映像制作のワークフローにおいて、クラウドストレージを利用するケースは割と大掛かりなプロジェクトに限られていたのではないかと思う。例えば映画製作において複数の撮影チームが世界の撮影現場から素材を上げてくるとか、広範囲な災害報道で複数の現場から素材が上がってくるとかいったケースだ。

【画像を見る】「映像屋」が作ったローカルストレージ「Blackmagic Cloud Store」(全8枚)

 だがそうした「キバった」現場ではなく、手分けして編集したいが一箇所に集まれないとか、リモートで仕事を頼みたいといった用途のためにクラウドストレージがうまく使えないか、といったニーズもある。

 長野朝日放送では、ローカル番組「藤森慎吾の信州観光協会」の制作に「Blackmagic Cloud」を導入した。1回のロケで4本分の番組を制作するため、ロケ終了後は4本分の編集が同時に走ることになる。DaVinci Resolveで編集するのであれば、素材と編集作業の共有にBlackmagic Cloudを使うのが最適だろう。

 Blackmagic Cloudは以前もテストしてみたことがある。今回はさらにネットワークストレージ「Blackmagic Cloud Store」をお借りして、Blackmagic Cloudとの組み合わせをテストしてみた。

●Blackmagic Cloud Storeとは

 Blackmagic Cloud Storeはローカルネットワーク上に置く、いわゆるNASのようなものと考えればいいだろう。名前にCloudが付くので説明がややこしいが、これはローカル側のストレージだ。

 製品としてはハーフラックサイズのMini 8TB/16TB、フルサイズのMax 16TB/24TB/48TB、タワータイプでは20TB/80TB/320TBがある。またSSDを直差ししてNAS化するDock 2/Sock 4、USBドライブを接続してNAS化するCloud Podといった製品もある。

 これらは複数の編集システムが1つのネットワークにぶら下がるような、ポストプロダクションやニュースルームなどで使う製品ではあるのだが、これにBlackmagic Cloudを組み合わせることで、また違った意味が出てくる。

 今回はMini 8TBをお借りした。4枚のFlashメモリーRAID 0を構成するストレージだ。背面に10Gbpsと1GbpsのLAN端子があり、USB-Cのネットワーク機能にも対応する。前面には別途、USBドライブとしてマウントするためのUSB-C端子がある。また背面のHDMI端子をモニターに繋ぐと、ストレージの状況がモニターできる。

 コントロールソフトは、「Cloud Store Setup」を使用する。最初の設定時はUSB-C接続する必要があるが、設定でLAN経由でもコントロールできるように変更できる。

 このCloud Storeは、設定でBlackmagic Cloud上の特定のフォルダと同期することができる。同期のパターンとしては、双方が完全に一致する同期、Cloud Storeからクラウドに一方的に同期、クラウドからCloud Storeに一方的に同期の3タイプが選べる。またメディアはプロキシのみ同期するか、プロキシとオリジナルファイルの両方を同期するかが一括で変更できる。

 クラウドには現場から直接プロキシデータがアップされてくることもあるだろう。あるいはどこかでWi-Fiに繋がった際に、オリジナルファイルがアップされてくるというパターンもある。

 DaVinci Resolveはクラウド上の素材を直接読み込むこともできるが、速度面で考えると、プロキシで編集するのが現実的だろう。最終的にはオリジナルファイルの読み込みが必要になるので、やはりメリットがあるのは、クラウド上のオリジナルファイルをローカルネットワーク上のNASに同期することだ。

 編集は、ローカルネットワーク上のCloud Storeに対して行う。LANとUSB-C接続どちらでも作業できる。一応「Disk Speed Test」でテストしてみたが、LANでは100MB/s程度、USB-C接続では40MB/s程度の速度であった。LANは自宅のルータが1Gbpsまでしか対応していない関係でこの速度だが、10Gbps対応環境なら1000MB/sぐらいまで出るはずだ。USBポートはPC側の性能にもよるので、早いポートを探してみるといいだろう。

●運用の実際

 撮影素材のクラウドへのアップロードは、理想を言えばBlackmagic Design製のカメラを使えば一気通貫だが、実際にはカメラの選択肢は多く、そういうわけにはいかない。

 さらに言えば、そんなに急いで現場からクラウドに上げなければならないのは報道ぐらいである。実際には何らかの拠点に戻ってから、カメラのメモリーカードからアップロードすることになる。これにはPCを経由してもいいが、Blackmagic Cloud Podを使うと、これにメモリーカードリーダーを接続するだけで自動的にアップロードされる。

 もちろん事前にアップロード先を設定しておく必要はあるが、素材共有するのであれば事前に他者にも共有場所を知らせておく必要があるので、こうした作業はすでに行われているはずだ。

 カメラにプロキシを収録する能力がある場合は使った方がいいだろうが、プロキシ作成機能がないものもある。この場合はオリジナルファイルのみをアップロードすることになる。

 クラウドに直接入って編集するなら、オリジナルファイルのフォーマット解像度、ビットレートなどの条件によって、十分なレスポンスがえられない場合もある。しかしCloud Storeを間に挟むことで、勝手にクラウドの素材をローカルに落としてくる。つまりCloud Storeがクラウドのキャッシュとなるので、オリジナルファイルを直接扱っても十分なレスポンスが得られる。

 ここで注意すべきは、クラウドとの同期方法だ。双方同期の場合、誤ってローカルの素材を消してしまうと、クラウド側も消えてしまう。そうなるとクラウドと同期している他者のCloud Storeからも連動して素材が消えてしまうことになる。よって編集者側は、クラウドからCloud Storeに一方的に同期するように設定しておく方がいいだろう。

 編集に対する共有者からのアノテーションについては以前にもまとめているので、そちらを参考にしていただきたい。

 さて編集が完成し、プロジェクトとして完了したら、その共有素材や中間素材、プロジェクトデータなどをバックアップし、クラウド上およびCloud Storeを次のプロジェクトに備えて空ける必要がある。

 こうした用途に今年のNABで新しく登場したのが、「Blackmagic Cloud Backup 8」だ。これは価格的にこなれている大容量HDDを差し込むことで、ここにクラウド上のコラボレーションプロジェクトをバックアップする。

 作りとしてはCloud Storeと同じだが、廉価で大容量のHDDを8台まで使えるというのがメリットだ。現在一般的に入手できるHDDの最大容量は22TBだと思われるが、これが8つで176TBとなる。

 バックアップが完了したら、同期設定を削除しておく。こうすれば、ファイルはCloud Backup 8に残ったままで、クラウド上のファイルは削除できる。

 Cloud Backup 8も一種のNASなので、DaVinci Resolveが動くマシンがネットワークに繋がっていれば、ここから素材を引き出して編集することもできる。

 前述の長野朝日放送の例では、番組素材が4回(約1カ月)分で1TBとなっているので、およそ10年程度はバックアップできることになる。それ以上の長期保存の必要があればまた別の方法を考える必要はあるが、当面は運用できると思われる。

 従来のクラウドソリューションは、クラウド上の素材に対してみんなでアクセスするというスタイルだが、ずっとクラウドに素材を置いておくのはセキュリティや秘密保持の関係でどうなのか、といった懸念もあった。だがクラウドはあくまでも中間のパイプとみなして、ローカルのNASに勝手に素材が降りてくる、基本はそれで作業、というスタイルは、テレビ番組制作など作業自体が時間に負われがちなコンテンツ制作では、素材喪失という致命的なミスを防ぐというメリットがある。

 全部をクラウドで直接やるということに抵抗がある現場も、基本はローカルで、というこれまでのワークフローが継承できる点で、安心できるのではないだろうか。