
巨人戦でKOされ、登録抹消となったバウアー。そんな悩める大物助っ人の今を追った。(C)産経新聞社
再起のために必要なこととは? 復活をアシストするのは「データ」
開幕前、DeNAにとってトレバー・バウアーは、リーグ優勝に向けた「最大の補強」と目されていた。しかし、6月6日に日本ハム相手に完投勝利を挙げ、周囲を唸らせてから一転、突如として4連敗を喫し登録抹消。その大きな期待に反比例するような惨状となっている。
【動画】果たして挑発か? バウアーの「刀パフォーマンス」をチェック
今季成績も15先発で4勝7敗、防御率4.13と低迷しているプライド高き、元サイ・ヤング賞右腕は、2回途中7失点KOとNPBでは自己ワーストの結果となった6月22日のロッテ戦後も「運が悪かった」と毅然たる態度を貫いた。だが、小杉陽太チーフピッチングコーチは分析の結果、不運では片付けられないと分析。『フォーシーム』『制球』『フィジカル』の3要素を問題とし、改善を図った。
しかし、中5日で迎えた6月28日の巨人戦でもバウアーは6回途中5失点でKO。「何も話すことはありません。先が見えない」と本人が落胆する内容は、再起に向けた道のりが平たんでないことを物語った。
暗闇から抜け出し、再び輝く場所にいかに辿り着くか。データに長けたDeNAは、総力を上げて、再起に向けたプランニングを練っている。小杉コーチは「いままでは情報量がちょっと多すぎたところもある」とし「いまパフォーマンスを上げるために何が必要かというところを1回キチンと整理して、次のステップに進んでいこうとしています」と取捨選択した上で、バウアーに還元していく方向性を示した。
その上で、具体的に計測したデータを元に集中的に取り組むポイントとなるのは、2つ。1つ目は主に身体やフォームなどの動作を確認していく作業。小杉コーチは「バイオメカニクスのところでこういうことが起こっているよという事実を見て、修正ポイントなどを提案しています。ピッチデザインをしているけれども、もしかしたらその理想を実現できるメカニズムではない可能性もあるというところです」と指摘する。
そして、もう1つは「データサイエンティストから上がってきている情報を元にした、球種やロケーション、組み立て方や配球偏りなどの分析」。現実に起こっている事象から引き出しにしつつ、配給などの戦術的な面にフォーカスを当てる。
そして、小杉コーチはやるべきことを精査することで、結果的に両面での良化を目指すことを目論んでいる。
「この2つのことは切り離して話していますけど、実はコネクトする要素だと思っています。それがコネクトすると言う見立ても立っています。ただ、『これをやればこっちも良くなるよ』という解釈になると、いろいろまたおかしくなると思う」
繊細さが求められる取り組みに「今はテクニックの部分とスキルの部分がどう噛み合ってくるかはわからない」と懐疑的な要素もある。それでも小杉コーチは「彼はできると言ってくれていますし、感覚もいい」と早期の1軍復帰もあり得ると予想した。

2年前の在籍時には日本の打者を圧倒していたバウアー。しかし、今季はその面影が見られない。(C)KentaHARADA/CoCoKARAnext
ベンチで捲し立てられたコーチが明かしたバウアーの現況
DeNAが誇るあらゆる叡智をいかに生かすか――。まさに球団としての真価が問われる中で、大原慎司チーフピッチングコーチも「なんとか良い結果につながるように、2軸でやってますね」と小杉コーチと同じベクトルでバウアーの再起に尽力を注ぐ。
「彼があのペースで投げてくれたことで、リリーバーの登板数や先発陣の間隔を空けられて、分散も出来たところもあったので、そこは良かった部分なんですよ」
そう数字だけではない貢献に感謝を示しつつ、大原コーチは、KOされた巨人戦でバウアーがベンチで捲し立てる場面について「僕はそれについてなんとも思っていません。フラットです」と強調。個人的な問題は無く、昨季に“激情家”と揶揄されたもう一人の助っ人投手であるアンソニー・ケイに寄り添った人情味あふれる一面を見せた。
ただ、「内容が伴っていないので、フラストレーションが溜まっている状態なのは間違いなく感じています」と指摘する大原コーチは、不振によるメンタル面の不安定さが誇り高き大物助っ人に小さくない影響をもたらしていると論じる。
「やっぱり彼は自分の軸がしっかりしている。だから、中途半端な提案っていうのは僕らもできないとは思っています。間違いなくスキルはすごいので、僕はそれ以上のスキルがないといけないけど、なかなか違う軸のスキルだったりもするので、結構難しいところはあります。いい提案なんだけど、根拠が薄かったりすると納得もしてくれないし、そこでイラっとするところもある。そういうのはわかっています」
サイ・ヤング賞をも手にした元メジャーリーガーとの関係構築が一筋縄ではいかないことは熟知している。同時に「彼がハイパフォーマンスにつながってくれることが最もいいこと。仲良くすることが目的ではないですから」と管理者としての矜持もある。
それを踏まえて、大原コーチは、あくまでチームありきという考えに思考を巡らせる。
「彼が納得するようにすることは正直簡単なんだと思います。でもそれはチームのことを考えると違う。勝つことが前提にあるので、そこはブレないようにしないといけない。本人が納得するか、しないかだけでアプローチを決めてしまうと難しくなりますし、視野も狭まります。
それが衝突に繋がる可能性もゼロではないのはわかってる。ただ、やっぱり少なからず彼の実績だったりのリスペクトはありながら、気を使うこと、配慮しすぎるのはよくない。その塩梅が難しいのもわかってるんで」
冷静すぎるバウアーの不安さ
ただ、これまでとは異なる“気になる部分”もある。
大原コーチは、今もスケジュールに沿ってブルペンで投球練習もこなしているバウアーについて、「なんとなくスイッチの入れ所を探している感じがするというか、いろんなことへの興味、意欲だったり、投げる意欲はあるんです。だけど、モチベーションのところがフラットな感じがするんです。いつもはもうちょっとスイッチ入ってるような気がするんで……」と冷静すぎる点を不安視する。
「彼が何に今興味があって関心があるのか。やっぱり何かアプローチするなら彼が関心を持ってもらえるようにこれを提案したいですしね。今は正直そこを探りながらアプローチしてるって感じが適切ですね」
投手優位の日本球界の中でも苦しむ“ベースボール・サイエンティスト”は、他球団よりもよりデータを重視する両コーチの経験や分析と、DeNA自慢のIT技術との融合によって、どん底からの大復活を遂げるのか。その行く末が、レギュラーシーズン後半戦の逆襲に大いに影響するのは間違いない。
[取材・文/萩原孝弘]

コメント