●蔦重とていの祝言中に突然来訪
テレビ画面を注視していたかどうかが分かる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、6月29日に放送されたNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(総合 毎週日曜20:00~ ほか)の第25話「灰の雨降る日本橋」の視聴分析をまとめた。

○四民の外と呼ばれた吉原者が日本橋に認められる

最も注目されたのは20時40分で、注目度73.7%。蔦重(横浜流星)の日本橋進出を鶴屋喜右衛門(風間俊介)が歓迎するシーンだ。

駿河屋では蔦重とてい(橋本愛)の祝言が執り行われている中、喜右衛門が突然来訪する。思いがけない来客に、忘八たちはたちまち殺気立つ。丁子屋長十郎(島英臣)が声を荒げたが、喜右衛門はどこ吹く風。階段を上がり使用人と2人で2階までやってきた。

喜右衛門は挨拶を済ますと「心ばかりではございますが、通油町よりお祝いの品をお贈りいたします」と続け、使用人が桐の箱を蔦重に差し出した。蔦重が箱の中身を確かめると、その中には蔦屋の商標である「富士山形に蔦の葉」が鮮やかに染め抜かれた真新しい暖簾(のれん)が入っていた。「こりゃ暖簾にございますか?」と蔦重が問うと、「この度、通油町は早く、楽しく、灰を始末することができました。蔦屋さんの持つ、全てを遊びに変えようという吉原の気風のおかげにございます」と鶴屋は返した。「江戸一の利者、いや江戸一のお祭り男はきっとこの町を一層、盛り上げてくれよう。そのようなところに町の総意は落ち着き、日本橋通油町は蔦屋さんを快くお迎え申し上げる所存にございます」喜右衛門が頭を下げると、その場にいた者たちはみな胸を熱くしていた。四民の外と呼ばれた吉原者が日本橋に認められたのだ。

鶴屋さん。これまでの数々のご無礼、お許しいただきたく」蔦重の義父・駿河屋市右衛門(高橋克実)は、喜右衛門を階段から突き落としたことがあった。「灰降って地固まる。これからはよりよい縁を築ければと存じます」喜右衛門の言葉に、「鶴屋さん。頂いた暖簾、決して汚さねえようにします!」と蔦重は目を赤くし、そう決意した。挨拶を終えた喜右衛門は去り、蔦重は暖簾を手に感慨にふけるが、横にいるていの表情は終始硬いままであった。

○爆速でメロメロにさせる蔦重のコミュ力

注目された理由は、吉原者である蔦重と宿敵・喜右衛門の和解に、多くの視聴者が胸を熱くしたと考えられる。

須原屋市兵衛の助力もあり、無事に柏原屋(川畑泰史)から丸屋を買い取った蔦重だが、直後に浅間山が大噴火を起こした。その影響で日本橋の町や店には大量の灰が降りかかってくるが、蔦重は復興のために奔走する。そしてその姿はていや鶴屋をはじめとする日本橋の人々の心を大きく動かした。灰の除去が終わるころには、蔦重はすっかり日本橋の町に溶け込んでいた。

SNSでは「蔦重のメンタルのタフさと、どんな困難にも下を向かず楽しむ気概が呼び込んだ成果でしたね」「老若男女問わず爆速でメロメロにさせる蔦重のコミュ力、相変わらず凄すぎる」「吉原を認めさせる!って日本橋進出決めてこんなにも早く実現するとは…すごい男だな蔦重って」などと、蔦重の高い人たらしのスキルに称賛が集まった。一方、「鶴屋さん、何て粋な贈り物をしてくれるんだ」「鶴屋さんと蔦重がお互いを認め合うのが少年マンガみたいで素敵!」と、鶴屋のデレっぷりも話題になっている。一見すると大団円を迎えたかのように見えるが、硬い表情を崩さなかったていの様子が気になる。

