物価高騰が続くなか、給料日を迎えても手放しで喜べない現実。厚生労働省の最新調査によれば、名目賃金は上昇しているものの、消費者物価の伸びに追いつかず、実質賃金は5ヵ月連続のマイナスとなりました。家計の購買力が目減りし続ける現状に、多くの働く人々からは「生活防衛も限界」との声が上がっています。

名目賃金は微増も、実質賃金は続落

厚生労働省『毎月勤労統計調査 令和7年5月分結果速報』によると、全国の労働者1人あたりの現金給与総額(事業所規模5人以上)は30万0,141円で、前年同月比1.0%の増加となりました。名目ベースではわずかに上向いたものの、消費者物価の上昇がこれを上回り、実質賃金は2.9%の減少と5ヵ月連続のマイナス。1年8ヵ月ぶりのマイナス幅と、依然として厳しい状況が続いています。

現金給与総額のうち、月々支払われる「きまって支給する給与」は2.0%の増加、基本給を中心とした「所定内給与」も2.1%の上昇しました。一方で、賞与や一時金などの「特別に支払われた給与」は18.7%の大幅減となっており、全体の増加幅を押し下げる要因となりました。

この傾向は事業所規模30人以上においてさらに顕著で、現金給与総額は33万5,164円と前年同月比0.3%の微増にとどまり、特別給与は29.6%も落ち込んでいます。この時期にボーナスを支給している企業は少なく、多少の金額の変動でも前年比は大きく振れる傾向にあるという事情も加味する必要があるでしょう。

雇用形態別では、一般労働者の現金給与が38万4,696円(1.1%増)、所定内給与は34万249円(2.5%増)と堅調に推移しています。一方、パートタイム労働者の現金給与は11万2,440円(3.5%増)、所定内給与も3.4%増加。時間当たりの給与は1,382円(4.0%増)と、短時間労働ながら高い伸びを見せています。

パートの賃金上昇は、人手不足最低賃金の引き上げ、企業の人材確保競争が背景にあると考えられます。特に流通・サービス業では、パートの確保が事業継続に直結するため、時給ベースでの上昇圧力は強まり、卸売業・小売業ではパート賃金(現金給与総額)が4.9%増、飲食サービス業では5.4%増となっています。

消費者物価との乖離が拡大…実質賃金マイナスは今後も継続か

しかし、こうした名目賃金の上昇が家計の実感に直結しているかというと、必ずしもそうではありません。実質賃金指数は82.8(令和2年平均=100)と、前年同月比2.9%のマイナスであり、実質で見た賃金の購買力は依然として目減りしています。背景には、消費者物価指数CPI)の4.0%、つまり物価が前年比で4.0%も上がっていることにあります。

CPIの上昇はエネルギーや食料品、サービス価格の継続的な上昇が要因とされています。賃金の伸び率がこれに追いつかない限り、家計の可処分所得は実質的に減り続けます。この状況は賞与増などで一時的な改善は見られたものの、すでに2年近く続いており、生活防衛的な消費傾向や節約志向の強まりにつながっています。

労働時間にも陰りがみられます。総実労働時間は月134.2時間と前年比2.0%減、出勤日数も0.3日減少した。特に所定外労働時間が2.1%減少しており、企業が残業を控える傾向にあることがうかがえます。業績や需要の回復に対する不安から、慎重な労務管理が続いているようです。

産業別に見ると、電気・ガス業(5.0%増)や生活関連サービス業(12.7%増)など、一部で高い賃金伸び率を記録する業界もありますが、運輸業(4.9%減)、建設業(1.5%減)といった業種ではマイナス圏に沈んでいます。運輸業では特別給与が半減(▲53.2%)しており、長時間労働と低収益構造の問題がなおも解消されていません。

また、パートタイム労働者比率は31.11%と、前年から0.41ポイント上昇。労働市場における非正規依存の構造は変わらず、特に人手不足が顕著な飲食業(77.8%)や生活関連サービス業(48.5%)などでは、パートなしには現場が回らない状況が続いています。

今後の課題は、企業が物価上昇に見合った賃上げを持続的に行えるかどうかにかかっています。経済界からは、生産性の向上と価格転嫁の両立によって、持続可能な賃金上昇を実現すべきとの声が強まっていますが、実質賃金の回復なくして消費の本格回復は見込めず、経済全体の自律的成長にはつながりにくいのが現状です。

政府は今後の経済対策として、賃上げ企業への税優遇や支援策の拡充を検討していますが、賃金・物価・消費の三位一体での好循環が確立されるには、時間と構造改革が求められます。

[参考資料]

厚生労働省『毎月勤労統計調査 令和7年5月分結果速報』

(※写真はイメージです/PIXTA)