
老後生活を支える柱となる公的年金。しかし、その重要性と裏腹に、仕組みを正しく理解できていない人も多いようです。ここでは、公的年金の受給タイミングを判断するポイントや、意外に多い「もらい忘れ」について見ていきます。FPが解説します。
公的年金は「繰り下げ受給」を検討しよう
皆さんが受け取ることができる年金額は、毎年届けられる「ねんきん定期便」の情報から探れるようになっています。
ねんきん定期便には、50歳未満の人向けと、50歳以上の人向けの2種類があります。
50歳未満の人のねんきん定期便は、今まで納めた年金保険料から計算した額なので、未来に納める年金保険料を考慮しない額が載っています。つまり、この数字を見ても意味がありません。「ねんきんネット」や「公的年金シミュレータ」を活用して、将来の年金額を試算してみることをお勧めします。
50歳以上の人は明快です。ねんきん定期便に見込額がそのままズバリで記載されています。この金額は、現在の収入が60歳まで継続して60歳で退職、その後は働かなかった場合に、65歳から受け取ることができる年金額です。実際には、60歳以降も働く人も多いのですが、この額がひとつの目安となるでしょう。
公的年金の受給開始年齢は自分で決めることができます。65歳から受給開始する人がほとんどですが、繰り下げのメリットが周知されはじめているのか、繰り下げ受給を選択する人が少しずつ増えています。1ヵ月の繰り下げごとに年金額が0.7%増えるので、例えば、5年繰り下げて70歳受給開始にすると、65歳受給開始の年金額と比べて1.42倍になります。

可能なら、公的年金は繰り下げ受給を選択するといいと筆者は考えていますが、下記のような注意点もあります。
●繰り下げることで収入源がなくなる期間がある
●繰り下げて増額受給することで社会保険料負担が増える可能性がある
●年の差夫婦は加給年金がもらえなくなる
考慮すべきことは多いのですが、それでも繰り下げできないかを考えてみてください。
もし思った以上に長生きしてしまっても、繰り下げを選択していたら、長生きの不安はかなり解消されます。制度としては75歳まで繰り下げることが可能ですが、5年繰り下げて70歳受給開始を目指すぐらいがよいのではないでしょうか。
年金は「ください」と申請しないと受け取れず、勝手に繰り下げられていきます。「何歳まで繰り下げます」と前もって申請する必要はありません。つまり、まずは繰り下げしてみて、生活しながら資産の減り方を確認し、「そろそろ受け取りを開始したいな」と判断したときに申請する、という考え方でもよいのではないでしょうか。
年金の繰り下げ受給、損得だけで決めないほうがいい
繰り下げの話ばかりしてきましたが、「繰り上げ受給」という選択も可能です。最大5年繰り上げて60歳から受給を開始することができます。1ヵ月の繰り上げごとに年金額が0.4%減るので、例えば、5年繰り上げて60歳受給開始にすると、65歳受給開始の年金額と比べて24%減ってしまいます。
繰り上げ受給はデメリットばかりです。早くもらい始めること以外に、うれしいことはなにもありません。いまの生活が苦しくて、どうしても年金を受け取らないと生活できないのなら仕方ないかもしれませんが、繰り上げることなく乗り切れないか、考えていただきたいです。
繰り上げや繰り下げの話をすると、「何歳まで生きたら得なのか」という損益分岐点の話になりがちです。つまり、「繰り下げたのに、早死にしたら損だ」と気にするわけですが、あの世での後悔まで心配しなくてもいいと思うのですが、どうでしょうか。
筆者は、繰り下げは損得だけで決めるべきではないと考えています。何歳まで生きるかはだれにもわかりません。「もし長生きしても、お金に困らないようにする。周りに迷惑をかけないようにする」という考え方が大事なのではないでしょうか。
年金のもらい忘れに要注意
将来が不安だと思っているのに、自分がもらえるはずの年金をもらい忘れている人たちがいます。これほどもったいないことはありません。注意すべき人は、「過去に勤めていた会社を途中で退職(転職)した経験のある人」です。当てはまる人は多いのではないでしょうか。
◆企業型確定拠出年金(企業型DC)の自動移管
企業型確定拠出年金(企業型DC)制度があった会社を途中で退職した際に、移管手続きしないまま放置した場合、退職後6ヵ月後に国民年金基金連合会に自動移管されています。「ちゃんと移管されているならいいじゃないか」と思うかもしれませんが、これがくせ者です。まったく運用されず塩漬けにされ、手数料が引かれ続けるのです。
2024年3月末のデータでは、自動移管された人が129万人で、そのうち57万人が資産0円になってしまっています。非常にもったいないことです。心当たりがある人は、自動移管者専用コールセンターに問い合わせ、iDeCoへ移管するなどの手続きをしてください。企業型DC制度がスタートしたのが2001年なので、20代や30代の人で若くして転職した人などが該当するケースが多いです。


◆厚生年金基金や確定給付企業年金の企業年金連合会への移管
厚生年金基金や確定給付企業年金があった会社を途中で退職した場合、企業年金連合会に移管されています。これも「ちゃんと移管されているならいいじゃないか」と思うかもしれませんが、同じくこれもくせ者です。運用されているだけ先ほどのケースよりはましですが、ここに自分の年金があることを知らない人が多いのが問題です。

若い頃に年金制度の充実した会社に勤めていて、結婚や出産を機に退職した女性で、現在は比較的高齢になっている人が該当することが多いです。住所が変わっているのに企業年金連合会に住所変更の届出をしていないので、いざ年金を受給するタイミングになっても通知が届かないのです。もちろん、転職経験のある男性でも該当するケースは多数あります。
2024年3月末のデータでは、通知が届かずに放置されている人が46万人もいるそうです。これだけの方が、もらえる年金をもらい損ねているのです。
該当するかもしれないと思う人は、企業年金連合会のホームページに入り、「企業年金連合会の年金記録の確認」から個人情報を入れて問い合わせることで、自分の企業年金が保管されていないか確認することができます。この手続きは簡単です。もしも保管されていることがわかったら、速やかに住所変更をするなど必要な手続きをしてください。
50代のお客様の相談に乗ると、筆者の感覚では10~20人に1人ぐらいの確率で見つかります。「ありましたー!」と嬉しそうな連絡をもらうと、筆者もうれしくなります。自分のお金なのですが、お宝を発見したような気持ちになるようです。
小林 篤典 FP事務所 きずな 所長

コメント