
7月に入り、メッセージには熱中症警戒アラートがバンバン飛び込んでくる。今年も本格的に暑さ対策が必要な季節がやってきた。
【写真を見る】背中から“ガン冷え”できるガジェット「ChillerX」をくわしく見る(全9枚)
女子高生の間ではハンディ扇風機は必須商品となっており、屋外スポーツをやる子供達にはネッククーラーリングの差し入れが欠かせない。また屋外作業者の間では空調服も定番である。
それ以外に、テクノロジーでなんとかするグッズとして、2025年はソニーサーモの「REON Pocket Pro」を紹介したところだが、もう一つ紹介が必要な商品が出てきた。
6月30日にシフトールから発表された「ChillerX」は、夏場の屋外作業やアウトドア活動を視野に入れたガン冷えガジェットである。25年8月上旬発売予定で、価格は送料込みで3万9900円。
シフトールは以前にも、「PebbleFeel」という冷感・温感デバイスをリリースしている。これは仕組み的にREON Pocketに近いものだが、VR空間から制御できたり、公開されたAPIにより外部からコントロールできたりという、ややエンタメ寄りの製品であった。
一方で「ChillerX」は、「着るペルチェ水冷」みたいな製品である。今回はいち早くサンプルを試用する機会を得たので、その使い心地をご紹介していきたい。
●ペルチェによる水冷とは
REON Pocketはペルチェ素子を使って金属面を冷やし、それを首の後ろに当てることで冷感を得るという仕組みだ。接触面積が小さいため、その主要な目的は体を冷やす、体温を下げるというよりは、冷感を感じさせることで清涼感を得ることである。
実はペルチェ素子を直接肌に当てるというのは、大変難易度が高い。そもそもペルチェ素子はCPUなどの発熱チップを冷却するために使われるものなので、ほっとくと情け容赦なくガン冷えするデバイスだ。それを肌にくっつけて低温火傷しない温度でちょっとだけ冷たいという状態をキープさせるには、一般のペルチェ素子ではうまくいかないし、その制御も非常に難しい。
現在は類似商品も数多く出ているが、その道を最初に切り開いたのはREON Pocketであり、この商品が成功したからこそ、比較的穏やかに冷えて制御しやすいペルチェ素子が製造され出回るようになった、という経緯がある。
一方で「ChillerX」は、ペルチェ素子を使って水を冷却し、その水を循環させるという方式をとった。これを「ペルチェチラー方式」と呼ぶようだ。
使用するペルチェ素子は2つで、環境温度から最大35°C引き下げる能力を持つ。実際にはベストの内部をかなり長い距離循環させるため、そこまで冷たい水が流れるわけではないが、肌に直接くっつけるわけではないことから、ペルチェ素子の能力を大胆に使う事ができる。
もともとこのペルチェ水冷方式は、2000年より少し前から自作PCで注目されていた冷却方法だ。ペルチェ素子を使って水を冷却し、その水をパイプを使って循環させ、PCのCPUやボードの熱を吸収する。
ただこれは一部の好事家には好まれたが、一般に広く普及したわけではなかった。そもそもポンプ音がずっと鳴っているし、エコってなんですかというぐらい電力は食うし、冷却水が漏れたらPC内部が水浸しになってショートするというリスクがあった。クロックアップなどした際に、空冷では耐えきれず熱暴走してしまうところを、水冷で無理やり抑え込みたいという、ハイエンドクロックアッパー向けのシステムであった。
それを人間の体でやろうというのが、「ChillerX」である。すでに屋外作業用として、水を循環させて冷却効果を得る「冷水ベスト」といった商品は一般用途でも存在する。ただこれはポンプで水をベスト内にグルグル循環させるだけなので、長時間使っていると温くなるという欠点がある。
「ChillerX」はその循環水をペルチェを使って冷却するため、いつまでも一定温度の水が循環する。冷たさが持続するというわけだ。
●ChillerXの実際
ChillerXの構造は、ペルチェによる冷却システムと水を送り出すポンプが一体となった背面ユニット、そこにパイプでつながった冷却パッドが基幹部品だ。そしてそれらを固定するためにベスト部があるという形になっている。
装着はリュックみたいに背面に背負って、ベルトを前に回して固定するというスタイルである。展開すると十字のシンプルな構造だが、これはユーザーが上記の基幹部品一式を外してベスト部だけ洗えるよう、あえて複雑な立体構造にしなかったものと考えられる。
冷却ユニットが触れる部分は、背面は肩から背骨の両側を通り、そこから脇下を前に回り込んで胸部までとなっている。だいたい肋骨があるあたりをカバーするような配置だ。
背面ユニットにつながったパイプは、外側が送り出し、内側が取り込みとなっている。送り出された冷却水は、いったん一番上まで上って肩の部分を巡回し、そこから下に降りてL字に曲がり、胸部を通ってユニットに戻ってくる。
中を巡回するのは普通の水で、ユニット部の根元のジョイント部を外して入れ替えることができる。ただし水を入れ替える場合は、中に気泡が入るとそこで詰まったりするので、満遍なく充填する必要がある。
またユニットからはコントローラーが伸びており、その先にUSB-C端子がある。市販のモバイルバッテリーをここに接続して使用する。バッテリーを収納するポーチも付属しており、腰からぶら下げられるようになっている。
