アンズ、ゴールドコースト、シドニー……これらの都市に共通するのは、都市のすぐそばに美しい海が広がり、暮らしの一部として“海とともにある時間”が流れていることです。オーストラリアでは、海は特別なものではなく、あくまで日常の延長線上にあります。オーストラリアの生活文化と、同国ならではの「資産」についてみていきましょう。Keyaki Capital株式会社代表取締役CEOの木村大樹氏が解説します。

観光客驚がく…オーストラリアの“あたりまえ”

オーストラリアは、世界でも有数の美しい自然に恵まれた地形です。その東側といえば、世界遺産であるグレートバリアリーフへの玄関口・ケアンズを起点に、クイーンズランド州のゴールドコースト、そしてシドニーへと、雄大な自然と都市が連なる帯状のエリアとなっています。

日本人観光客にも馴染み深いケアンズでは、朝になればトリニティ湾に面するマリーナからツアーボートが次々と出発していきます。

※ マリーナヨットや小型船を泊めておく、小さな港や水域(の施設)。

観光客にとって、こうした風景は “非日常“として映るかもしれません。しかし当然、地元の人にとっては日常そのもの。週末のマリーナに向かえば、釣り竿とサンドウィッチを手にボートで出航する家族や、子どもにハンドルを握らせて笑う父親、マリーナ脇でのんびり昼寝をする犬と飼い主──観光ガイドには決して載っていない、生活としての“海”がそこにあります。

生活に必要不可欠な「マリーナ」

実は、オーストラリアでは10人に1人がボートライセンスを保有しています。この数字からも、家族や友人とマリーナへ出かけ、海を楽しむといったライフスタイルが根づいていることがわかるでしょう。オーストラリア住宅街を歩くと、トレーラーに乗せたボートが庭に置かれている光景がよく見られます。

とはいえ、どんなボートも自宅に保管できるわけではありません。特に10mを超えてくる大型船舶になると、物理的にもインフラ的にもマリーナが不可欠です。電力、燃料、水の供給、清掃、修繕……それらを一手に担えるのはマリーナだけです。

現在、オーストラリアには約90万隻のボートが登録されていますが、マリーナの係留スペースは約6万5,000しかありません。特に大型艇の保有数が年々増加しており、2024年までの5年間でその数は8.4%も上昇しています

※ Boating Industry Australia Marine Industry in Australia by the numbers 2024 Industry Data

このように、需要と供給のギャップが生まれ、既存マリーナの価値は確実に高まっています。

シドニーは富裕層の街?…街ごとに異なる“暮らしの肌感”

オーストラリアでは、国民の約85%が海岸から50km圏内に住んでおり、海は日常に深く根ざしています。その一方で、同じ東海岸でも都市によって “暮らしの肌感覚”が異なります。

たとえば、ケアンズ。日本人観光客にも馴染みのあるこの町では、海と山に囲まれた自然環境のなかで、暮らしは穏やかに回っています。家族連れでも外食は比較的リーズナブルで、家賃相場もシドニーなどに比べると明らかに控えめです。

他方、オーストラリア最大の都市であるシドニーは、平均年収が高く、消費水準も東京と同レベルに匹敵、あるいはそれ以上です。

家賃や食費、教育費、娯楽費など、そのすべてが“それなり”にかかり、街の中心部で暮らそうと思えば、ゆうに年収10万豪ドル(約1,000万円)以上は必要になります。

それでも多くの人が海辺に暮らすことを選ぶのは、海のある暮らしが、彼らにとって心を整える“日常の贅沢”であり、人生の質を高めてくれる存在だからです。

ゴールドコーストはその中間。生活費はシドニーより抑えられつつも、観光都市としての機能を持ち、カジュアルに海とつながる暮らしができる街です。リタイア層にも人気があり、ボートを庭先に置いている家庭も珍しくありません。

マリーナ」の停泊料も都市によって異なる

こうした暮らしの肌感の違いは、マリーナの停泊料にもはっきりと表れます。

たとえば12m級のボートを月額契約した場合、シドニーDouble Bay Marinaでは約1,700豪ドル。一方、ゴールドコーストのSouthport Yacht Clubは1,200豪ドル(約12万円)、メルボルンのYarra's Edge Docklandsでは893豪ドル(約8万9,300円とされています。

ただし、これらの価格はあくまで「12m級の艇を月単位で係留する場合」の目安であり、契約方法や期間、時期(繁忙期か否か)などにより実際の金額は大きく変動します。

とはいえ、都市だけでなく、マリーナごとにも価格差が存在する点には留意が必要です。

暮らしに根づく「マリーナ」に潜む投資妙味

いずれにせよ、オーストラリア東海岸で根づく“海とともにある暮らし”は、観光資源であると同時に、地域社会のインフラとしてたしかな需要に支えられています。

なかでもマリーナは、単なる観光施設ではなく、地元住人にとって「海の玄関口」として、日常生活に深く溶け込んでいることがわかるでしょう。

一方、マリーナは環境規制の影響により新規開発が難しく、供給には制約があります。

そして、ここに世界中の投資家が目をつけました。旺盛な需要があるにもかかわらず供給が制限されているマリーナは、構造的な強みをもつ「貴重な投資対象」として注目を集めているのです。

需要が供給を上回っていることから稼働率は高く、主要な収益源である停泊料や保管料は長期契約に基づくため、安定した収入が見込めます。さらに、修理工房やレストラン、燃料販売などの付帯サービスによって収益源が多様化されており、堅固なビジネス基盤が形成されている点も魅力です。

さらに、オーストラリアマリーナ業界は小規模事業者が中心であることから、統合や運営効率の改善により、将来的なバリューアップの余地もまだ大きく残されています。

安定資産を組み入れることでポートフォリオを強固に

地政学的リスクや市場の変動に左右されにくい“構造的な強み”は、富裕層や機関投資家が注目する理由となっています。

大切な資産を守るためにも、株式や債券などの伝統資産だけに頼るのではなく、短期的な相場変動に依存しない安定的な資産として、マリーナ投資は極めて有力な選択肢といえるでしょう。

木村 大樹

Keyaki Capital株式会社

代表取締役CEO

(※写真はイメージです/PIXTA)