無人の店舗が増えてきた。コンビニ、ドラッグストア、100円ショップ、書店など、さまざまな業態で広がりを見せているが、その多くは「実証実験中」という看板を掲げたままである。はじめは順調に見えた店舗も、さまざまな課題を乗り越えられず、縮小に追い込まれたケースもある。

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 「こうすればうまくいく」という必勝パターンを見いだせずに模索が続くなかで、店舗をどんどん増やしているところがある。月額3278円のフィットネスジム「chocoZAP(チョコザップ)」(運営:RIZAPグループ)だ。

 ご存じのとおり、チョコザップは「ジムなのにゆるい」ことで知られている。店内のマシンは少なく、鍵付きロッカーやシャワーも備えていない。スタッフも常駐しておらず、お世辞にも「充実したジム」とは言いがたい。それでも、2022年7月のスタートからわずか3年足らずで、全国に1800店舗にまで拡大しているのだ(2025年5月時点)。

 「この数字だけだとよく分からないよ」といった人もいるかもしれないので、他のチェーン店を見てみよう。業態が違うので単純に比較はできないが、スターバックスは1983店(国内、2024年12月末)、すき家は1975店(2025年4月)である。

 スタバの日本上陸は1996年すき家の1号店は1982年。つまり、それぞれ29年、43年かけて築いてきた店舗数に、チョコザップは3年足らずで迫っているというわけである。

●最大の壁は「マシンの故障」

 店舗数が増えていることはよく分かったが、会員数はどうなのか。2025年5月15日時点で135万人に達し、同社によると、国内ジム市場の約3分の1を占めているという。

 数字だけを見ると「急成長しているなあ。でも、スピードが速すぎるので、大きな課題があった……いや、いまもあるのでは?」と疑った人もいるかもしれないが、その通りである。最大の壁は「マシンの故障」だ。

 店内には、さまざまなマシンが並んでいる。背中や肩まわりの筋肉を鍛えるものだったり、心肺機能を高めるランニングマシンであったり、足腰を鍛えるバイクであったり。ただ、SNSを見ると「設置されたバイクが次々壊れているよ」「半年以上放置されたままのマシンも。安かろう悪かろうの印象が強いなあ」など厳しいコメントが相次いだのだ。

 もちろん、何も手を打たなかったわけではない。オープン時に「サポートセンター」を設置し、利用者からの報告をオペレーターが受け付けていた。しかし、件数がどんどん増えていき、対応が追いつかなくなったのだ。

 「なんだかヘンな音がしてうるさいんだけど」「ワイヤが切れているようだけど、どうすればいいの?」といった利用者からの声があれば、近隣のRIZAPトレーナーが現場に駆けつけて対応していた。しかし、2023年9月にチョコザップの店舗数は1000店を突破。一方、RIZAPの店舗数は約100店にとどまっており、その差は約10倍に広がっていた。

 この状況下で何が起きたのか。RIZAPは本業であるパーソナルジムの運営を手掛けながら、チョコザップのマシンの故障にも対応しなければならない。結果として、人手も時間も足りず、現場を十分にカバーできなくなったのである。

●故障率が急上昇

 次に、どのような手を打ったのか。2023年9月に「故障カード」を導入した。各マシンにカードとペンを設置し、異常があれば利用者が内容を記入する。その後、定期的に巡回しているメンバーがカードを回収するという仕組みである。

 しかし「記入→回収」という流れなので、どうしてもタイムラグが生まれてしまう。また、利用者はマシンに詳しくないので、記載された内容が本当に故障かどうか判断がつかないことも。現場を確認した結果、部品交換が必要と分かれば、改めて再訪する必要があり、対応の非効率さが浮き彫りになったのだ。

 そこで2カ月後、2023年11月に「チェックシート」を導入。ジム内に設置されたシートに、異常のあったマシンを記入する方式に変更したのである。「故障カード」と同じような仕組みに見えるが、記入内容は「フレンドリー会員」と呼ばれる協力メンバーが確認し、本部へ報告するという点が異なる。