鶴屋が蔦重に和解の証しとして贈った暖簾は、単なる目隠しや埃よけの道具ではもちろんない。江戸時代、庶民の識字率が高まるにつれ、屋号や店名、商品が染め抜かれた暖簾は、店の看板や広告という重要な役割を担うようになった。蔦重に贈られた暖簾は、日本橋が蔦屋を正式に認めたことの何よりの証しだ。ですがていの不穏な様子は、この暖簾が原因のように思われる。

また、蔦重とていの婚姻で行われた儀式は三々九度と言い、日本の結婚式において行われる伝統的な儀式の一つです。夫婦となる2人が、大小3つの杯でそれぞれ3回ずつ、計9回お神酒を酌み交わすことで、夫婦の契りを結び、永遠の絆を誓い合うことを意味する。一の杯(小)で新郎新婦がそれぞれ3口に分けてお神酒を飲む。これは出会い、巡り合わせを意味すると言われている。二の杯(中)でも同様に3口に分けてお神酒を飲む。これは夫婦の契りを結び、苦楽を共にするという意味が込められている。三の杯(大)ではまた3口に分けてお神酒を飲む。これは両家の繁栄、子孫の繁栄を願うという意味が込められている。「三」は縁起の良い数とされ、また「九」は「きゅう」と読み、「久」に通じることから、末永い繁栄を願う意味があるとされていた。

●誰袖(福原遥)vsわかなみ(玉田志織)がキャットファイト
2番目に注目されたのは20時11分で、注目度72.4%。誰袖(福原遥)とわかなみ(玉田志織)がキャットファイトを繰り広げるシーンだ。

蔦重が必死で灰と戦っている頃、吉原では田沼意知(宮沢氷魚)が復興の陣頭指揮を執っていた。誰袖はそんな意知の姿をお目付け役の志げ(山村紅葉)とともに2階から見守っていると、意知にすり寄る1人の女郎が現れる。わかなみというその女郎は、意知に近づくと色目を使って誘惑を始めた。「なれなれしく口をきかずにおくれなんし! その方はわっちの色でありんす!」誰袖が声を荒げ、「そうやって人のもんを横取りしてんのをわっちが知らないとでも?」と責め立てると、わかなみは「随分と必死で。もしや色と思っているのは花魁だけでは?」と挑発してきた。

かなみの言葉に誰袖はあっという間に頭に血を上らせ、2階の窓から勢いよく飛び降りると、そのままわかなみにつかみかかる。意知が止めに入ろうとするが、興奮する2人の女郎を止めることはできなかった。誰袖がこのような激しい情念を見せたのは、この時が初めてであった。
○2階の窓から飛び降りて襲いかかる

このシーンは、誰袖の激しい一面に視聴者の視線が「くぎづけ」になったと考えられる。

出会ってからすでに1年半、意知と誰袖はいまだに男女の仲となっていないようだ。そんな中、突如現れたわかなみは、誰袖の目の前で意知に露骨にモーションをかけ、さらには挑発した。そんなわかなみに誰袖の怒りが爆発。誰袖はなんと2階の窓から飛び降り、わかなみに襲いかかった。

SNSでは「誰袖、取り繕ってるよりも今みたいに自分らしさ出してる方が可愛いな」「蔦重は屋根からすべり落ちたのに2階から飛び降りるって誰袖ちゃんすごすぎる」「誰袖、あんなに感情的になるんだ」といった、誰袖のイメージを覆した行動が話題となっている。

今回、大噴火した浅間山は、長野県群馬県の県境に位置する、標高2,568mの活火山。作中で描かれた1783(天明3)年の天明大噴火は死者1,600人を超える大災害となった。以前から噴火を繰り返しており、1108(嘉承3・天仁元)年の天仁大規模噴火は藤原北家中御門流・藤原宗忠の日記『中右記』に記録が残っている。また、1582(天正10)年2月、織田信長が武田領へ侵攻した甲州征伐の際にも噴火している。今回の大噴火と同年の1783年には、偶然にも遠く離れたアイスランドの地でもラキ火山とグリムスヴォトン火山が噴火し、家畜の大量死や農地が壊滅状態となった影響で飢餓が起こり、9,000人以上が死亡するという大きな被害が出た。

