
作家・宮田愛萌と書評家・渡辺祐真による共著『晴れ姿の言葉たち』(文藝春秋)が刊行された。
ポッドキャスト番組『宮田愛萌と渡辺祐真のぶくぶくラジオ』(TBSラジオ)でパーソナリティを務めたり、同人誌『ミモザ vol.1』を制作したりと、これまでも活動を共にしてきた二人だが、1年にわたる往復書簡という形式では、より深く互いの内面に踏み込んだ対話が交わされている。
本作に込めた思いや、書簡ならではの言葉の交わし方について、二人に話を聞いた。
■■「手紙」だからこそ書けた本音
――本書が“往復書簡”という形式になったのはなぜだったのでしょうか?
渡辺祐真さん(以下、渡辺):編集者の山本さんの提案です。僕たちが「往復書簡をやろう」と言い出したわけではなくて。というか、(宮田に)手紙、嫌いなんですよね?
宮田愛萌さん(以下、宮田):ほんとに苦手なので、話を聞いたときには「マジか」って思いました(笑)。
――山本さんが、往復書簡という形式を選ばれた理由は?
山本さん:お二人の会話って、どんどん話題が広がっていくダイナミックな点が魅力なんですが、もっと時間をかけて、内面に向き合うようなやり取りもぜひ見てみたいと考えたんです。
――互いにじっくり考えながら言葉を紡いでいけるのが往復書簡だったわけですね。今回は言葉を届ける明確な「相手」と、二人のやり取りを読む「読者」がいるという、いつもとは違う書き方だったと思いますが、どのように意識して書かれましたか?
渡辺:僕、普段はすごく具体的な読者像を想像して書くんです。「このテーマならあの人に楽しんでもらえるように書こう」みたいに。これはゲーム会社でシナリオを書いていた頃に、「具体的なユーザーを思い浮かべて書くこと」を常に意識していたからだと思います。でも今回はその逆で、抽象的な「読者」に向けて書いた先に、宮田愛萌という確かな「相手」がいてくれるから、多少乱暴な表現でも大丈夫だろうと思って書きました。
宮田:私はこれまで、小説は自分が読みたいものを書くし、書評はその作品を知らない人にも届くように書いてきたんですけど、今回は完全に祐真さんに向けて書きました。私、手紙が本当に苦手なんですよ。友達に「誕生日プレゼントは手紙がいい」って言われても、「お金で買えるものにして」って断るくらい(笑)。だから書くからには、本気で祐真さんに手紙を書こうと思って書きました。
――それぞれご自身の思いを包み隠さず、率直に書かれている部分も多かったと思いますが、書くかどうか迷う部分はなかったのでしょうか?
宮田:内容自体は「祐真さんにだったら言ってもいいかな」と思えるものばかりだったので、迷いはありませんでした。「恋をしたことがない」っていう話も書きましたけど、もうアイドルではないし、今なら別にいいかなって。
渡辺:僕はむしろ、普段よりアクセルを踏んで、5割増しくらいで書いています。というのも、普段は自分の話を全然しないんですよ。自分のことなんか誰も興味ないだろうし、わざわざ時間とお金をかけて僕の話を聞いてもらうなんて申し訳ないって思っちゃうんです。
でも今回はこういう形式の本だし、もう腹をくくって、「しょうがない、書くか」と(笑)。こんな機会もそうそうないし、どこかで自分の話を聞いてほしい気持ちもあったから、せっかくならできる限りは書いてみようと思っていましたね。
■■返事はなくてもよかった
――宮田さんが書かれていた「私は『可愛くて文章が書ける子』なのです」という言葉は、かなり思い切った表現だと思いました。続けて「間違っても『文章が書けて可愛い子』ではありません」とも書かれていましたが、これはどんな思いで書かれたのでしょうか?
宮田:「文章が書けて可愛い子」じゃなくて、「可愛くて文章が書ける子」っていうのは、みんなそう思ってるんじゃないかなって。私自身もそう思ってるし、別に卑屈になっているわけでもなく、ただそういうふうに見られてるんだろうなっていう実感はあります。
――渡辺さんは、その言葉をどう受け取られましたか?
渡辺:もう2年くらい一緒にいろいろやってるので、「言うだろうな」っていう感じ(笑)。全然驚きはなかったですね。「私は『可愛くて文章が書ける子』なのです。間違っても『文章が書けて可愛い子』ではありません。だからずっと負い目があるのです」っていう部分も、すごくよくわかるし、それが愛萌さんらしい言葉の選び方だなと思いました。
――その一方で、渡辺さんはご自身のコンプレックスについて、「暗くて、キモい顔」と率直につづられていました。
渡辺:ずっと思ってたことなんですよ。今はこうして笑いながら言えるけど、10代、20代の頃は、本当にしんどくて。せっかく今回こんなふうに自分の話を書いてもいい場をもらったから、一番しんどかった話を出しとこうと思ったんです。
――宮田さんはそのことに返事をされていなかったと思うのですが、それはなぜでしょうか?
