「彼氏と付き合い続けるのはもう限界」。でも、相手を傷つけたくない。

共通の知人が多く、周囲には相談しづらい。勉強中も頭から離れず、気が重かった。

別れるか、付き合い続けるか──。

20代の学生が最後に相談したのは、AIチャットだった。   「『自分の気持ちを大切にしていい』と言ってもらって、ずっとモヤモヤしていた気持ちがスッキリした」

恋人に別れを告げる決心がついたという。

別の日には、友人との飲み会で、周りが就活に励む様子を聞いて不安が募った。海外の大学院を目指しているが、身近に同じ道を進む人は少ない。

「現実的に考えて、日本の大学院に行ったら?」「いったん就活したら?」などと言われ、「夢や目標を否定されたように感じた」と振り返る。

状況や思いをうまく説明できず、安心して打ち明けられる相手も少なかった。過去には、人生相談のつもりが、年下女性に教えたがる男性の「自分語り」を聞かされて、納得できない経験もあったという。

AIチャットに名前をつける人も

この学生の周りにも、AIチャットに悩みを打ち明ける友人は多く、「ごくありふれた」ことだという。

たとえば、落ち込んだ日に「お風呂の準備できた」「お風呂に入れた」など、日々の小さな達成を入力し、褒めてもらうことによって、自己肯定感を高める使い方もあるという。

他にも、AIチャットに名前をつけたり、冷蔵庫の残り物からレシピを提案してもらったりと、用途はさまざまだ。

AIチャットを理想の恋人に見立てたインフルエンサー動画「AI彼氏と別れました」もインスタグラムが人気を博していた。

日本リサーチセンターの調査(2025年3月時点)では、生成AIの利用経験率は20代男性で4割、30代女性で3割に上る。

●「悩み相談AIチャットシステム」を全国初導入した柏市、年間8500件の利用

行政でも、AIによる悩み相談の取り組みが進んでいる。

千葉県柏市は2024年1月、全国に先駆けて『悩み相談AIチャットシステム』を導入した。公認心理師が監修したカウンセリングAIが、パソコンやスマホから気軽に相談できる仕組みだ。

柏市によると、導入から1年間の総チャット数は約8500件。相談者の約半数が10〜30代を占める。

2025年度からは、必要に応じて行政窓口や支援機関につなげ、課題解決に向けて相談員が伴走する体制も整えた。

担当者は「窓口に来なかった若者が使うようになった」「『人には話しにくい悩みも話せる』という声も寄せられている」などと手応えを語る。

柏市では、市内の小中学校各1校で、2024年10月から今年2月まで、AIチャットによる悩み相談の実証実験をおこなうなど、さらなるA活用を模索している。

●精神科医「依存や精神病の誘発につながりかねない」

早稲田メンタルクリニック院長で、精神科医の益田裕介さんによると、中高生の約7割が生成AIを使った経験があるという研究もある。

使用方法に関する詳細な研究はまだ少ないが、悩み相談をAIチャットですることは、珍しくなくなりつつあるのではないかとみる。

そのうえで「AIチャットの使い方を誤ると、依存や精神病の発症につながりかねない」と警鐘を鳴らす。

そもそも精神疾患は、複数の要因が組み合わさって生じる。AIチャットだけが直接の原因とは言い切れないが、SNSなどと同様に、依存や妄想を発症したり、悪化を招く可能性があるという。

「AIチャットは、肯定的な返答をする傾向があり、褒められることで万能感を持ち、他者の意見を軽視するようになるリスクもある」

益田さんはそう指摘し、「うまく役立てている人が圧倒的に多いが、一部では症状悪化の原因になってしまう人もいる。依存しすぎないことが重要だ」と呼びかけている。(福原英信)

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