また、誰袖が口走った「イロ」という言葉は、女郎にとって実に多様な意味を持っていた。単に恋人や愛人を指すだけでなく、情事や色事、さらには多数いる客の中から本当に惚れた男、あるいは商売を抜きにした恋愛や浮気を意味することもあった。

今回、初登場を果たしたわかなみを演じた玉田志織は、オスカープロモーションに所属する宮城県出身の23歳。2017年8月8日に開催された「第15回全日本国民的美少女コンテスト」で応募総数8万150通の中から、審査員特別賞に選ばれた。大河ドラマは『べらぼう』が初出演。誰袖役の福原遥とは2024年日本テレビで放映された『マル秘の密子さん』で共演している。

●松前廣年(ひょうろく)、琥珀を持って大文字屋に登場
3番目に注目されたシーンは20時14分で、注目度71.4%。松前廣年(ひょうろく)が琥珀を持って大文字屋に現れるシーンだ。

大文字屋で誰袖と意知が2人の将来についてささやき合っていると、志げが廣年の来訪を知らせにやってきた。誰袖と意知は廣年のいる部屋の外から中の様子をのぞき見ると、廣年が持参した琥珀を、大文字屋市兵衛があらためている。市兵衛はしばらくの間琥珀を眺め問題がないことを確認すると、証文を作成すると言った。すると廣年は宛名を越中屋とするよう市兵衛に申しつけた。廣年の兄・松前道廣(えなりかずき)が足のつかないよう裏で手を回しているようだ。

戸惑う市兵衛に、廣年は「それから花魁を」とさらに要求した。「しかし、松前様は女郎遊びはもうやめよと」しどろもどろとなる市兵衛に、「大文字屋。かよう大商いの種まで仕込んだのじゃ。花魁は私に夢中のはずじゃ」と廣年は畳みかける。取引に気をよくした道廣は廣年の女郎遊びを許したようだ。市兵衛は何とか断りたかったが、もはや抵抗するすべはない。

部屋の外で聞き耳を立てていた誰袖は覚悟を決め、「琥珀が来た。関わりを絶ちきったではいらぬ疑いを持たれんしょう。きちんと責だけは果たしておくんなし」と意知に念を押すと、廣年のもとへ向かおうとする。意知は複雑な思いでそんな誰袖の背中を見送った。

○「多分これ地獄しか待ってない…つらい」

ここは、意知と心を通わせながらも間者・花魁としての務めを果たそうとする誰袖に視聴者の同情が集まったと考えられる。

誰袖はわかなみと激しく争ったために髪が乱れてしまい、いつもとは違う容貌を意知に見せることとなった。そんな誰袖の姿に意知は大きく心を揺り動かされる。ギャップ萌えというやつだろうか。2人が改めて身請けについて語り合っていると、今度は廣年が約束の琥珀を持って大文字屋を訪れる。誰袖は意知のそばを離れたくないと思いながらも、意知が使命を完遂できるよう、意を決して廣年のもとへ向かう。

SNSでは「意知と誰袖を本格的に推したいけど…多分これ地獄しか待ってない…つらい」「誰袖ちゃん、最初は見た目が好みってだけだったんだろうけど一年半経って想いが強くなったんだな」「誰袖ちゃんの意知くんへの強い想いを知っちゃうと今後の展開を見るのが怖い」などと、今後の2人の運命を憂うコメントが多く集まった。史実での誰袖と意知の生涯はさまざまな記録が残っておりすでに周知の視聴者も多いと思うが、『べらぼう』ではオリジナルの解釈で物語が進行している。2人は果たしてどのような結末を迎えるのか、注目のトピックスだ。

松前廣年を演じるひょうろくの演技力は回を重ねるごとに話題になっている。バラエティ番組『水曜日のダウンタウン』(TBS)では、ドッキリ企画で本気で怖がっているのか演技なのか分からないと評されるほどの演技力は『べらぼう』でも遺憾なく発揮されている。SNSでは「ひょうろく本当に大河初か?ってぐらい抜けた世間知らずの演技も底知れなさも出せてすげえな」「廣年が腹を決めて圧をかけてくるシーン、本当に迫力あった」と称賛されている。

