
米国の景気後退やバブル崩壊は、なぜか決まって共和党政権下で起きている──。パパ・ブッシュ、ジョージ・W・ブッシュ、そしてトランプ。歴代共和党政権のたびに、市場は崩れ、大きな経済ショックが訪れてきました。背景には、政権交代時のバブル構造や、エリート層の政治的志向、さらにはマネーサプライの変動など、複雑に絡み合う要因があります。本記事では、エコノミスト・エミン・ユルマズ氏の著書『高金利・高インフレ時代の到来!エブリシング・クラッシュと新秩序』(集英社)より一部を抜粋・再編集し、米国経済に潜むリスクと、株式市場の危うい実態を読み解きます。
共和党政権時代に起こりがちなバブル崩壊
米国経済の歴史をあたってみると、過去30年間で米国の景気後退、バブル崩壊はすべて共和党政権時に発生した。
例えば、1990年から1991年。これはパパ・ブッシュ政権時代だった。続く2001年のITバブル崩壊時と2008年のリーマン・ショック時は息子のジョージ・ブッシュ政権。そして、2020年のコロナ・ショック時は第一次トランプ政権と、見事に共和党政権が並んだ。
なぜこうなったのか。一つには、民主党政権が経済を立て直したところで、株式バブルが起き、そのタイミングで共和党への政権交代があったことだ。
もう一つは、これこそ「ディープステート(DS)信奉者」の論議なのかもしれないが、米国の司法・官僚などエリート層は民主党寄りが多いことである。これは事実なのでやむを得ない。
そうした構図から、民主党政権時には企業スキャンダルが露呈することは比較的少ない。ところが、政権が共和党に変わった途端、エリート層に隠蔽するインセンティブが働かなくなる。いや、むしろ“暴く”インセンティブが働いてしまう。
覚えておられる読者諸氏もいるだろうが、エンロン事件をはじめとする米国企業のスキャンダルが暴かれたのは、共和党政権時代に限られていた。
こうした背景を考慮すると、今回の第二次トランプ政権時代に、これまで蓋をされていた経済事件が明るみに出てくるのではないか。気の毒にもトランプはババを引かされるかもしれない。
私にはピタリと符牒(ふちょう)が合うような気がしないでもない。今回の米国株高の主役として君臨するエヌビディアがかつてのエンロンのような立場に追い込まれたら、どうなるのか。
米国株バブルが史上最高値を打つなか、民主党寄りの司法組織・官僚組織が動き始めれば、米国に待ち受けるのは過去最悪の景気後退、バブル崩壊だろう。
これで「トランプ政権は最悪だった」と烙印を押すような展開も無きにしもあらずだ。そんな可能性もわれわれは頭の隅に留めておくべきだろう。
なぜなら、米国の株式市場がここまで野放図に巨大化してしまったことを、われわれは恐怖とともに認識しなければならないからだ。
2025年2月末の米国の株式市場の時価総額は61.4兆ドル。ところが、これだけ株高にもかかわらず、利益は2兆ドルしかない。このことは米国で株式に投資したら、元を取って利益に与(あずか)るには27年間も待たなければならないことを意味する。
そう考えると、米国株は途方もなく“割高”と言わざるを得ない。
米国経済の運命を左右するマネーサプライ
ここでは、米国のバブル崩壊が起きるべくして起きたことを通貨供給量、すなわちマネーサプライ(M2=現金+預金+定期預金+譲渡性預金、日本銀行では2004年4月以降マネーストックと呼称)に焦点を当てる方法から読み解いてみたい。このところの各国の株価はM2に強く影響を受けている。
米国のS&P500とM2の推移を追ってみよう(図7)。M2が減り出したのが、FRBが引き締めを始めた2022年だった。M2を減らす前から、米国株式市場は下降局面を迎えていた。一方、23年4月からM2は横ばいになった。その前に米国株式市場は底打ちした。そして24年に入ってからM2はかなりの勢いで増えてきた。
翻って、日本のM2はどうなのか。図8をご覧いただきたい。日本のM2は、きれいに上がっていき、2024年4月に天井を付けた。同時に日本株の上昇もストップした。それ以降は日経平均が同年7月に史上最高値の4万2,000円を超えると、日本のM2が減少している影響で、株価も歩調を合わせて伸び悩んだ。こうした推移を考えると、米国のM2が増え続けている以上は、株価の上昇が続くはずだった。しかし、それを続けると確実にインフレが“再燃”する。
一方、なぜ日本がM2を止めざるを得なかったのか? 24年4月あたりから円安が加速したためだ。そのせいでM2増加にストップがかかった。
これは日米の景気先行指数の中身を見ても、はっきりと見て取れる。米国の先行貸出指数はいまもプラスで伸びている。それはM2を増やしているからに他ならない。一方、日本の場合はM2がマイナスになっている。しかしながら、日本の製造業関連の実体経済のほうは全部増えている。
また日本ではM2の伸びがマイナスに転じたとたんに、新規住宅着工件数はマイナスとなった。それで日本の不動産価格は天井に近づいた可能性が高い。
結局、経済はすべて通貨供給量によって動いているわけである。
日本に関しては、インフレが暴走して円安が止められなくなったことから、先刻も触れたたがM2増加にブレーキをかけざるを得なくなった。それで不動産価格は天井を打ち、日本株も目先の天井を打った。
他方、米国は2024年末までは株価を伸ばしていたが、2025年3月末には暴落に見舞われた。M2を永遠に伸ばし続けるわけにはいかない。「トランプ・インフレ」を確実に招くことになるからだ。M2を増やし続けるならば、米国はもう一度、ひどいインフレに襲われる。トランプ・インフレに襲われることになると、トランプはインフレを起こした民主党政権を選挙で打ち負かしたのに、“民主党以上”のインフレをつくってしまいかねない。
私が『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社、2022年)を上梓した当時は、ちょうど民主党政権がM2の蛇口を締め出した頃だった。その後、米国株は3割近くも下がった。
今回も3月末に暴落が起きて調整が起きた。米国の悲劇の責任を現政権が一手に負わなければならなくなる。
それでは、どうして米国はここまでジャブジャブにマネーサプライを増やせるのか。この問題に立ち返ることになる。最終的には、ドルが基軸通貨であるということに収斂する。だが、ドルの価値と威信がいまほど“毀損”していることはなかった。
仮に米国が高を括って、自国を世界から隔離してしまうと、ドルの信認はかつてないほどの揺らぎを見せるだろう。
自分たちは財政規律を課さなければいけなかった、マネーサプライをこんなに増やしたのは愚かだった、米国がそんな結論を出したとき、史上最大のバブルが崩壊するのだろう。
エコノミスト エミン・ユルマズ

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