者の交流会に参加した場合の参加費は経費に計上することができる?
情報交換のため、同業者が集まる交流会に参加した場合の食事代は、事業に直接関連した支出として捉えられる場合は、経費計上が可能です。この場合は、交際費として計上するケースが一般的です。
ただし、交流会で交流を深め、交流会後にプライベート目的で食事に行った場合などは、食事代を経費に計上することはできません。
従業員とお疲れ様会を開いた場合の食事代は経費計上できる?
業務の繁忙シーズンが終わったタイミングなどで、従業員をねぎらう意味合いで食事会を開くこともあるかもしれません。そのような場合の食事代は、福利厚生費として経費に計上することが可能です。ただし、社会通念上、1人当たりの食事代があまりにも高額になる場合、税務調査で否認される可能性がある点に気を付けましょう。
個人事業主が食事代を経費に計上する場合の注意点
事業に直接関係する食事代であれば、経費に計上することができます。しかし、裏を返せば、その食事代が事業と直接関連するということを証明できない場合、経費計上が認められない可能性もあるのです。
したがって、食事代を経費に計上する場合には、次の点に注意することが大切です。
領収書やレシートを必ず保管しておく
領収書やレシートは、支払いが発生したことを証明する証拠書類となります。クライアントとの会議にお弁当を支給した場合も接待目的の食事会を開いた場合も、支払った金額や支払った場所を証明する領収書やレシートが必要です。
ただし、会議に出す飲み物を自動販売機で購入した場合などは、領収書を受け取ることができません。そのような場合は出金伝票を作成し、支払年月日や支払った金額、購入したものの内容、単価、本数、会議に参加した相手の名前などを記録しておくと、領収書の代わりとすることが可能です。
食事の相手や目的を記録する
領収書やレシートを保管している場合、支出があったことや支出した金額については証明が可能です。しかし、本当に事業に直接関連した食事であったのかという点については、領収書やレシートだけで判断することはできません。
業務に関連した食事を行うケースがあるのも事実ですが、プライベートでも必ず食事はするものであり、領収書やレシートだけでは、事業に直接関連した食事だと主張することは難しいのです。
そのため、領収書やレシートの裏や別添えのメモで、誰と、何をした際の食事代なのかを、分かりやすく記載しておくことが大切です。
また、取引先の名称だけでなく、会食の目的、参加人数や参加者の氏名なども記載しておくと、税務調査で指摘をされた場の説明に役立つでしょう。
個人事業主が食事代を不正に経費に計上していた場合のリスク
個人事業主の場合、プライベートな食事代を経費に計上すれば経費を水増しでき、納税額を抑えられるため、プライベートな食事代まで経費に計上するケースが見られます。本来、経費として計上できない食事代を経費として計上する行為は、経費の水増しに該当する不正行為です。
税務調査で食事代に関する不正が疑われるケース
税務調査時には、経費に関連する領収書もチェックされます。その際、同じ飲食店での領収書ばかり経費として計上されている場合や領収書の金額などを改ざんした痕跡が見られるケースなどは、食事代の不正計上が疑われるでしょう。
個人事業主の場合、従業員の数がそれほど多いわけではありません。また、法人に比べると事業規模も小さくなるケースがほとんどです。
それにもかかわらず、福利厚生費として処理されている食事代や会議費として計上されている食事代、交際費として計上されている食事代が高額な場合などは、プライベートな食事代まで経費に計上しているのではと疑われる可能性が高くなるでしょう。
経費の不正計上が発覚した場合は追徴課税がなされる
本来は経費として計上できない食事代を経費に計上していたことが税務調査で発覚すると、正しく確定申告をし直し、不足分の税額を納めるよう求められます。それだけでなく、過少に申告をしたことの罰金として過少申告加算税も課せられることとなります。
また、領収書を偽造していた場合や架空の領収書を作成していた場合など、悪質な行為があり、仮装行為と判断された場合には、過少申告加算税より税率の高い重加算税が課される可能性もあります。
過少申告加算税の税率は通常、不足分の税額が50万円までの部分については10%、期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分については15%です。
一方、過少申告加算税に代えて重加算税が課される場合、重加算税の税率は通常、35%であり、過少申告加算税よりも厳しい罰金が課されることになります。
事業関連の経費を否認されないために
事業に直接関連した食事代であれば、経費に計上することが可能です。しかし、事業との直接関連がない、プライベートな食事代まで経費に計上することはできません。交際費に上限額が設定されている法人に比べ、個人事業主には交際費にも上限額がないため、プライベートな食事代まで経費に計上することで節税を図ろうとするケースが見られます。
しかし、同業者や同程度の事業規模の個人事業主に比べ、会議費、交際費、福利厚生費など、食事に関連する勘定科目の額が大きすぎる場合、不正を疑われることになります。
たとえ、事業に直接関連した食事のための支出であっても、領収書やレシートがない場合や参加者や参加人数、目的などを答えられない場合、経費を否認される可能性もあります。
税務調査での指摘や罰金を避けるためには、日頃からプライベートと事業に直接関連する食事代をしっかりと区分し、正しく経費計上をすることが大切です。
また、事業に直接関連した食事代の場合には、参加人数や参加者の名前、会食の目的などについて記載したメモを残すことも忘れないようにしましょう。
松本 崇宏
お客様からの税務調査相談実績は累計5,000件以上。国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線からの視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴税額ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。
税理士法人松本
税務調査特化税理士法人として全国6ヵ所(渋谷、錦糸町、新宿、横浜、柏、大阪)にオフィスを構え、“成功報酬型”税務調査サポートを提供する税理士事務所では国内No.1の規模を誇る。国税局に勤めていた、いわゆる「国税OB」が複数名所属。税務調査相談実績は累計5,000件以上。一般業種より税務調査が厳しいといわれる風俗業界の税務に10年以上特化し、追加徴税額ゼロ円の実績も多数。

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