実際に装着してみた。ベストを装着してバッテリーをつなぐと、いきなり動き出す。コントローラーを長押しすればOFFにできるが、基本的にはバッテリーをつなげばすぐ動くという設計になっている。
装着して1分ぐらいで、循環水が冷えてきたのが分かる。最初は当然、室温程度に暖まっているわけだ。着ている衣類の厚みにもよるだろうが、基本的にはTシャツ程度の上に装着することになるだろう。
筆者は近隣に畑を借りており、毎日水やりや雑草取りなどの農作業をしている。炎天下を避けて夕方に作業することにしているが、それでも日中に土に蓄えられた熱の放射もあり、かなりの暑さである。
だがChillerXを装着しての作業は、「秋なのかな?」と思えるほどの涼しさが感じられた。冷却面積が広く、特に脇の下から胸部にかけての冷却が、体温を下げるのに有効のようだ。発熱したときに脇の下を冷やすと熱が下がるという、ああいう理屈であろう。
装着はベルト固定式で、きつくも緩くも調整できる。ベルトには伸縮性がなく、あまりキツキツにすると動きづらいので、多少緩めのほうが作業はしやすい。
腰のユニット部からは、「バー……」というポンプ音がずっと鳴っている。静かな場所では使えないだろうが、屋外作業ならこれぐらいの音は問題ないだろう。
ユニットは上面吸気、背面および下部から排気される。特に下向きの排気はかなり暖かい空気が出ている。腰のあたりがほんのり暖かいのは、筆者のような腰痛持ちにはかえってありがたい。
●どういう用途が想定されるか
コントローラーによって、MaxとEcoの2モードが切り替えできる。ただしモードを切り替えても、「バー……」というポンプ音は変わらない。ペルチェの冷却温度が変わるだけである。
バッテリーは、今回2万5000mAhの比較的大容量のものを使用したが、Maxモードで連続使用した場合、およそ1時間20分程度でカラになった。Ecoモードでは、同容量バッテリーでおよそ2時間半だそうである。つまりMaxとEcoでは、持続時間が約2倍違うわけだ。
体感としては、屋外作業であればMaxモードは必須のように感じられる。一方屋内作業では、Ecoモードでも十分だろう。
消費電力を測定してみたところ、Maxモードでは約44Wで動作していた。一方Ecoモードは、44Wから5Wの間で変動していた。おそらくポンプの消費電力が5W程度ということだろう。ペルチェは間欠で動かす事で、冷却力を調整しているものと思われる。
製品の構造上、腰部背面にユニットが来ることになる。また背面に向かって排気することから、椅子に座る仕事ではほぼ使用できない。パイプ椅子のように背もたれがあるだけで腰部が空いているような椅子なら、使用できないこともない。だが背もたれ部分によりかかると冷却シートが潰れて水が循環できなくなってしまうので、基本的には立ち仕事用だと思った方がいいだろう。
道路工事や警備、農作業など、屋外での立ち仕事には便利だ。ただ上から制服を着用しなければならない場合は、ベスト部は覆っても問題ないだろうが、腰部のユニット部が隠れないよう露出しておかなければならないのが難しいところである。
屋内作業者では、料理人など火を扱う仕事の人達には便利だろう。エアコンが効いていても、火や窯を扱う仕事は放射熱があるので、やはり暑い。1時間に1回程度は休憩するだろうから、その時にバッテリーを交換するという事になるだろう。
なお構造的には電源さえ確保できれば、連続動作には問題ないそうである。ひも付きでもよければ、(メーカー非推奨だが)USB-Cの延長ケーブルを使って大容量ポータブルバッテリーにつなぐという手もありそうだ。
筆者も屋外作業経験がそこそこあるほうで、さまざまな冷却グッズを試している。空調服は、汗をかいたあとにそれを気化させることで、気化熱を奪うという仕組みである。そのため、汗をかかないと効果がない。また外気温があまりにも上がりすぎると熱風を吹き込むことになり、一定のところで効果が逆転するポイントがある。
水冷ベストも試してみたが、これは水が体温レベルまで暖まるまでは割とあっという間で、その後は効いてるんだか効いてないんだかよく分からない状態になる。また気温が体温よりも暑い場合には、効果がなくなる。
やはり強制的に一定温度にするという構造を持つものが、一番強力である。その点においてペルチェの利用は、理にかなっている。ChillerXは冷却面積が広いので、上半身の冷却効果はかなり高い。交換バッテリーがいくつもいる点については、最低2個あれば使っている間にもう一つを充電して交互に使うという方法でやりくりできる。
一方で、固定用ベルトを4本使わなければならず、構造が複雑で装着に手間がかかる。また冷却システムを取り外してベストの洗濯が必要など、メンテナンスに時間が取られるところは弱点だろう。ただ、そもそも冷却ベストも同じようなものなので、それで不便を感じていない人には、ChillerXも受け入れられるだろう。
いずれにしても、世界で類を見ない異常な暑さを更新し続ける日本において、暑さ対策のさまざまな選択肢がどんどん登場してくるのは、頼もしい限りである。今後も多くのメーカーの参入、改良、競争に期待したい。

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