
吉野家ホールディングス(HD)がラーメン事業を強化している。近年、関連企業の子会社化や買収で店舗数を拡大し、製麺業者も買収して製造体制も整えていた。2024年度末時点ではラーメン事業だけで17ブランドを展開している。同社はラーメン事業を牛丼とうどんに次ぐ第3の事業ドメインと位置付けており、今後も事業規模を拡大する方針だ。吉野家が近年に取得したラーメン店の特徴を見ていこう。
●2016年ごろから買収を活発化
吉野家HDは2016年にせたが屋を子会社化した。せたが屋はその名の通り、東京都世田谷区に本社を置き「せたが屋」「ひるがお」「中華そば ふくもり」などの店舗を手掛け、国外ではニューヨークにも出店している。せたが屋は2種類の煮干しを使った魚介系のしょうゆラーメンを提供し、ひるがおは魚介系の塩ラーメンを売りとしている。
2000年に創業し、2016年時点では年商約15億円・14店舗まで成長していた。SNSでも話題になることが多く、吉野家HDは安定軌道に乗ったせたが屋に狙いを定めたとみられる。
続いて2019年には、ウィズリンクを子会社化。とんこつ鶏ガラしょうゆの「ばり馬」、鶏白湯スープの「とりの助」がメインブランドで、買収当時は国内58店舗・海外28店舗を展開し、海外事業にも強いのが特徴だった。地域別では中国地方を中心に展開し、海外ではインドネシアなど東南アジアに出店している。
せたが屋とウィズリンクの買収以降、吉野家HDはラーメン事業で海外出店も進めてきた。2024年にはせたが屋の韓国1号店を出店したほか、ばり馬の欧州初店舗も出している。
2024年には宝産業も買収している。同社は店舗運営ではなく、原料の製造を担う。麺・スープ・タレのほか、餃子やチャーシューなども生産している。スープは豚骨や鶏、魚介ベースなどを取りそろえ、タレもしょうゆ・塩・みそなど一通りのジャンルを手掛ける。宝産業の商材だけでラーメン店が開業できるのが強みだ。
拠点は京都・千葉のほか、アジアや欧米にもあることから、吉野家HDが海外出店を強化する上で、ジャンル・拠点ともに多様な宝産業を選んだと考えられる。国内1200店舗以上を展開する吉野家もそうだが、100店舗以上の大規模チェーンとして展開するには製造拠点が欠かせない。
直近では京都・キラメキノ未来も買収した。鶏白湯らーめんと台湾まぜそばの2軸で提供するブランド「キラメキノトリ」を展開しており、買収時点で京都・大阪など近畿4県に22店舗を出店していた。
●ラーメン注力は今回が初ではない
実は、吉野家HDがラーメン事業に参入するのはここ数年が初めてではない。かつて、2007年にアール・ワンを設立し、経営難に陥っていたラーメン一番本部からラーメン事業を取得している。ラーメン一番本部は180円の激安ラーメンが売りの「びっくりラーメン一番」を展開しており、再建を図ったわけだ。
しかしテコ入れがうまくいかず、約200あった店舗は大幅に縮小。ラーメンを250円に値上げしたものの再起できず、リーマンショックの影響もあって2009年に吉野家HDはラーメン事業を畳んだ。びっくりラーメン一番に対する当時のレビューを見ると、価格を評価する意見が多い一方、味のシンプルさやチャーシューの薄さ、不十分な量を批判する意見も見られる。デフレ時代において牛丼やファストフードなど他業態のチェーンに負けたと考えられる。
一方、再参入で買収したせたが屋、ウィズリンク、キラメキノ未来はラーメン1杯の価格が1000円前後であり、安売り競争をしているわけではない。経営も安定しており、びっくりラーメン一番のように失敗する確率は低そうだ。
●「すき家」「松屋」の後塵を拝している
吉野家HDは祖業である牛丼事業への依存体質を課題としている。国内市場は人口減少が続く上に、直近では牛肉やコメ価格の高騰も課題だ。牛丼業界で最も歴史は長いながら、約2000店舗を展開するすき家に追い抜かれおり、海外でも成長が鈍化している。第2の事業ドメインとしてはなまるうどんを展開しているが、こちらも丸亀製麺に差をつけられた。
すき家のゼンショーHDは回転寿司やファミレス業態を展開するなど、多角化に成功した。テークアウト寿司店のM&Aで拡大する海外事業は既に1万店舗超を展開している。松屋フーズHDも松屋に加え、かつ丼やカレー業態を組み合わせた複合店で多角化を進めてきた。
このような状況で吉野家HDはラーメン事業を第3の事業ドメインとし、拡大させる方針だ。2029年度に売上高400億円、店舗数500を目標としている。ラーメン業界は牛丼や回転寿司など他の飲食業態と比較して大手のシェアが小さく、拡大の余地が大きい業態である。上位3社が圧倒的な牛丼業界と異なり、新規上場が相次ぐなど新陳代謝も活発だ。牛丼・うどんに続く収入源にできるのか、吉野家が展開するラーメン事業の今後に注目したい。
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。

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