
この記事をまとめると
■ユニバーサル対応を重視したJPNタクシーが都市部で主流化している
■インドネシアで採用されるようなミニバンタクシーが多人数輸送のカギかもしれない
■日本型ライドシェアにミニバン車両導入で新たな需要創出が見込めるのではないか
海外とは異なる日本国内のタクシー事情
日本で唯一のタクシー向け車両ともいえるのが、トヨタJPNタクシー。2025年6月2日に、LPガスタンク容量のアップや、トヨタ・セーフティセンス(普及型予防安全パッケージ)の機能向上、安全・安心装備のさらなる充実などが行われた。
東京都心部で見ている限り、法人タクシー事業者で使われる車両はほぼJPNタクシーとなっており、「東京のタクシー=JPNタクシー」といった風景になってきた。さまざまな理由からJPNタクシー導入に抵抗を示していた(筆者には東京より大阪はセダン好きのように感じられるがそれも理由?)大阪地域でも見かける頻度が多くなっている。
東京都内で見ていると、大きな荷物を抱えたインバウンドのグループが宿泊先から空港へ向かう鉄道停車駅までの間の移動で使っていることが多いようで、ラゲッジスペースに荷物を満載してフル乗車しているJPNタクシーを見かける機会は意外なほど多い。
こんな光景を見ていると、インドネシアのタクシー車両でポピュラーな「トランスムーバー」を思い出してしまう。トランスムーバーはインドネシアでは国民車とも呼ばれるトヨタの新興国向けMPV(多目的車)となるアバンザの、いわばタクシー専用版とも呼べるモデルであり、5ナンバーサイズとなるJPNタクシーをひとまわり大きくしたようなボディサイズとなっている。
後部ドアはヒンジタイプとなり、折り畳み式のサードシートを備えている。筆者がインドネシアで見ている限り、多くのタクシーではサードシートは折り畳んでいるのが一般的で、必要に応じてサードシートを用意するようである。サードシート折り畳み時はラゲッジスペースがかなり広く、海外出張時には大きなスーツケースと予備の小さめなカバンを抱えて歩くほど荷物の多い筆者でも積載スペースには困らない。
過去には日本でも、このアバンザ(トランスムーバー)のような、セダンよりもやや背が高く後部ヒンジドアを採用する3列シートをもつミニバンというものがラインアップされていた。トヨタ・ウィッシュやホンダ・ストリームなどがその代表となるだろう。
かつて「台湾のタクシー=ウィッシュ」という時代が長く続いたが、3列シートを格納した時の広大なラゲッジスペース、そして多人数乗車も可能ということで合理性のあるチョイスだなと感心したことがある。
日本では、高齢のひとや車いすを利用しているひとたちなどでも利用しやすいタクシーとして、「ユニバーサルデザインタクシー」の導入促進が行われている。JPNタクシーでは、後部サイドドアにスロープを運転士が設置することで車いすでも乗降しやすいものとしている。またユニバーサルデザインタクシー導入にあたっては各自治体などでは導入支援のための補助金交付が行われている。
JPNタクシーは、後部にスライドドアを採用して背の高いいわゆるミニバンスタイルを採用するのだが、それはユニバーサルデザインタクシーを目指したためであり、一般的なミニバンのように多人数乗車や積載性能などを意識したものは優先されていないように見える。
同じトヨタで5ナンバーサイズミニバンといえばシエンタがあり、シエンタを導入するタクシー事業者もある。シエンタには3列7名乗車と2列5名乗車仕様があるが、2列シート仕様がタクシー事業者では好まれているようである。
だが、タクシーは一般乗用とは異なり4年間での総走行距離が40万kmに達することも珍しくなく、ドアの開閉頻度が非常に多いこともあり、JPNタクシーのような専用設計車に比べると絶対的な耐久性能に難が出てくるとの話も聞いている。トヨタ・ノア&ヴォクシーや日産セレナをタクシー車両として使っているケースもあるが、これもシエンタと同じような課題があるのは否めないだろう。
日本型ライドシェアの可能性と課題
そこで、日本型ライドシェアとして多人数乗車や積載する荷物が多い利用へ対応できる車種でサービスを展開するというのはどうだろうか。インドネシアでも過去には、トヨタ・ヴィオス(コンパクトセダン)ベースのタクシー専用車「リモ」が主たるタクシー車両として走っていた。