 しかし、この方法にも課題が残った。手書きのため、記入ミスや内容のあいまいさがネックとなった。また、対応までに時間がかかるうえ、フレンドリー会員でも不具合の場所を正確に把握できないことがあった。

 そこで次の一手として、2024年11月に導入したのが「QRコード」である。マシンに貼られたQRコードから不具合を直接送信できるようにした。

 例えば「マシンの状態に近いものを選択してください」という質問に対して、(1)マシンが正常に動作しない(2)変な音がする(3)マシンの位置がずれている、といった項目があって、それにチェックを入れるだけ。瞬時に「どの店舗」の「どのマシン」に「どのような不具合」があるのかが分かるようにしたのだ。

 このシステムにより、報告スピードと内容の正確性が向上した。結果、どうなったのか。2024年1月の故障率(※)は0.54%、4月は1.14%だったが、QRコードを導入した12月は、6.10%に上昇したのだ。

(※)故障率=(故障台数+故障していないが不具合のある台数)÷総台数

●チョコザップの業績

 ただ、運営側はこの数字を「ポジティブな上昇」ととらえている。執行役員の村橋和樹さんは「これまで『言っても無駄』と感じていた人たちが、QRコードを使って報告するようになり、潜在的な不具合が見えるようになった」と説明する。

 その後、社員の現場派遣や在宅勤務者の協力もあり、直近の故障率は2%弱にまで改善した。ただ、QRコードの導入ですべての問題が解決したわけではない。このシステムの存在がまだ認知されていなかったり、シールがはがれていたりするケースもあり、改善の余地はまだ残されている。

 チョコザップは店舗数を急速に増やしてきたが、その裏ではマシンの故障対応に追われる日々が続いていた。これまでの流れを追ってきたが、肝心の業績はどうなっているのか。

 一般的なフィットネスジムを見ると、月額1万円前後のところが多い。しかし、チョコザップは月額3278円である。ということは「薄利多売のビジネスだろう」と想像されたかもしれないが、実は少し違う。

 店舗数の拡大によって、マシンや備品の出店コストを3割ほど削減している。事業のコストを見ると、家賃が17%、広告宣伝費が12%、その他が40%。結果、営業利益率は31.0%(※)を確保している。

(※)2024年3月末時点で出店後6カ月が経過した店舗を対象に算出

 エニタイムフィットネスを運営するFast Fitness Japanの営業利益率が18.5%、カーブスを展開するカーブスホールディングスが同15.4%であることを考えれば、31.0%の数字がいかに高水準かが分かる。

●無人店舗を増やせた理由

 冒頭でも触れたように、無人でここまで事業を拡大させた例は、チョコザップ以外にない。村橋氏に、なぜ無人の店舗をこれほどまでに増やせたのかを尋ねると、「無人だからですよ」という答えが返ってきた。

 もともと、できるだけ安い料金にするために無人での運営を始めた。では、その無人運営をどうやって続けていくのか。いろいろと試した結果、行き着いた答えは「利用者に“ついでに”手伝ってもらう仕組みをつくること」だった。

 例えば「セルフメンテナンス会員」は、マシンの不具合に対応すると、代わりにAmazonギフトがもらえる。また「フレンドリー会員」は、店内の掃除などをすると、月額の利用料が安くなる。このように、利用者にちょっとだけ協力してもらうことで、たくさんの店舗を人手をかけずに運営できるようになったのだ。

 こうした仕組みは、他の会社でも取り入れられている。例えば「タイムズカー」では、カーシェアを返すときに給油や洗車をすると、料金が無料になったり、安くなったりする。運営側がそれをやると手間やコストがかかるため、利用者に“ついでに”やってもらうことで、効率よくサービスを回しているのだ。

 “無人”をうたいながらも、人の力に支えられている――。チョコザップの成長は、その矛盾とうまく付き合うことで実現しているのかもしれない。

(土肥義則)

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