
米国内国歳入庁(IRS)には、脱税を密告した人物に対して徴収税額の一部を支払う報奨制度が存在します。日本にはまだ導入されていないこの制度ですが、既に70億ドル以上の税金を回収し、報奨金の総額も12億ドルを超えるなど、大きな成果を上げています。なぜここまで成功しているのか? 密告者が1億ドル以上を受け取った驚きの事例や制度の課題と改革動向まで、詳しく見ていきます。
アメリカに存在する「脱税密告者」への報酬制度
現在の日本には存在しませんが、アメリカIRS(米国内国歳入庁)には脱税密告者に対する報酬制度があります。この制度は2007年に発足し、2024年7月時点で2500人の密告者がおり、その密告によって約70億ドル(1兆円)もの税金を徴収してきました。その報酬総額は約12億ドルです。
では、今日までの最高報奨額はどのような事例かというと、元UBSのプライベートバンカーBradley Birkenfeld(ブラッドリー・バーケンフェルド)氏で密告報奨金として1億400万ドルを2012年に受け取っています。ただし、この話には間抜けなオチがつきます。この密告者自身も顧客のオフショア口座の隠ぺいを図り、脱税行為をほう助したとして、3万ドルの罰金と40ヵ月の服役が言いい渡されています。
2023年には121人の告発者に対し、8,880万ドルの報奨金が支払われています。これによって回収された税金は3億3,800万ドルでこの数字は2022年度の回収額2億6,370万ドルを上回っています。
報奨金の受け取りまで時間がかかる?
このIRSの内部密告制度は報奨金を受け取るまでに時間がかかりすぎだという批判もあります。事実、これまでの報奨金の受け取りまでの平均年数は10年以上とされています。米国証券取引委員会(SEC)やアメリカ司法省にも同様の制度があるのですが、これも時間がかかりすぎているようです。
実際、IRSはこの制度を発足させた最初の5年間は1,300件以上の内部告発を受け取っていたにもかかわらず、報奨金は全く支払われていませんでした。これは脱税告発される側が不服を申し立てることにより、脱税額が変化するリスクがあることから、最終的な司法判断が下されるまで時間がかかっていたのですが、2022年にIRSの長官が新しく就任し、改革が行われ現在では担当官も倍増しスピードアップが図られているといいます。
現在の法律では脱税した税金の回収額の15%から30%まで密告報奨金が与えられることになっています。(ただし、脱税額が200万ドル以上の案件に限ります)IRSは2021年時点で、7兆ドル弱の未払いの税金があるということですので、回収に躍起になっているのでしょう。
もちろんIRSが富裕層、パートナーシップ、LLC(合同会社)、法人などをターゲットに税務調査を厳しくしていますが、この告発制度は回収金額が大きい案件もかなりあることから、報奨金を払う価値があるということなのでしょう。
税理士法人奥村会計事務所 代表
奥村眞吾

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