
地球温暖化を防ぐため、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」は、国の政策目標として明確に位置づけられています。その実現に向けては、企業活動や個人のライフスタイルだけでなく、税制を通じたインセンティブ設計が重要なカギを握ります。環境税の創設や、GX(グリーントランスフォーメーション)を促す新たな投資促進税制など、税務の観点からもカーボンニュートラルへの対応は避けて通れないテーマとなっています。
カーボンニュートラルとは何か
石炭・石油などの化石燃料を使用することによって排出される二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスを削減し、地球温暖化を防止することは、今後の経済活動における重要な課題です。 「カーボンニュートラル」とは、温室効果ガスの排出量と、森林吸収や排出量取引(カーボンクレジット)などによる吸収・除去量を差し引いて全体として排出量をゼロにすることを意味します。
法的枠組みの整備と進展
地球温暖化対策の法的基盤は、1997年に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)にて「京都議定書」が採択されたことを受け、1998年に制定された地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)により整えられました。 この法律は、国・地方公共団体・事業者・国民が一体となって地球温暖化対策に取り組むための枠組みを提供しています。さらに、2021年6月2日には同法が改正され、「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする社会の実現」が法の基本理念として明示されました。 加えて、岸田内閣および石破内閣では、脱炭素社会の実現に向けた社会・産業構造の変革を進める「グリーントランスフォーメーション(GX)」に取り組むため、新たに「GX実行推進担当大臣」のポストが設けられました。
「2050年」の意味と設定の背景
2050年という長期目標は、2020年10月の所信表明演説において、菅義偉元首相が「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と宣言したことに端を発します。
さらに、2021年4月22日に開催された政府の地球温暖化対策推進本部の会合では、2030年度までに2013年度比46%削減を目指す中間目標が示されました。
ただし、この46%削減目標については、達成可能性を疑問視する専門家の声も少なくありません。
各国の地球温暖化対策と国際的な枠組み
地球温暖化対策は国際的課題であり、国連の気候変動枠組条約(UNFCCC)を軸に、多国間協議の場として「締約国会議(COP)」が開催されています。 2015年のパリ協定(COP21)では、2020年以降の新たな国際枠組みとして以下が定められました。
・世界の平均気温の上昇を産業革命前より2℃より十分低く保つ(さらに1.5℃以内に抑える努力)。
・すべての国が削減目標を5年ごとに提出・更新する義務を負う。
なお、アメリカは第1次トランプ政権時にパリ協定から離脱しましたが、バイデン政権により復帰。第2次トランプ政権では再び離脱が表明されるなど、国際協定の継続性には政治的変動の影響が見られます。 一方、1997年の京都議定書では、先進国と中国・インド・ブラジルなどの新興国との間で、「歴史的排出の責任」を巡る対立が続いていましたが、パリ協定ではすべての国が削減努力を求められる点が大きな進展です。
カーボンニュートラルと税制の関係
温室効果ガスの主因であるCO2の排出抑制には、化石燃料への課税を通じて価格を引き上げ、使用を抑制する手法が有効です。 多くの国で「炭素税」または「環境税」が導入されています。 日本では、2012年(平成24年)に「地球温暖化対策のための税」(環境税)が創設されました。これは全ての化石燃料に対し、CO2排出量に応じてトン当たり289円を上乗せする仕組みであり、平年度ベースでの税収は約2,623億円にのぼります。
カーボンニュートラル目標に対応した税制改正
カーボンニュートラル実現に向け、令和3年度(2021年度)の税制改正において、脱炭素関連投資を後押しする「カーボンニュートラル投資促進税制」が創設されました。 この税制の主なポイントは以下の通りです。
・工場の電力源としての再生可能エネルギー導入、熱効率改善、リチウムイオン電池等の製造工程などに関する設備投資が対象
・国からの投資計画認定を条件に、5%(特に著しい温室効果ガス削減が認められる場合は10%)の税額控除、または50%の特別償却の選択が可能
・適用対象となる資産取得価額の上限は500億円
また、これに加え、繰越欠損金の控除上限の特例も導入され、企業の積極的な脱炭素投資を税制面で後押ししています。
矢内一好
国際課税研究所首席研究員

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