2012年の『V/H/S シンドローム』からスタートしたホラーアンソロジー「V/H/S」シリーズ。その最新作『V/H/S ビヨンド』が7月4日より公開された。またアメリカ最大級のホラー映画配信サービス「SHUDDER」オリジナル作品として作られ、日本では未公開だった『V/H/S 94』(21)、『V/H/S 99』(22)、『V/H/S 85』(23)の3作が7月18日(金)から順次公開される。

【写真を見る】最新作『V/H/S ビヨンド』にも個性豊かな監督が参加!シリーズから羽ばたいていった気鋭の作家をおさらい

これまでに計7作が制作される人気フランチャイズとなった「V/H/S」といえば、将来有望な気鋭のクリエイターが名を連ねる登竜門的存在であり、そこから売れっ子となった作家も数知れず。そこで今回は、シリーズから羽ばたいていった才能を紹介したい。

■アダム・ウィンガード(&サイモンバレット)

“発見されたビデオテープに記録されていた映像”をコンセプトにしたファウンドフッテージスタイルの「V/H/S」シリーズ。その記念すべき1作目が『V/H/S シンドローム』だ。6つの短編が収められた本作は、1作目にしてフランチャイズの人気を決定づけた作品であり、第一線で活躍する監督の名が並ぶ。

本作で各短編をつなぐ話の軸となる存在が「Tape 56」。4人組不良グループが古い一軒家からあるビデオテープを盗みだすという依頼を受け、VHSをチェックしていくが、恐ろしい内容のビデオを見ていくうちに一人また一人と仲間が消えてしまう…。

盟友サイモンバレットと共に本作を手掛け、不良の一人として出演もしているのが『ゴジラxコング 新たなる帝国』(24)など、いまや大物となったアダム・ウィンガード。『サプライズ』(11)やホラーアンソロジー『ABC・オブ・デス』(12)などホラー作家として脚光を浴びたタイミングであり、首チョンパ遺体をはじめとするブルータルな描写や不安を煽る演出で持ち味を発揮している。

シリーズ2作目となる『V/H/S ネクストレベル』(13)の「Phase I Clinical Trials」でも監督&主演を担当。目を怪我した男性が、無料で施術してもらう代わりにカメラ付きの義眼を入れられたことで幽霊を見るようになってしまうという、POV(主観視点)の設定にマッチしたアイデア光る物語を、脚本のサイモンと共に作り上げた。

■タイ・ウェスト

アダムと並び「V/H/S」シリーズから大きく出世したのが、現在日本で公開中の『MaXXXine マキシーン』など「X エックス」三部作で大ブレイクを果たしたタイ・ウェストだ。

イーライ・ロスの長編デビュー作の続編『キャビンフィーバー2』(09)の監督への抜擢(作品自体はトラブル続きで評価は低いが…)やウィンガード監督の『サプライズ』への出演など、ホラーシーンで存在感を増していたウェストは『V/H/S シンドローム』の一編「Second Honeymoon」を手掛けている。

内容は中西部へ2度目のハネムーン旅行に出た夫婦の泊まるモーテルに、深夜、何者かが忍び込んできたことによる恐怖や夫婦の不和が描かれたもので、何気ないシーンに潜む禍々しい雰囲気など、ショック描写だけに頼らないじんわりとした恐怖が楽しめる。

ちなみにウェストといえば、マンブルコアムーブメントの文脈にも名前が挙がる存在で、マンブルコアの中核を担ったジョースワンバーグ監督の『ドリンキング・バディーズ 飲み友以上、恋人未満の甘い方程式(13)に出演したことも。『V/H/S シンドローム』ではそのスワンバーグも「The Sick Thing That Happened to Emily When She Was Younger」で監督を務めており、ウェストの人脈を垣間見ることができるという意味でも貴重な1作だ。

■ギャレス・エヴァンス(&ティモ・ジャヤント)

『ホーボー・ウィズショットガン』(11)のジェイソンアイズナーなど実力者が集った『V/H/S ネクストレベル』で「Safe Haven」を手掛けたのが、インドネシア産の格闘アクション『ザ・レイド』(11)でブレイクを果たすと、ここ最近もNetflix映画『ハボック』(25)が話題となったギャレス・エヴァンスだ。