そこへ、ライドシェアサービスがインドネシアでも本格普及してきた。インドネシアでは3世代同居も当たり前な大家族も多いため、コンパクトサイズであっても3列シートをもつセダン派生のようなミニバンスタイル(前後ヒンジドア)の多人数乗車可能なモデルが自家用車として人気が高く、自家用車をもち込んで使用する現地のライドシェアをマッチングさせるとそのような車両が迎えにくることが多い。
するとセダンスタイルのリモよりも、荷物を積む時の使い勝手もよくライドシェアニーズを高める一助となり、そのなかトランスムーバーがデビューし、いまではタクシー車両の主流となった(現行ヴィオスベースでのリモはない)。
タクシー事業者としては、所有する車両のメンテナンスの手間やコストを考えると、所有するタクシー車両の共通化が望ましい。現状の日本型ライドシェアでは、タクシー事業者が車両を用意することも目立っているようなので、「ライドシェアなら多人数乗車や荷物が多くても大丈夫」をスタンダードにするために、事業者が用意してミニバンで車両統一するというのもアリなのかもしれない。
現状のように稼働日時が限定的で台数も多くないなかでは、アプリで配車マッチングする時に車種選択できるようにすることは難しいが、海外におけるメジャープラットフォーマーが展開するライドシェアでは、それこそ二輪車からBEV(バッテリー電気自動車)、10人乗りぐらいのワゴンバスまで車種選択ができるようになっている。
日本型ライドシェアはタクシーの繁忙時間帯や曜日を補完するものとなっている。ドライバーを志望するひとも、タクシー乗務員のように拘束時間が長くなるのを嫌い、「隙間バイト的に稼ぎたい」というひとが多いようだ。そのためタクシー業界の定番となる、圧倒的に歩合給が幅を利かす給与体系ではなく、時給制をとる事業者も目立っている。
稼働できる日時を拡大することでタクシーと日本型ライドシェアで棲みわけを図るというのも、日本型ライドシェアの存在感を高めることになるかもしれない。
早朝に自宅最寄りで電車に乗っていると、ターミナル駅にある空港へ向かう高速路線バスの停留所へ向かうと思われる、大きな旅行用スーツケースをもった人を見かけることがある。タクシーのスマホ配車アプリは、業界に革命をもたらすほど新規需要の掘り起こしに成功した。
早朝にタクシーを呼ぶことはほぼ絶望的だった筆者自宅周辺でも、スマホアプリ配車の普及でそれほど待たずに呼ぶことが可能となったのだ。現状筆者の居住地域では早朝時間帯には日本型ライドシェアの車両も稼働している(現状は稼働台数が少ないのでマッチングする確率は低い)。
緑ナンバー(旅客運輸車両)となるタクシー車両として、ひとつの事業者があれもこれもとバラエティに富んだ車種を用意するのはなかなか難しい。「日本型ライドシェアとマッチングさせればミニバンが来る(または選択できる)」というのが利用者から認知されれば、ふたたび新たな需要開拓にもつながり、タクシーとあわせて公共輸送機関としての利便性がさらに向上していくのではないかとも考えている。
ただし、3列シートをもつミニバンであっても、2列目がセパレートか否かで乗車定員が変わってしまうので、さらに車種や仕様(7名乗車仕様のみ用意など)を絞り込まないとその点では統一を図れない。2列目に3名が座ることのできるシートをもつミニバンに統一する必要も出てくるので、やはりインドネシアのトランスムーバーのような専用車両の用意が望ましいなど、なんだか話がどんどん大きくなってしまう。
そこは多少無責任なことになってしまうが、アプリ上で情報提供して、ミニバンでも6名乗車か7名乗車かを選べるようにするなど、配車を希望するひとの判断に任せるというのが早道なのかもしれない。ちなみに日本型ライドシェアでは、どこで使用する車両であってもドライバーを除いた4名乗車を可能とするため、軽自動車は使わないことになっているそうだ。
4名しか乗ることができないとなると、4名以上のグループでタクシーに乗ろうとすると2台配車してもらうことになる。昔、まだコラムシフトのセダン型タクシーが多かったころは、電話でタクシーの配車を頼む時に「5名乗るからベンチシート車を」と配車依頼することができた。5名もしくは6名でも1台で済むとなれば、タクシーや日本型ライドシェアの需要拡大に貢献するのではないかとも筆者は考えている。

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