内閣府が発表した2025年5月速報値・景気動向指数で、景気の基調判断が4年10ヵ月ぶりに「悪化」へと下方修正されました。改定値での上方修正が期待される一方、先行きは依然として流動的です。本稿では、最新データから景気の現在地と今後の見通しをエコノミストの宅森昭吉氏が分析していきます。

5月速報値・景気動向、「下げ止まり」から「悪化」へ下方修正

一致CIのなかで、前月差寄与度は+0.63程度あった投資財出荷指数が、刈込対象になり+0.40の寄与度で、0.2ポイント程度の低下要因になった模様。

景気動向指数5月速報値の一致CI前月差は▲0.1になってしまいました。速報値から採用される8系列のなかで前月差プラス寄与度は3つ。そのうちの投資財出荷指数の前月差寄与度は+0.63程度かとみていましたが、刈込対象になり+0.40にとどまったことが、一致CI前月差が紙一重でマイナスになってしまった主因です。

一致CIが前月差マイナス、かつ一致CIの3ヵ月後方移動平均の前月差が3ヵ月連続でマイナスになることで「悪化」の条件を満たし、機械的な景気判断が「下げ止まり」から、景気後退の可能性が高いことを示す「悪化」に下方修正されてしまいました。悪化の表現は2020年7月以来、4年10ヵ月ぶりです。

一致CI前月差で、データが速報値から利用可能な8系列では、生産指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数の3系列が前月差寄与度プラスになりました。自動車部品や完成車の出荷は堅調でした。3月にトヨタ自動車系の部品メーカー、中央発条で発生した爆発事故の影響で一時出荷が滞ったことに絡み、事故の収束後に生産を挽回する動きが続いたとみられます。投資財出荷指数の改善幅は刈り込まれました。  

一方、鉱工業生産財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率、輸出数量指数の5系列が前月差寄与度マイナスになりました。米国向けの輸出の減少などが響き、輸出数量指数が低下しました。

「悪化」判断は覆るか?「労働投入量指数」が逆転の鍵に

5月改定値で、プラス寄与度の労働投入量指数が新たに加わると一致CIが上方修正で「下げ止まり」に戻る可能性あり、現状で過度に悲観的になる必要はない見込み。

しかし、5月の改定値で、労働投入量指数が新たに加わると、ほかの系列の改定状況にもよりますが、一致CIの改定値が上方修正される可能性があり、基調判断も「下げ止まり」に戻るため、現状で過度に悲観的になる必要はないと思われます。

改定値で新たに加わる労働投入量指数(調査産業計)は、7月7日に発表された総実労働時間指数(調査産業計、事業所規模30人以上)と雇用者数(非農林業)の積で求めます。両者の前月比がプラスの伸び率であり、0.2ポイント程度、一致CIを上方修正させる可能性があります。景気判断は綱渡りの状況です。

5月を乗り切っても、6月に潜む「悪化」のシナリオ

ただし、5月が「下げ止まり」に戻っても、6月速報値で「悪化」になる可能性も。

ただし、仮に5月改定値で前月差+0.1になって判断が「下げ止まり」に戻っても、6月の一致CI・前月差が▲0.4とマイナスになり、かつ一致CIの3ヵ月後方移動平均の前月差が4ヵ月連続でマイナスになることで条件を満たしたら、機械的な景気判断が「下げ止まり」から、景気後退の可能性が高いことを示す「悪化」に下方修正されてしまいます。

鉱工業生産指数5月速報値と同時に発表された製造工業生産予測指数の6月前月比は+0.3%の上昇です。一方、経産省の先行き試算値最頻値は同▲1.9%の低下。第1系列の生産指数からして微妙な状況です。

先行き不透明な米国の通商政策同様、景気動向指数の基調判断も紙一重で判断が変化する、はっきりしない状況が続きそうです。

※なお、本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。

宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト

三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。さくら証券発足時にチーフエコノミストさくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。23年4月からフリー。景気探検家として活動。現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。

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