イギリス人のエヴァンスがキャリア初期に活動拠点としていたインドネシアが舞台の「Safe Haven」は、カルト教団に潜入するドキュメンタリークルーが、内部の混乱により阿鼻叫喚地獄絵図に巻き込まれる様子を描いており、定評のある情け容赦ない暴力描写などを存分に味わうことができる。

また本作で共同監督・脚本に名を連ねるのが、インドネシア人のティモ・ジャヤント。『V/H/S 94』では「The Subject」という短編も手掛けた彼は、北村一輝主演の『KILLERS キラーズ』(13)や『Mr.ノーバディ』(20)の続編『Nobody 2(原題)』(8月15日全米公開予定)に抜擢されるなど注目の存在だ。

ジャスティン・ベンソン&アーロンムーアヘッド

『シンクロナイズドモンスター』(16)のナチョ・ビガロンドによる下ネタホラー「Parallel Monsters」など個性的な作品が並ぶ3作目『V/H/S ファイナル・インパクト』(14)で注目したいのが、ジャスティン・ベンソン&アーロンムーアヘッドのコンビだ。

危険なスタント映像を撮るためにメキシコティファナにやって来たスケートボーダーの少年たちが、謎の骸骨集団相手にスケボーで立ち向かうという「Bonestorm」を作り上げたこのコンビ。近年は「ロキ」や「デアデビル:ボーン・アゲイン」といったMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の良作ドラマで監督と製作を担当しており、ここのところパッとしないMCUの希望的存在となっている。

■マット・ベティネッリ=オルピン&タイラー・ジレット

コンビではなくユニットとしてシリーズに長らく携わっているのが、映画制作集団のラジオ・サイレンス。ハロウィンの日に行われる奇妙な儀式を題材とした1作目『V/H/S シンドローム』の「10/31/98」をはじめ、『V/H/S/99』や『V/H/S/85』のプロデューサーとしてフランチャイズを支えてきた。

そんなラジオ・サイレンスの中心人物がマット・ベティネッリ=オルピンとタイラー・ジレット。彼らは「スクリーム」のリブートシリーズや金持ち一家に嫁いだ花嫁の命懸けのかくれんぼを描いた『レディ・オア・ノット』(19)、誘拐した12歳の少女が実は吸血鬼だった…という『アビゲイル』(24)など、個性豊かなジャンル映画を作りだした、現在のホラー界を担う重要人物だ。

■スコット・デリクソン

ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(99)のエドゥアルド・サンチェスのように、名を上げてからシリーズに参加する監督も。『ドクター・ストレンジ』(16)や『ブラック・フォン(21)のスコット・デリクソンもその1人。『V/H/S/85』では「Dreamkill」の監督を務めた。

「Dreamkill」は、残忍な連続殺人事件と不吉な夢のなかでの殺人が結びついていくというもの。『ブラック・フォン』から大きな影響を受けており、つながりもあるという点でも観逃せない本作。どのような作品なのか?気になる人は劇場に足を運んでみてほしい。

マイク・フラナガンも携わる『V/H/S ビヨンド』

そして最新作となる『V/H/S ビヨンド』は、インターネット上で発見された謎のVHS、住んだ者が消失する呪われた事故物件…この2つが交わる時に未知なる恐怖が解き放たれるという“宇宙”がコンセプトの1作。エイリアンゾンビ、凶暴な異星人、人知を超えたテクノロジーなどを扱う6つの短編が収録されている。

そのなかでもビッグネームは、『シャイニング』(80)のその後を描いた『ドクタースリープ』(19)や『ジェラルドのゲーム』(17)などのマイク・フラナガン。地球外生命体との遭遇の可能性について調査する女性を描いた「ストアウェイ」というエピソードの脚本を担当している。ちなみに監督を務めるのはフラガナン監督作『サイレンス』(16)の主演・共同脚本のケイト・シーゲルだ。

また『バーバリアン』(22)や『Mr.タスク』(14)といった作品に出演したジャスティン・ロング、1作目以来シリーズにカムバックしたジャスティンマルティネスといった楽しみな人材が監督に名を連ねている『V/H/S ビヨンド』。これから来るであろう気鋭の才能など、作り手のやりたいことが詰まった個性豊かな作品は劇場でチェックしたいところだ。

文/サンクレイオ翼

血まみれ描写が楽しい「Safe Haven」のギャレス・エヴァンスなど「V/H/S」シリーズに参加した売れっ子監督をチェック!(『V/H/S ネクストレベル』)/[c]Magnolia Pictures/courtesy Everett Collection