CTスキャンに入るシロイルカのキマル Image Credit: © Shedd Aquarium/Brenna Hernandez

 アメリカ、イリノイ州シカゴの水族館で、12歳のシロイルカ「キマル」に、世界で初めて全身麻酔を使った手術が行われ、見事に成功した。

 キマルは、頭の近くにできた大きな嚢胞(のうほう)を取り除いてもらい、全身麻酔からもしっかり目を覚ました。

 この手術の成功は、これまで不可能とされてきた大型水生哺乳類に対し、より安全で高度な治療を届けられる未来への道を切り開いた。

 キマルは現在、水族館のスタッフによる24時間体制の見守りのもと、回復に向かっている。

関連記事:水族館でプロポーズ中、シロイルカが友情出演!?主役の座を奪ってしまった件

キマルに訪れた危機、CTスキャンで検査。

 シェッド水族館で暮らすキマルは、体重およそ450kgを超える12歳のシロイルカベルーガ)だ。

 飼育員たちの細やかな毎日の健康チェックによって、キマルの頭と首のあたりに大きな嚢胞(液体がたまった袋状のふくらみ)が見つかった。

 水族館のスタッフは、キマルの体の大きさや水に住む動物としての特別な体のつくりを考え、まずCTスキャンを行った。

 CTスキャンは体の中をくわしく調べるための特別な検査で、大きなシロイルカに動かずじっとしてもらうのは困難を要したが、スタッフ全員が一丸となって対応にあたった。

関連記事:【訃報】ロシアのスパイ疑惑のあったシロイルカ「ヴァルジミール」が突然の死

 検査の結果、嚢胞が成長し、呼吸や食生活に支障を及ぼしかねない位置にまで広がっていることが判明した。

キマルのCTスキャンの様子 Image Credit: © Shedd Aquarium/Brenna Hernandez

世界初となるシロイルカの全身麻酔手術を決断。

 シロイルカは海洋哺乳類特有の体の仕組みと巨体ゆえ、麻酔のリスクが格段に高く、麻酔後に覚醒できない可能性もあったが、嚢胞によるキマルの苦痛を和らげるため、手術が唯一の道と判断された。

 水族館の副院長で動物健康を担当するカリサ・タン博士は、「シロイルカに全身麻酔をかけ手術を行った前例はなく、非常に慎重を要した」と語る。

関連記事:歌をうたったらシロイルカが近づいてきた。水に潜ってうたったら一緒にうたってくれた!

キマルを慎重に運ぶスタッフたち  Image Credit: © Shedd Aquarium/Brenna Hernandez

キマル、目覚める!無事手術に成功

 手術当日、シェッド水族館の専門家チームに加え、外部の海洋哺乳類の麻酔や外科の専門家たちが集結した。

 慎重に行われた手術は成功し、嚢胞は無事に除去された。

 しかし試練はここからだ。果たしてキマルは全身麻酔からの目覚めてくれるのか?

関連記事:遠く離れて2400キロ。本来いるはずのない場所でぼっちのシロイルカが発見される

 キマルのそばには、生まれた頃から世話をしてきた飼育員たちが寄り添い、キマルの群れの鳴き声を録音した音声が流された。

 チーム全員が固唾を呑んで見守る中、キマルはゆっくりと意識を取り戻した。

 タン博士は「この瞬間は私の人生の中で決して忘れられない」と語っている。

大勢の人々に見守られながら手術をうけるキマル Image Credit: © Shedd Aquarium/Brenna Hernandez

キマルはぐんぐん回復中

関連記事:シロイルカ、人間を驚かせる技を覚える

 現在キマルは24時間体制で経過観察されており、無理のないペースで回復に向けた歩みを進めているという。

 嚢胞が与えていた痛みはすでに軽減されており、スタッフはキマルの意思を尊重しながら、その後のケアを続けている。

 この歴史的な手術の成功は、シロイルカだけでなく他の海洋哺乳類の医療においても貴重な前例となるだろうと期待されている。

Facebookで開く[https://www.facebook.com/sheddaquarium/videos/705440228934840]

シロイルカとは?

 シロイルカ(学名:Delphinapterus leucas)は、北極やその近くの冷たい海に住むクジラの仲間で、英語では「ベルーガ」と呼ばれている。その名の通り体は白い。

 さまざまな声を出して仲間とコミュニケーションをとるため、「海のカナリア」という愛称でも知られている。

 頭部のほぼ中央には「メロン体」[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%AD%E3%83%B3_(%E5%8B%95%E7%89%A9%E5%AD%A6)]と呼ばれるやわらかい脂肪部分がある。

 その機能については完全には解明されていないが、反響定位(エコーロケーション)の際に音波を集中する器官であると考えられている。

全身麻酔手術から回復したシロイルカのキマル  Image Credit: © Shedd Aquarium/Brenna Hernandez

 体長は最大で5mを超え、体重は1,600kgにもなる。ふだんは10頭くらいの群れで泳ぐが、夏には数百頭もの大きな群れになることもある。魚やカニ、イカなどを食べて暮らしている。

 寿命は環境によって異なるが、野生下では平均しておよそ30〜50年とされ、まれに70年近く生きた個体も確認されている。

 一方、飼育下の寿命は統計情報が少なく、施設や個体によってばらつきがあるためはっきりしたことはわかっていない。

 SeaWorld[https://seaworld.org/animals/all-about/beluga-whales/longevity/]などの水族館が公表しているデータでは、飼育下での平均寿命は25〜30年程度とされている。

 一方で、一部の研究では、飼育環境のストレスや不適切な管理が原因で、野生よりも寿命が短い[https://www.kimmela.org/tag/belugas/?utm_source=chatgpt.com]と報告されている例もある。

 また、別の調査では、飼育下でも医療や栄養管理がしっかりしていれば、野生と同じくらい、あるいはそれ以上に長く生きる可能性があるとする見解も示されている。

 シロイルカは全体としては国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで「軽度懸念(LC)」に分類されているが、アラスカクック湾に住む群れは「絶滅危惧種」に指定されていて、保護活動が続けられている。

 また、シロイルカは人間とのかかわりも深い。

 古くから水族館でのショーや研究対象となってきただけでなく、軍事利用されているとも言われており、ノルウェーで発見された「スパイ疑惑」を持つシロイルカの「ヴァルジミール」が話題になった。

References: Sheddaquarium[https://www.sheddaquarium.org/about-shedd/press-releases/kimalu-procedure-anesthesia]

本記事は、海外の記事を参考にし、日本の読者向けに独自の考察を加えて再構成しています。

画像・動画、SNSが見られない場合はこちら

CTスキャンに入るシロイルカのキマル Image Credit: © Shedd Aquarium/Brenna Hernandez