ここ数年、多くの企業にとって重要な経営課題となっているDX(デジタルトランスフォーメーション)。企業内だけでなく、今や生活や社会にも広く深く浸透しつつあるデジタル技術を活用して、新たな価値を生み出そうという取り組みだ。しかし、DXに成功しているという企業は決して多くない。コンサルティング会社での経験を基にその原因を分析し、成功への道筋を解説しているのが、『Digital Impact』(田中一生著/プレジデント社)だ。同書の内容の一部を抜粋・再編集し、著者が提唱する「DXフレームワーク」の考え方と合わせて紹介する。

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「DX推進が目的化している」「専門部署や外部に丸投げ」「費用対効果が不透明」――DXがうまくいっていない企業によく見られる傾向だが、その根底にあるのが「DXの本質への理解不足」、そして「トップの本気度」だ。

うまくいく会社とうまくいかない会社。その違いは、どこに?

■ DXの本質を外していることが迷走の根本原因

 DXがうまくいかない会社では、しばしば次のような状態がみられます。

課題やビジョンを明確に設定できていない DXに詳しい経営層やDX人材が不足している DX推進を社内のDX推進部門や外部に丸投げしている 技術やシステムの利用・導入コストが高い、費用対効果が不透明 DX推進自体が目的化している DXへの取り組みが一過性 ツール導入によるROIは検討したが、組織・人員の巻き込みが不足している …など

 要は、DXの考え方が十分理解されていないのです。言い換えれば、DXフレームワークを活用できていない。DXが組織横断的、包括的な取り組みにならないため、事業構造の抜本的な改革にまで行き着かないのです。

 これは先ほどみた3社の事例とまさに対照的といえるでしょう。

 DXがうまくいく会社は、事業をデジタル時代にアップデートすべく、組織構造そのものの見直しを図っているのです。

■ カギは包括的な戦略と全社的な体制づくりにあり!

 DXには組織全体で挑まなければならない――。これを裏付ける興味深いデータがあります。経営コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループ(BCG)は、世界11カ国で実施したDXに関する調査結果の日本版を発表(2020年10月)しています。

 この中で、DXに成功した日本企業の8割以上が「ビジョンや優先順位付け、技術と人材、ロードマップ計画を含む包括的な戦略を構築している」と回答しているのです。

 日本の調査を担当したBCGのロマン・ド・ロービエ氏は「企業がDXを成功に導くためには、明確なビジョンと包括的な戦略、それを進めるにあたってのトップのコミットメント、そして実現に必要な組織能力とテクノロジープラットフォームの構築を、攻めの姿勢で大胆に進めていくことが必要」と述べています。

 まさに、DXの成功のカギは、包括的な戦略とそれを実行する全社的な体制づくりにあると指摘しているわけです。

■ トップが本気でコミットしているか?

 特に欠かせない要素の一つが「トップのコミットメント」です。DXがうまくいっている企業の多くは、経営トップが現状に危機感を抱き、「変わらなければいけない」という強い思いを持っています。

 DXはいまや経営課題であり、また部門を横断して実践すべき課題であることを考えると、その旗振り役は代表取締役社長を中心とする経営陣をおいて他にいません。事業変革という大なたを振るうためには、トップをはじめとする経営上層部が陣頭指揮を取ってDXに挑む必要があるのです。

 DXがうまくいかない会社は、この裏返しの状況に陥っています。

 つまり経営層の本気度が低い。そうなると、まず社内を巻き込む力が弱くなります。収益の柱となっている主流部門は既存業務に追われる忙しさもあり、現状維持を望みがちです。DX部門が事業改革を働きかけても対応しきれず、結局DXがかけ声倒れで終わるということは往々にしてあります。

 しかしながら経営者は中長期で事業の成長を見据えなければなりません。目先の課題解決にのみ集中しがちな現場の目線を引き上げつつ、現状を打破する覚悟を持ってDXの旗振り役となり、主流部門や次世代のリーダーも巻き込んでいくことが望まれます。

■ 経営層と一般社員の役割は明確か?

 もう一つ、DXがうまくいかない会社の特徴として挙げられるのが、DX推進における経営層(役員)と一般社員の役割があいまいであること。これはトップのコミットメント不足にも起因するものでしょう。

 DXが事業構造改革である以上、その戦略策定をリードするのは経営層でなければなりません。

 しかし、経営層にその認識が薄いとDXへの関与がおろそかとなり、DX推進を担当する社員が戦略を描くことになります。とはいえ、経営の方向性や予算配分など情報も裁量権もない社員がそれをできるはずもなく、結局DXが形骸化したり頓挫したりしてしまうのです。

 経済産業省はデジタルガバナンス・コードにおいて、DX実現のプロセスを、 ①意思決定、②全体構想/意識改革、③本格推進、④DX拡大・実現、という4段階で示しています。その中で、経営層と一般社員の役割を明確に定義しています(図3)。

図3 DX実現に向けたプロセス

 意思決定と全体構想は経営層が担います。役割の再定義、ビジョンやビジネスモデル、戦略の策定、組織づくり、技術環境や成果指標、ガバナンスの整備といったことはトップダウンで決めなければなりません。いわばDXの土台固めを行うわけです。

 それができたら、DX推進人材や担当者が、人材変革に向けた研修・採用、KPIを基にした成果の振り返り、業務改善、データやシステムの整備、外部との協創などの実作業に取り組むといった具合です。

 このように経営層がDXの旗振り役を務めること、またポジションによって分担を明確にすることはDX推進の要諦といえます。

 これを具現するため、まずは何をおいてもDXフレームワークを全社的に隅々まで浸透させること、そのために経営陣が意識改革して旗振り役を務め、リーダークラスとも危機感を共有することが重要です。

 繰り返しになりますが、DXはあくまで事業戦略や事業目標を実現するための方法論に過ぎません。

 デジタルを通じて事業そのものを革新し強化する骨太の方針をまずは打ち立て、さらにそれを実現するために事業環境やガバナンスを多面的に整備する。そうしてDXをやり遂げなければならないのです。

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