6月26日、『ペルソナ5: The Phantom X』(以下、『P5X』)が日本でもリリースとなった。

【画像】高評価を獲得している『ペルソナ5: The Phantom X』のスクリーンショット

 本稿では『P5X』の現在地を踏まえ、盛り込まれた制作のアプローチがゲーム業界のIP展開に持つ意味を考えていく。近い将来、モバイル/PCでリリースされる人気IPのスピンオフは、各メーカーが内製で開発を手掛けるものではなくなっていくのかもしれない。

■『ペルソナ5』の世界観をベースにした他社開発のスピンオフ『P5X

 『P5X』は、アトラスの人気RPG『ペルソナ5』の世界観をベースに制作された同作のスピンオフタイトルだ。開発を手掛けたのは、オープンワールド・アクションRPG『Tower of Fantasy(幻塔)』で知られる中国のパーフェクト・ワールド(厳密には同社傘下のBLACKWINGSスタジオ)で、原作の開発/発売に携わったセガ/アトラスは、監修協力を担当している。プレイヤーは、『ペルソナ5』の並行世界として存在する別の東京を舞台に、「ペルソナ」の力を覚醒させた主人公の視点から、「欲望」をめぐる新たな物語を見つめていく。

 特徴となっているのは、同タイトルのために新たに用意された魅力的なキャラクターたちの存在と、原作の設定を生かした独自の世界観、「ペルソナ」らしいターン制のコマンドバトルシステムなど。シリーズ作品同様、主人公のみに許されたペルソナの付け替えを軸に、パーティー編成やスキル構成を考え、「パレス」や「メメントス」の攻略を進めていくことが『P5X』最大のゲーム性だ。

 基本プレイ無料・アイテム課金型で、モバイル(Android/iOS)とPC(Steam/Google Play Games)に対応する。完全版として発売された『ペルソナ5 ザ・ロイヤル』を含め、全世界で累計1,000万本以上を売り上げた人気作から、注目のスピンオフが登場した。

■『P5X』の制作に盛り込まれた新たなアプローチは定着するか

 原作ファンたちの大きな期待のなか、ようやくお目見えとなった『P5X』。リリースから約1週間が経過し、その現在地を示す情報も明らかとなりつつある。Steamにおけるさまざまなデータを閲覧できる外部サイト・SteamDBによると、初日には42,000人弱の同時接続プレイヤー数を記録。その後はサービス開始直後の特需も落ち着き、減少傾向を見せているが、それでもピークタイムには、3万人前後のユーザーに遊ばれている現状だ。

 また、同プラットフォームにおけるユーザーレビューでは、約70%が「おすすめ」とし、中央より1つ上のランクである「やや好評」へと分類されている。内容を見るかぎり、「(原作と比較しての)ペルソナらしさ」や「ライブサービスゲームであること」の是非が評価をわけているよう。他方、システムやキャラクターに関しては、好意的に受け止める声も少なくない。つまり、タイトルそのものが持つゲーム性の面では、ユーザーに及第点と判断されているというわけだ。

 反面、課題が浮き彫りとなりつつあるのが、UIについて。サービスの開始にあわせ、各メディアで公開されている体験会のレポートによると、『P5X』はモバイルのタッチ操作を基準に開発が行われたとのこと。この入力方法は、PCにおけるキーボードマウスによる操作とも親和性が高いため、すべてのプラットフォームに対応できる“はず”だった。

 しかしながら、2024年11月末に実施されたクローズドβテストでは、日本国内のプレイヤーが高い割合でコントローラーを使用してプレイしているという状況が見えてきた。そのため、開発チームは日本版のUIのみに、コントローラーに対応する独自の調整や改修を行ったのだという。

 このようにブラッシュアップされてきた『P5X』のUIだが、残念ながら、ユーザーレビューには「操作性がイマイチ」との記述が多くある。この点については、今後さらなる改善が必要となるだろう。前評判どおりの評価を手にするために、開発には、ユーザーの体験に寄り添った、より厳格な目線での対応が求められていくことになる。

 一方で、ゲーム性をめぐる評価点(システムとキャラクター)、不評点(UI)がくっきりとわかれている現状には、異なる論点も見えてくる。両者のあいだには「監修の力がより強く作用するであろう前者」「開発チームの主導で形にする後者」という関係性があり、裏を返すと、『P5X』の現在地は、セガ/アトラスによる監修が正しく機能した結果ともとらえられるからだ。外部に開発を任せたことで、制作における社内コストは、大きく削減されたものと推測する。一定の結果が示されたことで、今後は新たなIP展開の手法として「自社は監修を行う」というアプローチが浸透していくのではないか。

 たとえば、「より続編的な意味合いの強いCS機向けのナンバリングや一部のスピンオフは内製」「より専門的なノウハウを必要とするモバイル/PC向けのスピンオフは外注」といった分別ができれば、IP展開のスピードは高速化され、ユーザーはこれまでよりスムーズに期待のタイトルを手に取れることになる。こうした新陳代謝の早さがライブサービスゲームの市場全体にプラスに働くかはさておき、少なくとも、ファンを囲い込みたいIPホルダー、知名度のあるタイトルで開発できるスタジオ、思い入れのあるIPの新作や期待作を早く遊びたいユーザーの3者にとっては、メリットの大きい取り組みとなる。『P5X』に続く成功例が生まれれば、定着の可能性もある。

 この手法による恩恵は、大手メーカーほど大きくなると思われる。IPの人気、新作への注目度もあり、開発規模が肥大化しやすいデメリットを抱えているからだ。「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」をはじめ、数々の有名シリーズを抱えるスクウェア・エニックス、「アトリエ」シリーズで知られるコーエーテクモゲームスなどはその一例だろう。両社はモバイル/PCでのIP展開にも積極的である。上述のアプローチの次なる成功例は、このどちらかが持つIPから生まれるのかもしれない。

 もちろん、『P5X』の成功の裏には、セガ/アトラスによる的を射た監修があったことを忘れてはならない。座組や背景が類似していれば、一様に成功を手にできるわけではないはずだ。今後、大手メーカーには、自社の開発力以上に、正しい監修力が問われていくことになる可能性もある。その点においても、『P5X』の事例はモデルケースとなったのではないだろうか。

 『P5X』が提示した「開発を外部に任せ、自社は監修を行う」という新たなアプローチは、IP展開の正攻法として定着を見せるだろうか。その行方は、同タイトルの今後の動向によって決まると言っても過言ではない。モデルケースとして、『P5X』がさらなる成功をつかみとることを期待したい。

(文=結木千尋)

©Perfect World Adapted from Persona5 ©ATLUS. ©SEGA.