7月3日に発表された米雇用統計が予想外に強い結果だったことを受け、先週のドル円は一時145円台まで反発しました。翌4日には「トランプ減税」法案が成立しましたが、これを受け今週のドル円相場はどのように展開するのでしょうか。マネックス証券チーフFXコンサルタント・吉田恒氏が解説します。

7月8日~7月14日の「FX投資戦略」ポイント

<ポイント>

・注目された米6月雇用統計が予想外に強い結果となり、先週の米ドル/円は一時145円まで反発。

・次の焦点は「トランプ減税」成立への反応。政権1期目は米金利上昇の一方で米国株と米ドルは下落し、「悪い金利上昇」となったが、今回はどうか?

・米金利上昇でも米国株が下落するなら、米ドル/円も上昇から下落へ転換するのではないか。今週の予想レンジは「142146円」。

“予想外”の米雇用統計を受け、利下げ期待遠のく

先週の米ドル/円は、前週に148円から反落した流れを受け、米金利の低下により、日米の金利差(米ドル優位・円劣位)が縮小。一時142円台まで下落しました。

ただ、木曜日に発表された米6月雇用統計が予想外に強い結果となったことで、早期の利下げ観測への期待が後退し、これを受けて米金利が大きく上昇。米ドル/円も一時145円台まで反発しました(図表1参照)。

政策金利と相関性があることから筆者が注目していた「失業率」は、前回の4.2%から4.3%へ悪化するとの予想に反し、4.1%への改善となりました。

失業率から失業率の過去10年平均(10年MA=移動平均線)を引いて求めた「修正失業率」をみると、FFレートとの相関関係はより強まっています。

6月失業率4.1%で修正失業率を計算すると、7月のFOMC(米連邦公開市場委員会)においては政策金利のFFレートは「据え置き」を示唆するものになります(図表2参照)。

雇用統計発表が終わったことで、次の焦点はいわゆる「トランプ減税」に移ります。

トランプ大統領7月4日の米独立記念日に署名し、減税法案が成立しましたが、これが米ドル/円にどう影響するのでしょうか。

“悪い金利上昇”の二の舞?…〈1期目〉と類似する米金利の動き

減税法案は、景気刺激の観点からも財政赤字拡大の観点からも、「米金利の上昇要因」と考えられます。

すでに見てきたように、雇用統計の結果を受けて早期利下げ期待が後退したこともあり、まず注目されるのは週明けの米金利です。米金利が上昇し、日米の金利差が拡大するのであれば、それに連なる形で米ドル/円も上昇する可能性があります。

トランプ大統領は、政権1期目にも大型減税を実施しています。この減税案が成立したあと、米金利は大きく上昇に向かい、それを受けて日米の金利差も拡大に向かいましたが、米ドル/円は逆に下落するところとなりました。つまり、米金利の上昇を尻目に米ドルが下落する“悪い金利上昇”となったのでした(図表3参照)。

このときカギになったのは、株価の動きです。

2017年12月の減税案成立のあと、2018年1月から米国株は下落に向かいました。当時ナスダック総合指数の90日MAかい離率はプラス10%程度に拡大していましたが、これは短期的な“上がり過ぎ”懸念が強くなっていることを示唆するものでした(図表4参照)。

つまり、政権1期目において大型減税の実施後に株価が下落する反応となったのは、すでに短期的な“上がり過ぎ”懸念が強まっていたことから、米金利の上昇がその修正のきっかけになったと考えられます。

こうしたなかで、米ドル/円は結果的に「上がる金利」ではなく「下がる株価」に追随した形となりました。

ナスダック総合指数の90日MAかい離率は先週、プラス12%まで拡大しました。短期的な“上がり過ぎ”への懸念が強まっているようですから、この点は政権1期目の状況と似ています。

では今回、1期目と同様に、減税案成立後に米金利は一段と上昇することになるのでしょうか。そして、米金利が上昇した場合、それが株安をもたらすことになるのでしょうか。

それが、今週のドル円相場における大きな焦点となるでしょう。

今週の米ドル/円は「142~146円」と予想

今週は、トランプ大統領が4月に発表した「相互関税90日間停止」の期限を迎えます。期限の再延長はあるのか、それとも当初の予定どおり、期限まで合意できなかった貿易相手国に対して新たに関税を発動することになるのでしょうか。

4月の相互関税発表後は、「関税ショック」と呼ばれた世界的な株価暴落が起こりましたが、もし今回関税発動となった場合、株価の反応は注目されることになるでしょう。

すでに見てきたように、株価には短期的な“上がり過ぎ”への懸念も強まっていることから、新たな「トランプ関税」の発動も“上がり過ぎ”修正のきっかけのひとつとなり、株安をもたらす可能性もありそうです。

米ドル/円は「関税ショック」以降、142146円をコアレンジとして、それを超えたところは「上ヒゲ」、「下ヒゲ」となってきました(図表5参照)。このため、このコアレンジの142146円をどちらにブレークするかが、当面の方向性を考えるうえで注視すべきところです。

筆者自身は、雇用統計の結果やトランプ減税の成立などを受けて米金利は目先上がりやすいと考えます。

ただ、それを受けて株価がどう反応するか。金利の上昇が株安のきっかけになるようなら、米ドル/円も上昇から下落へ転換する可能性があるのではないでしょうか。

以上を踏まえ、今週の米ドル/円は「142146円」と予想します。

吉田 恒

マネックス証券

チーフ・FXコンサルタントマネックス・ユニバーシティFX学長

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