
脳梗塞は年中起こる可能性がありますが、起きやすくなる季節があることはご存じですか? また、夏場は熱中症の症状と勘違いをして、様子を見てしまいがちです。
もし脳梗塞であれば、早急な治療が必要です。熱中症との見分け方やこの時期ならではの予防法を知っておきましょう。
■脳梗塞とは
脳梗塞は脳の血管が詰まって血流が妨げられる病気です。
血流が悪くなることで、血管が詰まった先の脳細胞に充分な酸素や栄養が行き渡らなくなります。すると、すぐに脳細胞の働きが悪くなり半身麻痺、言語障害、意識障害などの症状が現れます。そのままの状態で数時間以上経過すると、脳細胞が壊死してしまう可能性が高くなります。
初期対応が遅れるほど、後遺症が重くなることや死につながることもあるため、発症したらなるべく早く医療機関で治療を受けることが大切です。
○<脳梗塞の種類>
脳梗塞は血管の詰まり方によって次の種類に分けられ、症状の重さも異なります。
・ラクナ梗塞:脳の細い動脈が詰まります。症状の出方は比較的軽く、意識障害が起こらないことも多くあります。
・アテローム血栓性脳梗塞:動脈硬化によって脳の大きな血管が詰まります。ラクナ梗塞よりも症状の出方が重く、意識障害が起こることもあります。
・心原性脳塞栓:不整脈などによって心臓でできた大きな血栓が脳に運ばれ、血管を詰まらせます。脳梗塞の中で最も重症で、意識障害が起こることが多いものです。
その他、若い年代に多い脳動脈解離など、上記以外の脳梗塞もあります。
■夏にも脳梗塞に注意したい理由
上で紹介した脳梗塞の中でも「ラクナ梗塞」と「アテローム血栓性脳梗塞」は、脱水との関係が強いといわれています。
暑い夏、汗をかいた後にビールをたくさん飲んで、そのまま就寝……という人もいるのではないでしょうか。
夏は汗をかきやすく、脱水状態になりやすいものです。すると血流が悪くなり、血栓ができやすくなります。特に夜間の就寝中は、脱水になりやすく、血圧も下がることで血管が詰まりやすいタイミングです。特に寝る前の飲酒も夜間に脳梗塞を起こしやすくなります。
■熱中症と脳梗塞の見分け方
夏に急に具合が悪くなると、熱中症と脳梗塞のどちらか判断がつかないことも考えられます。軽い熱中症と思っていたら脳梗塞だった……ということも起こりかねません。事実、めまいやふらつき、ぼんやりするなど、2つの疾患に共通する症状もあります。
熱中症と脳梗塞の違いを知るために、それぞれの症状を見てみましょう。
○<脳梗塞の症状>
脳梗塞の代表的な症状は「半身麻痺」と「言語障害」です。顔の片側に麻痺がある(顔の片側が下がる、ゆがむ)、腕に麻痺がある(片腕に力が入らない)、言葉が出てこない・呂律が回らないといった症状がひとつでも出た場合は、救急搬送が必要といわれています。突然片側の目が見えなくなる、視野がかけるといった視野障害が起こることもあります。
○<熱中症の症状>
次に、熱中症の症状を段階別に紹介します。気温や湿度が高い中で下記の症状があれば、熱中症が疑われます。
・軽症:涼しい場所へ移動して体を冷やすなど応急処置で対応できるもの
→立ちくらみ、こむら返り、筋肉痛、大量の汗など
・中等症:病院への搬送が必要
→頭痛、吐き気、嘔吐、倦怠感など
・重症:入院が必要
→意識障害、体に触れると熱い、けいれん、手足の運動障害など
熱中症でも意識がない場合、自力で水分が摂れない場合、応急処置をしても症状が改善しない場合などは医療機関への搬送が必要です。
このように、代表的な症状を挙げると異なるように見えますが、実際はふらつき、呼びかけに正しく応じない、まっすぐ歩けないなど、よく似た症状で見分けがつきにくいこともあります。そこで脳梗塞の特徴をおさえて、疑われる場合はそのまま様子を見ないで医療機関に搬送するようにしましょう。
○<突然現れる半身の麻痺は脳梗塞の可能性大>
脳梗塞による運動障害は、体の片側に現れます。腕や脚、顔の「片側だけ」に力が入らなくなったり、しびれたり感覚がなくなることが熱中症との大きな違いです。視野障害(片方の目が見えなくなる、二重に見えるなど)を伴うことがある点も熱中症と異なります。
なお、脳梗塞では頭痛は一般的に見られませんが、脳出血では経験したことがないレベルの頭痛や、嘔吐を伴う頭痛が起こることがあります。このようなひどい頭痛がある場合は救急車を呼びましょう。
■脳梗塞の予防方法
脳梗塞は生活習慣病のひとつで、予防できる病気です。
これは、熱中症の予防にもなりますが、夏の脳梗塞の予防として、脱水にならないようこまめに水分を補給しましょう。「喉が渇いたら水分補給」ではなく、喉の渇きに関わらず定期的に水分を摂るようにしてください。そして、寝る前の飲酒は控え、水をコップ1杯飲むようにしましょう。
特に、夏風邪にかかって発熱や下痢をすることでも脱水になりやすくなるので、意識して水分摂取を。
そのほか、通年で心がけたいこととして、健康的な食事、適度な運動をしてストレスをためないようにしましょう。加えて、定期的に人間ドック・脳ドックを受けるといいでしょう。
最後に暑い時期の脳梗塞に関して、脳神経内科の専門医に聞いてみました。
脳梗塞は、脳の血管が詰まり、脳細胞が壊死する病気です。突然現れる半身の麻痺が特徴的な症状で、特に顔と手、あるいは手と足のように複数の領域に麻痺が及ぶ場合は、脳梗塞の可能性が非常に高いです。たとえ麻痺症状が10分程度で消えたとしても、それは一過性脳虚血発作(TIA)と呼ばれる脳梗塞の前触れであり、脳梗塞と同様の緊急治療が必要です。
予防には、禁煙、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の適切な管理、そして脱水予防が挙げられます。特に暑い時期は脱水しやすく、脳梗塞のリスクが高まります。熱中症と症状が似ていて区別がつきにくいことがありますが、脳梗塞は突然の半身麻痺がポイントです。一方、熱中症は通常、高体温を伴います。
しかし、どちらの病気も時に命に関わるため、気になる症状があればすぐに医療機関を受診することが非常に重要です。
○金井 雅裕(かない まさひろ)先生
一宮西病院 脳神経内科/副部長 / 脳卒中センター副センター長
資格:日本神経学会 神経内科専門医、日本内科学会 総合内科専門医、日本脳卒中学会 脳卒中専門医
(佐藤華奈子)

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