宮田:私が「そんなことないですよ」みたいな返事をするのって、きっと意味がないなと思ったんです。誰にでもコンプレックスってあるし、他人の言葉で解決するものじゃない。だから、何を書いても蛇足になる気がして。祐真さんにはこういうコンプレックスがあるんだな、ってそのまま受け取るのが一番だと思いました。
渡辺:僕たち、どうでもいいことは会話のキャッチボールをしてるんですけど、大事な話ほど、一人でつぶやいてるだけなんですよね。
宮田:そうそう。
渡辺:昔の話なんですけど、小林秀雄っていう文学者が、すごく落ち込んでるときに、友人の河上徹太郎に会いに行って、黙って一緒にいたそうなんです。悩みを打ち明けるわけでもなく、ただいるだけ。そのときに河上が「沈黙にも相手がいる」って気づいたっていう話があって。それって、すごくわかるんです。
コンプレックスを吐き出すのも、別に答えがほしいわけじゃない。でも壁に向かって言うわけにもいかない。だから隣にいてくれる人がいてくれれば、それでいいんです。もしこれがエッセイだったら、書けなかったと思いますけど、愛萌さんという相手がいたからこそ書けた。だから、返事はなくてもよかったんですよね。
■■意外な一面は「ない」
――本書にはお二人の約1年間にわたるやり取りが収められていますが、改めて気づいた相手の魅力や、意外な一面はありましたか?
渡辺:こういう質問をされといてなんですが、いい意味で「ない」んですよ(笑)。知らなかった話や考え方はたくさんありましたけど、意外性という意味ではなくて、ずっと一貫してる人だなと思いました。読者も、特にファンの方なら「やっぱり愛萌さんってブレないな」って感じるんじゃないですかね。
宮田:私はそもそも祐真さんに対して「意外だな」って思ったことがなくて。やり取りをしていて思ったのは「この人、やっぱりコミュ力お化けだな」ってことです。
渡辺:コミュ力お化け!?(笑)
宮田:めちゃくちゃ思ってます(笑)。ほんとにすごいなって。
渡辺:それは知らなかったな(笑)。
――手紙を通して、お互いに質問を投げかけ合うユーモラスなやり取りもありましたよね。
渡辺:最終的には本からはカットしちゃったんですけど、「無人島に持って行かない13番目のものは?」とか、「人生で一番ヤンチャだった行動は?」みたいな質問もありました。
宮田:「無人島」の回答どうしたんだっけ? ミニスカートとかにした気が…。
渡辺:(カットした原稿のデータを確認して)あ、ミニスカートだ。
宮田:やっぱり(笑)。
――最後に、これまでポッドキャストや同人誌などでも共に活動されてきましたお二人ですが、今後やってみたいことはありますか?
宮田:ショートコント、やってみたいです(笑)。これまであまり、人を笑わせるような面白いことに挑戦してこなかったので、新しいジャンルとしてやってみたいなって。
渡辺:(あっさりと)いいですね。やりましょう。
宮田:本当ですか? 私、やりたいって言ったら、本当にやるタイプですよ?
渡辺:やりましょう。これは社交辞令じゃなくて。ちゃんと“やらされる”やつなんで(笑)。
宮田:「あのとき言いましたよね?」って(笑)。
渡辺:僕は映像をちゃんと一緒に作ってみたいですね。今までもYouTubeに呼んでもらったことはあるけど、外ロケとか、どこかに出かけて撮影したいです。
宮田:(母校の)國學院大學のキャンパスツアーをやりたいです。
渡辺:行きたい! 國學院、気になってたんですよ。可愛いうさぎのマスコットキャラクター“こくぴょん”もいるし、学内に神社もあるんですよね?
宮田:そうです。祈祷室とかもあって、ちょっと変わった大学なので、紹介するだけでも面白いと思います。ここで言っておけば、「撮影に来てください」って大学から声がかかるかも(笑)。
渡辺:大学ってどこも変わったところがありますよね。僕は上智大学だったんですけど、キリスト教系で、「神父しか住んでない建物があって、公用語がラテン語」っていう嘘か本当かわからない伝説がありました(笑)。そういうのってどこの大学にもあるから。
宮田:一緒に行ったら絶対面白いですよ。私には見えない部分を祐真さんが見つけてくれそうだし、その逆もありそう。一人じゃ気づけないことが、二人だと見えてくる気がします。
取材・文=堀タツヤ 撮影=釜谷洋史(文藝春秋)

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