米国マサチューセッツ工科大学(MIT)に所属する研究者らが2022年に発表した論文「On Oreology, the fracture and flow of “milk’s favorite cookie」は、オレオクッキーをひねって分離する際、なぜクリームがほぼ必ず片方のクッキーに残るのかを調査した研究報告だ。

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 オレオとは、クリームという流体サンプルを2枚の平行板(クッキー)の間に挟むサンドイッチ型のお菓子だ。研究チームは実験室用レオメーター装置を使って、オレオを一定速度で回転させながら破壊する実験を行った。

 実験の結果、実際に95%のケースでクリームは片方のクッキーに残った。そして、クリームが片方のクッキーに残る理由は製造工程にあることが判明した。

 オレオは製造時、まず1枚目のクッキーにクリームを乗せ、その後2枚目のクッキーを上に置く。この初期接触の違いが、クリームとクッキーの接着力に差を生み出す。製造時に最初にクリームが置かれるクッキー側により強く接着するため、ねじると反対側から剥がれやすくなるというわけだ。

 実験ではさまざまな条件下でのクリームの挙動を測定した。回転速度を変えても、クリームの量が異なっても、フレーバーが違っても、クリームの分配パターンには影響しなかった。ただし、回転速度が速いほど破壊に必要な応力とゆがみが大きくなることから、クリームには粘弾性があることが分かった。

 一方、箱の中での位置によってクリームの付着パターンに統計的に有意な違いが見られた。箱の左側のオレオは右側のクッキーに、右側のオレオは左側のクッキーにクリームが残りやすく、全体として箱の内側に向かってクリームが付着する傾向があった。

 また保存条件が悪い(高温多湿)箱では、クリームが両方のクッキーに分かれる現象が観察できた。これは時間経過によってクリームが流動し、両方のクッキーとの接着が強化されたためと考えられる。

 牛乳に浸す実験も行った。クッキーは牛乳に触れてから30秒で強度の95%を失い、自重で崩壊した。

 この研究は「Oreology」(オレオロジー)と命名されており、オレオと物体の変形や流動の学問「rheology」(レオロジー)を組み合わせた造語となっている。

 Source and Image Credits: Crystal E. Owens, Max R. Fan, A. John Hart, Gareth H. McKinley; On Oreology, the fracture and flow of “milk’s favorite cookieR”. Physics of Fluids 1 April 2022; 34(4): 043107. https://doi.org/10.1063/5.0085362

 ※ちょっと昔のInnovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。通常は新規性の高い科学論文を解説しているが、ここでは番外編として“ちょっと昔”に発表された個性的な科学論文を取り上げる。X: @shiropen2