一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏がフィリピンの現況を解説するフィリピンレポート。今回は、フィリピンの2025年上半期の経済とマーケット、そしてそれらに大きなインパクトを与える海外投資家の動向について解説していきます。

2025年第2四半期の経済見通し

2025年第2四半期のフィリピン経済については、企業の景況感と国内総生産(GDP)の回復に対する懸念が浮き彫りとなっています。ビジネス・エクスペクテーション・サーベイ(BES)によると、短期から長期にかけて企業信頼感が低下しており、現在のコンフィデンス・インデックス(CI)は28.8と前四半期から減少しています。

この背景には、米国による関税問題や選挙後の経済活動の鈍化といった外部・内部要因があると見られます。購買担当者景気指数(PMI)も51.4へと低下しており、全体的に経済の勢いが弱まっていることが示唆されています。これらの指標をもとにした過去の回帰分析からは、2025年第2四半期のGDP成長率は5.1%前後と予測され、悲観的なシナリオで4.8%、楽観的なシナリオで5.7%となる可能性があります。

また、セクター別では成長のばらつきが目立っており、建設分野は季節要因と案件の積み上がりにより堅調に推移していますが、サービス業や小売業は需要の鈍化を背景に減速傾向にあります。加えて、中央銀行(BSP)による利下げにもかかわらず、企業への融資条件は依然として厳しい状況が続いており、資金調達面での制約がリスク要因となっています。

一方で、地域別や企業規模別に見ると、首都圏外の企業や中堅企業には比較的前向きな動きが見られています。これらの企業は雇用や設備投資計画において大企業よりも積極的であり、地域需要の回復や政策の不確実性の解消によって、物流、地域小売、建設分野などに上振れの余地があります。

投資戦略としては、2025年前半の経済は低調にとどまる一方で、年後半から回復基調に入ると予想されています。こうした環境下では、通信や生活必需品などのディフェンシブ銘柄への投資を重視し、原油価格変動へのエクスポージャーを減らすとともに、為替の影響を受けやすい銘柄の再評価が推奨されています。また、利回りと成長の両面で期待できる銀行株やREITにも引き続き注目が集まっています。

なお、ABキャピタル証券の2025年後半に向けた予想では、PSEiの目標値を7,400、企業の1株当たり利益(EPS)成長率を10%としています。注目銘柄としては、以下の企業が挙げられています。

・SM Investments Corporation(SMインベスメンツ・コーポレーション)

・Jollibee Foods Corporation(ジョリビー・フーズ・コーポレーション)

・Monde Nissin Corporation(モンデ・ニッシン・コーポレーション)

・Ayala Land, Inc.(アヤラ・ランド

・BDO Unibank, Inc.(BDOユニバンク

・Bank of the Philippine Islands(フィリピン諸島銀行)

・Aboitiz Power Corporation(アボイティス・パワー・コーポレーション)

・Converge ICT Solutions, Inc.(コンバージ・ICT・ソリューションズ)

・Manila Water Company, Inc.(マニラウォーターカンパニー

・International Container Terminal Services, Inc.(インターナショナル・コンテナ・ターミナル・サービス)

2025年6月の株式市場動向

2025年6月のフィリピン株式市場では、PCOMPフィリピン総合株価指数)が月間で+0.4%上昇し6,364.94ポイントで6月を終えましたが、年初来では▲2.5%の下落となっています(同期間の米ドルベースでは+0.3%の上昇となります)。海外投資家による売り越しが続き、6月の純流出額は7,200万米ドル(5月は1億1,500万米ドル)となり、年初来の純流出額は4億7,700万米ドルに達しました。取引高は前月比3%増の1億1,800万米ドル(66.4億ペソ)となりましたが、これは指数リバランスやゲーミング関連銘柄の活況によるものです。

為替市場では、ペソがほぼ1%下落し1米ドル=56.32ペソとなり、6月のアジア通貨で最も弱い動きとなりました。これは中東情勢の緊迫化や米ドル高の影響を受けたものですが、ペソは年初来では+2.7%の上昇を維持しています。外国人投資家の株式保有比率は5月末時点で19.04%と、4月の19.23%からやや低下しました。6月の平均日次取引のうち、外国人投資家が占める割合は51%に達しています。

マクロ経済面では、フィリピン中央銀行(BSP)が政策金利を25ベーシスポイント引き下げ5.25%としましたが、声明はそれほどハト派的ではありませんでした。インフレ率は1.3%(前月1.4%)と引き続きBSPの目標レンジ内に収まっています。海外フィリピン労働者(OFW)からの送金は4月に前年比4%増と、コンセンサス(2.7%増)を上回りました。原油価格の上昇や地政学的リスクの高まりがペソ安の要因となっています。

個別銘柄では、ブルームベリー・リゾーツ(BLOOM)がオンラインゲーミング事業開始の話題で急騰し、直接の競合であるPLUSへの注目も高まりました。アヤラランド(ALI)は金利引き下げと住宅需要の回復を背景に不動産セクターの反発を主導しました。小売大手ピュアゴールド(PGOLD)は世界的なリスクオフの流れのなかでディフェンシブ銘柄として物色され、大手食品ユニバーサル・ロビナ(URC)は割安感から買いが入りました。一方で、銀行セクターバンク・オブ・ザ・フィリピンアイランズ(BPI)、バンコ・デ・オロ(BDO)、チャイナバンク(CNC)は直近の上昇を受けて利益確定売りに押されました。通信のコンバージ(CNVRG)は一部売りが出たものの、年初来では依然として好調です。ジョリービー・フーズ(JFC)は韓国チキンフランチャイズ買収後、揉み合いとなりました。

6月の外国人投資家の売買動向をみると、銀行株が買いから売りに転じ、特にバンコ・デ・オロ(BDO)やメトロバンクMBT)で流出が目立ちました。不動産のアヤラランド(ALI)には強い海外買いが入りましたが、SMプライム・ホールディングス(SMPH)は依然として出遅れています。港湾事業のインターナショナル・コンテナ・ターミナル・サービス(ICT)は第1四半期の好決算と貿易関税問題の緩和を受けて引き続き海外投資家に支持されました。ブルームベリー・リゾーツ(BLOOM)はオンラインゲーミング開始の話題で海外買いを集め、水道事業のマニラウォーター(MWC)はコンセッション延長期待で資金が流入しました。不動産REITのRL・コマーシャル・リート(RCR)は資産注入による指数組入れ期待から海外投資家の関心を集めました。

写真:PIXTA