
毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」には、これまでの年金記録と将来もらえる年金額が書かれています。もっとも、ここに記載された年金受給額はあくまでも「見込額」であり、少しの工夫で年金を増やすことが可能です。59歳のAさんの事例をもとに、詳しくみていきましょう。株式会社よこはまライフプランニング代表取締役の五十嵐義典CFPが解説します。
嘘だろ…「ねんきん定期便」に書かれた“衝撃の年金額”
現在59歳のAさんは、都内の某企業に勤めています。26歳で結婚も37歳で離婚、以来独身です。
若いころは職を転々としていたAさん。ただ、いまの会社には15年以上勤務しており、現在の年収は800万円ほど。勤務先の定年は60歳で、その後は年収500万円まで下がるものの、65歳まで再雇用として勤務が可能です。
現在の会社は水が合い、多忙ながらも充実した日々を過ごしていたAさんは、老後の生活については深く考えてきませんでした。ただ60歳が間近に迫るころになって、ようやく「老後」「年金」のことが気になるようになりました。
「このままひとりで老後を迎えても大丈夫だろうか?」
そんな折、59歳の誕生月を迎えたAさんが自宅のポストを開けると、日本年金機構から1通の封書が届いていました。見れば、「ねんきん定期便」と書いてあります。
「ねんきん定期便って、去年までハガキで届いていたよな……?」
Aさんは少し不思議に思いながら、詳しく確認してみることに。
ねんきん定期便が「封書」で届くタイミング
Aさんが疑問に思ったように、ねんきん定期便は毎年の誕生月にハガキで届くのが通常です。ただ、35歳・45歳・59歳には、それまでの年金加入記録の全期間について書かれた封書便で届きます※。
※ 出典:日本年金機構「「ねんきん定期便」は、どのような人に送っているのですか」
Aさんはそれまで、ねんきん定期便の中身を詳しく確認したことはありませんでした。ただ、最近老後について考えていたこともあり、いつもと違うねんきん定期便の内容が気になります。封を開けてみると、そこには将来受け取れる年金の見込額が記載されていました。
65歳からの年金受給見込額の欄は、老齢基礎年金と老齢厚生年金を合わせて「180万円」となっています。
「嘘だろ!? 年180万円ってことは、月15万円……?」
あまりに少ない見込額に、思わず悲鳴をあげるAさん。
しかし、会社員等で厚生年金に加入していた人の老齢年金(老齢基礎年金等を含む)の平均受給額は、月額15万1,312円となっています※。そのため、Aさんの年金受給見込額は平均的です。とはいえ、現在年収800万円のAさんが月15万円を心もとなく感じるのも無理はありません。
※ 出典:厚生労働省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』「厚生年金保険(第1号) 受給者平均年金月額の推移」。なお、令和5年度の金額。
そんなわけない…ねんきん定期便に抱いた“違和感”の正体
Aさんが「これまでの年金加入期間」に視線を移すと、そこには厚生年金加入期間が記載されており、合計390月程度となっていました。
詳細を確認するうち、若いころに1年ほど勤めていた運送会社の分だけ、年金記録に含まれていないことがわかりました。
「そんなに長く勤めていなかったし、厚生年金入ってなかったのかな?……でもやっぱり気になるな。なにかの間違いか?」
疑問に思ったAさんは、運送会社時代の年金記録の調査を日本年金機構に依頼。
すると、その期間、Aさんの記憶どおり厚生年金に加入していた記録があることがわかりました。
「本当に間違っていることがあるんだな。勇気出して問い合わせてよかった」
Aさんは見つかった記録が追加されて安堵します。それと同時に、将来の年金は定期便の見込額180万円よりもまだまだ増額できるのでは気づきました。
すぐに年金事務所に向かったAさんは、窓口で職員に次のように伝えます。
「定年後も、少なくとも65歳までは働くつもりです。勤務先の再雇用で働くと、賞与込みで年収500万円くらいになると思います。この場合、65歳からの年金受給額はどれくらいになりますかね? 『ねんきん定期便』には180万円と書いてあったんですが……」
職員が試算した結果、年金受給見込額は「205万円」という結果に。
年金受給見込額が「180万円」→「205万円」に増えたワケ
ここまでの流れを整理しましょう。59歳の誕生月に届いた「ねんきん定期便」には、受給見込額が「180万円」と書かれていたAさん。しかし、ここに運送会社勤務時代の加入記録が追加され、その分の年金が2万円増えることになりました。
また、再雇用での勤務を希望するAさんは、60歳から65歳までの年収が500万円程度と見込まれることから、5年間勤務すると老齢厚生年金が23万円増えます。そのうちの報酬比例部分として13万円ほど増加し、さらにAさんは長期の未加入期間があったため、経過的加算額として10万円程度増えることになります。その結果、年金受給見込額の合計は「年205万円」となったのです。
「ねんきん定期便」の記載額が正しいとは限らない
50歳以上60歳未満の「ねんきん定期便」には、60歳まで現在の加入条件が続いた場合の見込額が書かれています。つまり、60歳になるまでの記録で計算されているということです。
そのため、60歳以降の加入記録分は含まれていません。つまり、60歳から65歳までの5年間も引き続き厚生年金に加入することにより、59歳時点での受給見込額よりも年金を増やすことができます。
担当職員に年金の仕組みを教えてもらったAさんは、年金受給額を増やすため、引き続き働きたいと考えるようになりました。
厚生年金への加入対象は70歳未満ですから、もし、65歳以降も勤務して厚生年金保険料を掛けられれば、年金は年間205万円よりさらに増やすことも可能です。また「繰下げ受給」を活用して年金を増やす方法もあります。
将来の年金受給見込額を増やして“安心の老後”を
59歳時点の「ねんきん定期便」に書かれた見込額にショックを受けたという話はよく聞きます。ただ、あきらめてはいけません。年金受給額は少しの工夫で増やす余地があるのです。
Aさんのように、これから60代を迎えるような人で未記載の加入記録が見つかるケースは稀ですが、年金は働き方次第で増やすことはできます。したがって、ねんきん定期便でこれまでの加入記録や現時点の受給見込額をしっかりと確認し、早めの年金計画を立てるとよいでしょう。
五十嵐 義典 CFP 株式会社よこはまライフプランニング 代表取締役

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