今年は6月半ばに35℃を超える地域があるなど、梅雨に先立って猛暑がやってきた印象だ
今年は6月半ばに35℃を超える地域があるなど、梅雨に先立って猛暑がやってきた印象だ

各地で35 ℃を超える猛暑に見舞われるなど、今年も本格的な夏が始まった。熱中症予防をして真夏を快適に過ごすためには「汗」がポイントになってくるという。汗のかき方の秘訣を皮膚科医に取材!

【図表】2024年の熱中症による救急搬送数の推移

■熱中症対策は「汗」がキー

熱中症で救急搬送される人が最も多いのが7月だ。理由は体がまだ猛暑に慣れていないためだといわれるが、その症状は重度でなくても吐き気や頭痛など、自力で病院まで行くのもつらいほどだ。

熱中症予防をしながら、できるだけ快適に夏を乗り切りたい。そのためには「汗のかき方」がキーになると話すのは、茨城県古河市で「いけがき皮膚科」を開業し、著者に『皮膚トラブルの治し方大全』がある皮膚科専門医の生垣英之先生である。

――そもそも、どうして汗をかくのでしょうか?

「汗の役割として、まずは体温調節が挙げられます。そのほか、肌表面を弱酸性に保ち菌の増殖を防ぐこと、体内の老廃物やアンモニアなどを排出することや、肌の保湿をする役割もあります。

また、汗はアポクリン腺『エクリン腺』から出るものに分かれますが、アポクリン腺は、脇や下腹部などの毛の部分にあり、菌と結びつくと強いニオイが発生してしまうのが特徴です。

一方、全身にあるエクリン腺からの汗も菌と結びつけばニオイが発生しますが、アポクリン腺のそれには及びません。太古の昔には、人間も汗のニオイで他人をかぎ分けたりもしていましたが、それはアポクリン腺由来のものです」

――ニオイでかぎ分ける! 汗をかく人のほうがモテるみたいなことは?

「人の本能的な部分では多少あるかもしれませんが、現代では難しいかもしれません。ただ、健康維持のために汗は必要ですので、汗をかきやすい体づくりが重要です」

――とはいえ、汗には〝冷や汗〟などネガティブなイメージもあります。

「汗は血液中の血漿(けっしょう)が汗腺から濾過(ろか)されて出てくるものですが、濾過がうまくいかずベタベタしている場合やアポクリン腺から出るものを〝悪い汗〟、運動などをしてスッキリかく汗を〝いい汗〟と便宜上分けて考えてもいいかもしれません。

緊張やストレスだけでなく、飲みすぎた翌日やカフェインをたくさん摂取したときに出る汗も、悪い汗と言えます。このような悪い汗は、本来は必要のない場面で余分にかいてしまうことが多いので、脱水症や熱中症などの体調不良につながりやすいです」

――逆に言えば、〝いい汗〟の力で熱中症予防もできるのでしょうか?

「『暑熱順化(しょねつじゅんか)』という言葉があります。これは、体が適切な場面で汗をかくことで体温の上昇を食い止める機能が活性化し、暑さに慣れていくことをいいます。

もう7月ですが、今からいい汗をかく習慣を取り入れれば、暑熱順化して熱中症を防ぐことができます。個人差はありますが、数日でも効果を実感できるはずです。

オススメの方法は運動です。普段運動しない方でも、早歩きによるウオーキングや軽いジョギングなどを週3回を目安に始めてみましょう。
 
あとは入浴も大切。湯船にゆっくりと漬かって汗をかくことが大事です。入浴剤を入れると発汗量が増えますし、リラックス効果も期待できます」

――サウナで汗をかくのも効果的?

厚生労働省のサイトにも載っていますが、サウナは医師としてもオススメです。ただ、健康上問題のない方に限ります。高血圧や不整脈の方、いわゆる血管や循環器系に持病がある方は無理なさらないように。
 
また、夏場は栄養バランスの取れた食事を取ることが熱中症予防のためには大切です。汗をかいた後の水分補給は、カロリーの低いスポーツドリンクがオススメ。塩タブレットなどで塩分補給することもお忘れなく」

――夏は部屋で過ごす時間も長いですが、エアコンの設定温度はどうすればいいでしょうか?

厚労省が推奨する設定温度は28℃ですが、これだと暑いのでもう1~2℃下げてもいいでしょう。ずっとエアコンの効いた部屋にいると、うまく汗をかけなくなってしまうので、軽いストレッチや入浴で汗をかく習慣を取り入れるといいでしょう」

■ミドル脂臭に要注意!

――いい汗をかけるようになったとしても、ニオイ対策は必要ですか?

「たとえいい汗でも、デオドラントケアは必須です。加齢臭『ミドル脂臭』などのニオイに気をつけましょう。

加齢臭はノネナールという成分がニオイの元であり、胸や背中から発生します。一方、ミドル脂臭はジアセチルという成分が元で、後頭部から首にかけて発生します。ストレスや脂っこい食事を多く取ると強くなりますが、ビタミンCやポリフェノールを含む食事を心がけると改善します。

後頭部が発生源なので、しっかり頭皮を洗うことが大切です。1日2回の洗髪は賛否両論ありますが、気になる人は朝も夜も行ないましょう」

後頭部から首にかけて発生する「ミドル脂臭」。使い古した油のようなニオイが特徴的で、30代から始まるという
後頭部から首にかけて発生する「ミドル脂臭」。使い古した油のようなニオイが特徴的で、30代から始まるという

――汗そのもののニオイ対策としてオススメは?

「とにかく、汗をかいたらシャワーを浴びるのがベスト。そして、下着も含めて通気性の良い衣類に着替えましょう。汗で湿ったままの衣類は、雑菌が増えるのでニオイの元になりかねません。

ちなみに皮膚科医の立場では、下着を含め衣類の素材は綿100%がオススメです。また、すぐにシャワーを浴びられない場合は、こまめに汗を拭き取るようにしましょう」

――市販の汗拭きシートや制汗剤は有効ですか?

「どちらも有効です。多くのメーカーから出ているので、どれが一番とは言えませんが、いろいろ試して自分に合うものを見つけるといいでしょう。ただし、シートで肌をゴシゴシ拭くのはNGです。

湿疹ができやすくなったり、かぶれの原因になりますので、優しくポンポンと汗をシートに吸収させるように使うのが鉄則です。使う順番としては、シートで汗を拭いて、その後に制汗剤でニオイを予防するといいです」

――脱毛すると汗のニオイが軽減されることはありますか?

「脱毛すると必ずニオイが消えるということはありませんが、軽減する効果はあります。また近年、大量に汗をかく病気である『多汗症』の脇と手のひらの治療薬が保険適用となりました。

ちなみに、脇の下のボトックス注射(多汗症やワキガ治療)も保険適用です。保険適用には基準がありますが、汗の量やニオイが気になる方は皮膚科に相談しましょう。

最後に覚えていてほしいのは、暑熱順化してうまく汗をかける体になって暑い場所で仕事をしている人でも、長期休暇で数日職場を離れるだけで、体が元に戻ってしまうことです。また、帰省や移動などで疲れがたまるお盆休み明けも熱中症にならないよう細心の注意が必要です」

早速、暑熱順化の習慣を取り入れたい。

取材・文/編集プロダクション雨輝(岡田さやか) 写真/Adobe Stock

今年は6月半ばに35℃を超える地域があるなど、梅雨に先立って猛暑がやってきた印象だ