●眼鏡を外したていの美しさに反響
第25話「灰の雨降る日本橋」では前回に引き続き1783(天明3)年の様子が描かれた。

浅間山の大噴火という大きな天災を好機ととらえた蔦重は、その立ち回りでていや鶴屋喜右衛門たち日本橋の人々の心をつかむことに成功し、晴れて日本橋通油町に進出を果たすことができた。一方、田沼意知と誰袖は心を寄せ合うようになったが、誰袖には過酷な役割が残されており、2人は苦しむこととなる。

注目度トップ3以外の見どころとしては、蔦重が提案した灰捨て競争のシーンが挙げられる。町を汚染した火山灰をただ掃除するだけでなく、賞金をかけて競争するというのはお祭り好きな蔦重らしいアイデアだった。始めは否定的だった村田屋治郎兵衛(松田洋治)ら日本橋の人々も蔦重に感化され、競争は大いに盛り上がった。結果は引き分けだったが、勝負の後にお互いを求めあう蔦重と喜衛門の姿は、かつて俄祭りで和解した初代大文字屋市兵衛と若木屋与八(本宮泰風)を彷彿とさせました。史実では蔦重と喜右衛門は一緒に旅行に行く仲だったそうだが今後はマブダチになるのだろうか。

次に突如現れた次郎兵衛ファミリーも話題となっている。妻・とく(丸山礼)、長女・のぶ、次女・こう、長男・忠吉が登場した。いつものんきに遊んでいる次郎兵衛は独身を謳歌していると思っていた視聴者が多かったようだが、実は既婚者で子どもが3人もいるという事実には衝撃を受けた。

とくを演じる丸山礼は、ワタナベエンターテインメントに所属する北海道出身の28歳。ものまねタレント、お笑いタレント、女優、YouTuberとマルチに活躍している。大河ドラマは『べらぼう』が初出演だ。

また、蔦重との祝言のシーンで眼鏡を外したていの美しさが大いにネットを盛り上げた。その美貌には忘八たちも驚くほどだった。商才もコミュ力もあるけど日本橋での商いを知らない蔦重と、日本橋のことも礼儀作法もよく知ってる代わりにコミュ力が皆無なていはお互いを補えるよい夫婦となりそうだ。

さらに意知が誰袖に贈った扇子も注目を集めている。扇子に記された狂歌にある西行は、1118(永久6・元永元)年)に京都で生まれた平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活躍した武士であり歌人。西行といえば2012年の大河ドラマ『平清盛』で藤木直人が演じた姿が記憶に新しい。元々は北面の武士として鳥羽院に仕え、弓馬にも秀でた才能を持っていたが、23歳という若さで出家する。「願わくは 花の下にて 春死なむ その如月の 望月のころ」は、桜の咲く春に、お釈迦様の命日である旧暦2月15日の満月の頃に死にたいという願いを詠んだ和歌だ。最近の大河ドラマでは扇子をプレゼントするという行為がトレンドとなっているようだ。狂歌の内容は不吉過ぎるが。

きょう6日に放送される第26話「三人の女」では、冷害と浅間山の噴火で米の値が上がり、蔦重も影響を受ける。さらに、蔦重の実母・つよ(高岡早紀)が突然、やってくる。幕府では田沼意次(渡辺謙)が米の値下げに乗り出す。

REVISIO 独自開発した人体認識センサー搭載の調査機器を一般家庭のテレビに設置し、「テレビの前にいる人は誰で、その人が画面をきちんと見ているか」がわかる視聴データを取得。広告主・広告会社・放送局など国内累計200社以上のクライアントに視聴分析サービスを提供している。本記事で使用した指標「注目度」は、テレビの前にいる人のうち、画面に視線を向けていた人の割合を表したもので、シーンにくぎづけになっている度合いを示す。 この著者の記事一覧はこちら
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画像提供:マイナビニュース