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 セラピードッグは、人々に癒しや安らぎを与えるために訓練された犬のことだ。

 そばにいてくれることで心身の回復を助けてくれるが、その動画を5分間視聴するだけでも癒しの効果があることが、カナダの研究で明らかになった。

 年齢や性別を問わずストレス軽減効果が確認され、特に女性ではより大きな効果が見られた。

 画面の向こう側にいる「バーチャル・セラピードッグ」は、日ごろストレスを感じている人が精神的負担をやわらげるために、気軽に試せる簡単な方法のひとつになるかもしれない。

 また、本格的なメンタルヘルス支援をためらう人にとっても、社会的偏見なく利用できる手軽なセラピーとして有効な選択肢になると期待されている。

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 この研究は『Human-Animal Interactions[https://www.cabidigitallibrary.org/doi/10.1079/hai.2025.0015]』(2025年5月2日付)に掲載された。

人間の心を癒すセラピードッグの効果を検証

 犬は人を元気にする天才だ。これまでも、犬と触れ合うことで、孤独感や不安が和らぎ、体や心の健康が改善することはよく知られていた。

 特に、人々に癒しや安らぎを与えるために訓練されたセラピードッグの効果は高く、歯の治療が怖い子供たちも、セラピードッグがそばにいれば安心して治療を受けられるとして、導入している歯科医院もある。

 だがセラピードッグと触れ合う機会はなかなかない。どうにかもっと手軽に犬に癒してもらうことはできないものか?

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直接触れ合わずとも、セラピードッグに癒してもらうことはできる/University of British Columbia Okanagan/Freya Green

セラピードッグの動画を見るだけで効果はあるのか?

 そこで、カナダブリティッシュコロンビア大学オカナガン校とブロック大学の研究チームは、直接セラピードッグと触れ合わずとも、動画(バーチャル)だけで癒し効果があるのかどうかを調べことにした。

 この研究のきっかけは、新型コロナウイルスの流行により、大学や福祉施設で行われていたセラピードッグとのふれあい活動が制限され、直接犬に会う機会が減ったことだった。

 研究では、963人の大学生(平均21歳)と一般の成人122人(平均41歳)に、事前に撮影した、セラピードッグ動画4種類のうち、いずれかを5分視聴してもらうという実験を行なった。

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 用意された4種類の動画は、いずれもセラピードッグと女性ハンドラーが穏やかに過ごす様子が収められており、視聴者が安心感や癒しを感じられる内容だった。

セラピードッグの動画撮影の様子  / Image credit:University of British Columbia Okanagan/Freya Green

動画だけでも年齢や性別を問わずストレスが軽減

 参加者は、視聴前後に今感じているストレスを1~5段階(ストレスなし~非常にストレスを感じる)で自己評価し、そのデータに基づいて動画によるストレスの変化が評価された。

 その結果、いずれのグループでもストレスレベルが有意に低下したことが確認された。

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 学生グループでは平均3.33から2.53へと大きく改善。一般グループでも3.07から2.43へと中程度の改善が見られた。

 特に女性の方がストレス軽減効果が高かったが、性別にかかわらず効果はあった。

 また、学生グループと成人グループの間で、年齢の差によるストレス軽減効果の違いは見られなかった。

バーチャル・セラピードッグの課題

 この研究は、わずか5分間の短時間で、低コストで手軽に試せるストレス軽減法の可能性を示している。

 セラピードッグの動画はオンラインで視聴でき、対面や会話、診察の必要がなく、社会的偏見の心配もないため、精神的支援をためらう人でも取り入れやすい。

 一方で、課題もある。

 自然の風景など他の癒し動画との比較が行われておらず、犬そのものの存在が効果の決め手だったかは不明だ。また、セラピードッグと一般的な犬の動画と比べた効果の違いも調べられていない。

 さらに、効果の持続時間や中長期的な影響についても検証が必要だ。

 参加者の大多数が女性(学生グループで80%、一般グループで72%)だったため、男性やその他の性別の人々にも本当に同様の効果が得られるかは分かっていない。

 動画内で犬を扱ったハンドラーが全員女性だったことも、視聴者の反応に影響を与えた可能性がある。

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バーチャル・セラピードッグの可能性

 それでもセラピードッグの動画は、正式な治療の補助や治療までの橋渡し、支援をためらう人に向けた手軽な選択肢として、大学や地域、医療機関での活用が期待されている。

 また、動画コンテンツは、障害のある人、社交不安やトラウマを抱える人など、さまざまなニーズに合わせて内容をカスタマイズできる可能性があると期待されている。

 セラピードッグは、人々に癒しや安らぎを与えることを目的に訓練された犬で、病院や福祉施設、学校などで活動している。

 盲導犬や介助犬のように生活動作を直接補助する役割は基本的には持たず、「癒し」を目的とした存在である。

References: Cabidigitallibrary[https://www.cabidigitallibrary.org/doi/10.1079/hai.2025.0015] / Just press play: Virtual dog therapy can improve mental wellbeing[https://news.ok.ubc.ca/2025/06/24/just-press-play-virtual-dog-therapy-can-improve-mental-wellbeing/]

本記事は、海外の情報を基に、日本の読者向けにわかりやすく編集しています。

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