毒キノコは、私たち人を含む大半の生き物が手出しできない危険な存在です。

しかし長野県の山林において、ニホンリス毒キノコとして有名なベニテングタケやテングタケを日頃から常食していることが神戸大学による2021年の研究で明らかになっています。

研究の詳細は2021年12月1日付けで学術誌『Frontiers in Ecology and the Environment』に掲載されています。

目次

  • 毒をもつ「ベニテングダケ」
  • ニホンリスはベニテングダケを普通に食べられた!

毒をもつ「ベニテングダケ」

ベニテングタケ
ベニテングタケ / Credit: ja.wikipedia

代表的な毒キノコであるベニテングタケ(学名:Amanita muscaria)は、周囲の樹木と外生菌根を形成して互恵的な関係を築いており、森林生態系の維持に重要な役割を担っています。

一方で、ベニテングタケには中枢神経系に作用するイボテン酸およびムシモールという化学物質が含まれており、摂取すると幻覚や錯乱などの中毒症状を引き起こすことがあります。

この毒は死に至るリスクは高くありませんが、精神・神経系に強い影響を与えるため、絶対に食用には適しません

ただ成長したベニテングタケは直径8〜20センチに達し、真っ赤な傘に白いイボが広がった見た目をしており、いかにも毒キノコらしい姿をしているので、見分けるのは比較的容易です。

そのため野生の動物たちも、多くはベニテングタケ(Amanita muscaria)を本能的に避ける傾向があると言われています。

ニホンリスはベニテングダケを普通に食べられた!

2021年に、神戸大学大学院理学研究科の末次健司(すえつぐ・けんじ)准教授と、在野の写真家である五味孝一(ごみ・こういち)氏により、毒キノコを日常的に食べるニホンリスの生態が観察されました。

驚くべきことに、ニホンリスベニテングタケのみならず、テングタケなど、他種の毒キノコも普通に食べていました。

同じ個体が数日間にわたりテングタケ属を食べ続けていたことから、ニホンリスは安全に毒キノコを摂取できることが示されています。

テングタケを食べるニホンリス(撮影:五味孝一さん)
テングタケを食べるニホンリス(撮影:五味孝一さん) / Credit: Kenji Suetsugu et al., Frontiers in Ecology and the Environment(2021)

毒キノコは、動物たちに食べられるのを防ぐために毒を進化させたと考えられているため、今回の発見はとても興味深い現象です。

一方で、毒キノコが食べられたとしても、胞子が繁殖可能な状態で排泄されるのであれば、リスの移動に伴って、自らも生息域を広げることができます。

また、リスの方は毒キノコを食べられるような適応を遂げることで、食料資源をめぐる競争をまぬがれている可能性があります。

このように、ニホンリス毒キノコの間には、相互扶助的な契約がなされているのかもしれません。

コガネテングタケを食べるニホンリス(撮影:五味孝一さん)
コガネテングタケを食べるニホンリス(撮影:五味孝一さん) / Credit: Kenji Suetsugu et al., Frontiers in Ecology and the Environment(2021)

しかし、現時点では解明すべき謎が山積みです。

なぜリスは安全に毒キノコを食べられるのか?

リスは毒キノコの胞子散布にどのような役割を果たしているのか?

毒キノコはリスに食べられることで、本当に分布域を広げられるのか?

今後はリスが胞子の運び手となっているかを確かめるべく、フンの中に繁殖可能な胞子が存在するかを調べていく予定です。

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参考文献

毒キノコ」とニホンリスの関係 ~ ベニテングダケを食べるニホンリス ~(神戸大学
https://research-er.jp/articles/view/106480

元論文

Squirrel consuming “poisonous” mushrooms
https://esajournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/fee.2443

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

ニホンリスは毒キノコ「ベニテングダケ」を普通に食べられる